コラム 2016.11.07. 12:15

『珍プレー好プレー大賞』から見る、プロ野球と地上波テレビの関係性

オフ恒例の“あの番組”


 今年もこのプロ野球番組の季節がやって来た。

 5日、フジテレビ系列で『土曜プレミアム・中居正広のプロ野球珍プレー好プレー大賞2016』が放送された。

 昨年に続き、夜9時からのスタート。スタジオには、阿部慎之助(巨人)や大島洋平(中日)、角中勝也(ロッテ)、山田哲人(ヤクルト)らがゲスト出演し、現役選手500人が選ぶ今年の珍プレー大賞には、沢村拓一(巨人)の「とんでもない暴投」が1位に選出された。

 元々、フジテレビ系『プロ野球ニュース』内で放送されていたメジャーリーグのファインプレー集内における珍プレー映像が好評で、その日本版も人気を博し、特番として制作されたのが1983年11月放送の『プロ野球珍プレー・好プレー大賞』だった。

 フジテレビ黄金期が始まろうとしていた昭和58年秋の出来事だ。ちなみにこの約1年前の82年10月に番組スタートしたのが、あの『笑っていいとも!』である。


プロ野球選手が「有名タレント」だった時代


 『プロ野球珍プレー・好プレー大賞』は、85年~04年まで7月と11月にゴールデンタイム2時間の年2回放送。一時番組休止状態から復活した2010年以降の数年間は、年末の午後に1時間の年1回放送となっていた。

 昨年、11年ぶりにゴールデンタイムに復活した際には、80〜90年代の過去映像使用が多かったり、セ・リーグを取り上げる時間が長いと話題になったが、元々あの番組の原点は80年代のプロ野球にある。

 あの頃は巨人戦が130試合すべてが地上波中継され、年間平均視聴率が余裕で20%を超えていた時代。特に80年代中盤の巨人戦中継は、常に視聴率25%前後を記録するキラーコンテンツだった。

 巨人の選手はもちろんのこと、巨人と対戦するセ各球団の選手も、高視聴率の地上波ゴールデンタイムの番組(ナイター中継)で顔が出まくる日々。当時のプロ野球選手は、いわば「日本でも屈指の有名タレント」でもあったわけだ。

 今年の珍プレー好プレーの番宣では、当時の巨人主力選手であったウォーレン・クロマティが懐かしのタレント枠で「スペシャル審査員」としてテレビに出演しまくっていたことが、それを証明している。

 今となっては信じられない話だが、30年前の小学校高学年の男子ならば、セ・リーグ各球団のスタメン選手の名前くらいは一般常識として知っていた。

 『カルビープロ野球チップス』のカードを集め、ファミコンの『ファミスタ』でプロ野球と触れる日常。だから当時の珍プレー好プレーのようなテレビ番組も「視聴者は登場選手を知っているはず」というのが前提で作られていた。そのベースにあったのは、テレビをつけたら必ずやっている地上波ナイター中継と、毎晩のフジテレビ『プロ野球ニュース』だったように思う。


時代とともに求められる“変化”


 対照的に、現在のプロ野球の視聴環境は大きく変わった。巨人戦の地上波中継は激減し、代わりにスカパーのプロ野球セットや「パ・リーグTV」などの動画配信サービスが普及。それぞれのライフスタイルに合った視聴方法で、好きなチームをとことん追いかけられるようになった。

 BS/CS放送やネット中継と選択肢は多数あり、例えば新幹線の移動中でもスマホやタブレット端末で自分の好きな時間に試合映像を見ることも可能だ。04年の球界再編以降は地元チームを応援する文化も定着し、皆同じような方法と見方でプロ野球と接していた頃とは状況が違いすぎる。

 だからこそ、そういう時代に制作される地上波テレビの『プロ野球珍プレー・好プレー大賞』のような番組は立ち位置が難しい。「広く浅く」か、それとも「深く狭く」か...。

 どちらにせよ、80年代や90年代の過去映像を多用した番組構成には寂しさを感じる。今年もせっかく日本ハムと広島の日本シリーズが盛り上がった後だけに残念だった。

 この10年、猛スピードで変化を続けるプロ野球界。それを伝えるメディア側も、いつまでも80年代の価値観ではなく時代に合った変化が求められる。

 今は昭和91年ではなく、平成28年なのだ。プロ野球番組にせよ、歌番組にせよ、過去のヒット曲にすがりつくジャンルに未来はないだろう。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
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