ニュース 2018.05.28. 11:30

「怪物」大谷翔平の影響力【深澤弘のショウアップナイターヒストリー】

岩手県の2強


 今週も大谷君にまつわるお話をしていきたいと思いますが、今回は盛岡大学附属高校という学校のお話からしていきたいと思います。

 岩手県の高校野球というと、菊池雄星、大谷翔平の母校・花巻東高校が有名ですね。そして、花巻東と並んで、もう1つの強豪校と言われているのが、盛岡大学附属高校という学校です。花巻東が1956年、盛岡大学附属高校が1958年にできた学校なので、この両校は本当にライバルで、歴史もほぼ同じなんですね。

 この盛岡大学附属高校というのは、学校のスローガンとして、「いつも喜んでいなさい」「絶えずお祈りをしなさい」「すべてのことに感謝しなさい」といったことを柱にした、いわゆるキリスト教の学校なんです。野球も近年は非常に強くて、春4回、夏10回の出場歴を持つ甲子園の常連校です。

 一方、花巻東高校は、春3回、夏8回の、これまた同じような経歴を持っている、甲子園の常連校で、菊池雄星(西武)がエースだった2009年の春には、甲子園大会で決勝に進出。この時は清峰高校に0対1で敗れて優勝はできなかったんですが、岩手県勢としては初めての決勝進出でした。そして2009年、その年の夏にはベスト4に残り、すっかり強豪になりましたね。

 しかし残念なのは、これだけの強豪校がありながら、まだ深紅の大優勝旗が東北へ渡ったことはないんです。


盛岡大学附属高校の変貌!?


 この両校で特に注目したいのが2013年の春、盛岡大学附属高校が出場10回目にして、初めて甲子園で初勝利をあげたんです。この2013年の春ともう1つ、打撃のチームと言われた2016年夏の盛岡大学附属高校は、甲子園で11得点を記録したんです。

 地方の学校というのは、たまたまその時に凄いピッチャーが1人いて、その1人のピッチャーを中心に、守備のチームを作って甲子園へ行く、というのが多いんですけど、この時の盛岡大学附属高校は打撃型のチームで、岩手県代表が「打撃のチーム?」と言って、みんな驚いたことがあります。

 なぜ、急に盛岡大学附属高校が、そんな打撃のチームになったのだろうと思っている時に、5月12日の日刊スポーツ「野球の国から」という記事で、盛岡大学附属高校の関口清治さんが新聞で色々なお話をしていて、そこに面白い秘密があったんです。


甲子園出場=打倒!大谷


 話は戻りますが、2012年夏の大会を前に、盛岡大学附属高校の面前に立ちはだかったのが、花巻東高校の大谷翔平です。まずその前年(2011年)に、秋の県大会の準々決勝で大谷をまったく打てずに盛岡大学附属高校は敗れました。従って、もし甲子園へ行けるとしたら、あの大谷というピッチャーを打つ以外ない。彼を打つことだけ考えて、後の他の学校のことは放って置く。

 とにかく、どうやったら大谷から点が取れるか、ということを考えて。選手を集めると言っても、岩手県内からは、たくさんの選手は集まらない。ちなみに、花巻東高校も盛岡大学附属高校も、あまり他県からは選手を呼んでいないんです。

 その記事の中にありましたけれど、岩手県内の球児の中から、出来るだけ良い選手を探して、本当に岩手県代表の魂を持ったプレイヤーとして甲子園に送るというのが、岩手県勢の考え方。従って、盛岡大学附属高校も、大谷を打ちたいんだけれど、外から、色んな打撃の良い選手を持ってくる、というような発想はなかったんですね。


打つための狙いと見極め


 とにかく大谷を打つためにどうしたら良いか、ヒットで出たランナーをバントで送り、ランナー2塁。と言っても次のバッターがタイムリーを打つ確率は、非常に低い。そんなことじゃ点は取れない。それならば、長打2本を繋げて、大谷から1点を奪う方が、考え方としては現実的だと。

 ということを盛岡大学附属高校の関口清治監督が考えて、練習方法も、(マウンドからバッターボックスまでの)18.44メートルの距離を5メートルつめ、13メートルの近距離から思い切って投げさせて、それをバッターに打たせる、この練習をしたそうです。

 大谷のボールは選んだって打てないと。とにかく大谷のボール、何かを捨てて何をやったって、何も打てないと。まず低めのワンバウンドを見極めることが大事だと。低めに来るワンバウンドは、フォークボールかスプリットで大体ボールになるから、低めのボールを見極めるのが大事だと。

 それから振らなければそういうものはボールになると。低めのボールを見極めることで、ボールに手を出さないと、どうしてもあの大谷翔平と云えども、ストライクを投げざるを得なくなると。ストライクが来れば、打てる範囲以内に、ボールが来るんだから、それだけでも可能性が生まれてくるんじゃないかという。これが関口清治監督の究極の考え方なんですね。


“三冠王”落合の考え方と大谷対策


 そういえばこれ、全く関係ないんですが、落合博満さんがよく言っていたものです。

「俺がやっぱり嫌なピッチャーってのは、新人とか、急に外国から来て得体の知れないピッチャー。大体ボールがどこに来るか分からないからねぇ。ところが各チームのエースっていうのは、必ずストライクを投げて来る。変な荒れ球ではなくて、各チームのエースというのは、必ずストライクを投げて来る。それを狙えば良いので、その方が打てる確率は非常に高い」と。

 盛岡大学附属高校の関口清治監督も、大谷のボールは選んでも打てないと。とにかく低めの、ワンバウンドするような、ボールは見極めること。絶対にこのボールには手を出さないこと。

 そうすれば、絶対大谷だってストライクを投げる以外ないのだから、そのストライクを狙おうということで、バッターボックスまでを短い距離にし、バットを強く振ることによって長打の確率が上がるという計算でやったんです。それで練習の日にちも、5日間のうち守備に4日間費やしていたものを反対に、守備はやめて、やめてというかある程度にして。4日間をほぼ打撃にして、ただただ大谷翔平対策を行う。

 その結果、1日の練習試合で、他のチームと練習する時に、大体1日2試合くらい行いますが、その時に盛岡大学附属高校はホームランを10本打った試合もあったそうで、大谷以外の投手なら簡単に打てるというようなチームになった。

 そして2012年の夏の岩手県の決勝で、大谷に15個の三振を奪われる。しかし、二塁打2本を含む9本のヒットを放って、大谷の剛速球を打って、甲子園へ行ったわけなんです。


打倒大谷!が原動力に


 この辺りからすでに、いわゆる大谷という怪物がいて、怪物退治に岩手県の高校が色んなことをやって、しかもその怪物が更に成長して、日本のプロ野球で活躍し、アメリカに活躍の場を求め、更にアメリカで、なお怪物として活躍しているというのは凄いことですよね。

 大谷がいたお陰で、盛岡大学附属高校が練習方法を変えたり、強いチームになって、未だに岩手県の花巻東と盛岡大学附属高校というのは、岩手県の2強を形成しているわけですが、思わぬところから野球も強くなり、学校も有名になるなど、これも考えてみると、大谷君のお陰なのかもしれませんね。


(ニッポン放送ショウアップナイター)

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