ニュース 2018.09.03. 11:30

ドラフト制度誕生秘話『あなた買います』【深澤弘のショウアップナイターヒストリー】

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いよいよ迫ってきた“運命の一日”

ドラフト制度のキッカケ


 むかし『あなた買います』という、非常に有名な映画があったのですが、今週はその映画の主人公になった穴吹義雄さんについてお話したいと思います。

 この穴吹義雄さんは元南海の選手で、今年の7月31日、敗血症のためお亡くなりになりました。85歳。この「あなた買います」というのは、スカウトがプロ野球選手に提示するお金のことで、12球団が穴吹さんをとりに行ったときの話です。

 穴吹さんがどんな選手だったかというと、高松高校から中央大学を経て、1956年に南海に入るのですが、中央大学時代は圧倒的な強打の大型三塁手。東都大学リーグの首位打者を獲得したり、プロ野球も全球団がアプローチするほどの大型バッターでした。身体も大きくて動きも良く、性格も良い。何とも言えない雰囲気を持ったプレイヤーでした。

 最終的には、当時南海の鶴岡監督が手に入れるのですが、契約金の額が分からないので、相当のお金を出したと言われています。負けじと他の11球団も同じように相当の金額を提案しました。

 そこであるノンフィクション作家が、「あなた買います」というタイトルをつけて小説を書き、それが映画化されて、大変評判になりました。これが後のドラフト制度を作る際の1つの大きなキッカケになります。そんなにお金を無尽蔵に出して良いかということが、話題にもなりました。


注目を集めた穴吹義雄


 穴吹さんは、のちに外野手になります。1166試合814安打89本塁打404打点、通算打率.264。稲尾、土橋、米田。当時のパ・リーグの一線級のピッチャーたちに徹底してマークされ、思うような成績を残せませんでした。

 引退後は、南海の二軍監督に就任した後、南海の監督。後にダイエーの編成部長まで務め、野球界との縁を切るわけです。巨漢でしたが酒は飲めず非常に静かな人物で、多くの人から愛されました。

 グランドから去った後は、毎日放送の解説者として、しばらくマイクの前に座っていました。当時ニッポン放送ショウアップナイターの解説も、何度か穴吹さんの解説でお送りしたことがあります。

 穴吹さんは1956年(昭和31年)、南海に入った時、初年度は123試合で打率.274、本塁打が15本で、51打点。「あなた買います」と大騒ぎされた割には……とも言われたわけですが、先ほど申し上げた通り、彼の将来にかかる期待、それから彼の人柄。そういったものトータルで評価されたわけです。

 昭和34年、南海は日本シリーズでジャイアンツに4連勝します。その時、トップを穴吹義雄さんが打って、1番バッターとして14打数2安打とヒットは少なかったのですが、トップバッターとして果敢に攻めて行って4連勝したということで、この日本シリーズは穴吹さんが大いに男をあげたシーズンでした。


東京六大学のスターたち


 その後、穴吹さんから何年か遅れること・・・ニッポン放送のプロ野球は昭和33年に長嶋、杉浦、それから森徹といった、東京六大学のスタープレイヤーが入って来て、またまた「あなた買います」的な、お金的な人気も沸騰するわけです。

 長嶋さんとジャイアンツの契約金が1800万。そこから類推すると、穴吹さんはその3年くらい前ですから、南海との契約金も恐らくそのくらい貰っていたのではないか、ということで、とにかく大変な時期でした。

 昭和33年の長嶋さんの1800万がどのくらい凄いのかというと、私も昭和33年にサラリーマンになってアナウンサーになったのですが、アナウンサーの最初の月給っていうのが1万800円なんです。で、長嶋さんは1800万。えらい違いです。今のサラリーマンとプロ野球選手より差があると思います。大きなお世話になりますが、穴吹さんはもうちょっと貰っていたような感じもします。

 いずれにしても穴吹さんは、期待されたほどの活躍は出来ずにプロ野球を去るわけですけど、とにかく彼を題材とした『あなた買います』という名前が有名なくらい、プロ野球界にとっては衝撃的な出来事でした。


ドラフト制導入へ


 そういうことの延長として、昭和33年に選手の契約金問題がありました。長嶋さんが入団した後ですが、衆議院の文教委員会で公聴会が開かれて、プロ野球の代表がそこに呼ばれています。

 高い金を払い過ぎる、青少年の教育のためにも良くない、何でまだまだプロ野球がそんなに軌道に乗ったとは言えないのに、何千万というお金を平気で払うんだと、かなり文教委員会で多くの議員から非難を浴びました。

 そういったことがあって、それが昭和40年、1965年のドラフト制度に繋がってきます。契約金の最高額は1000万。第1回ドラフト会議は11月17日。ごく普通の会議室で開かれまして、その時のドラフトで入って来たのが堀内恒夫さん(巨人)。それから広野功さん(中日)。それから鈴木啓示さん(近鉄)、藤田平さん(阪神)。こういったところが入ってきました。全員が契約金1000万円の頭打ちで入団します。

 その時の、未だに堀内さんなどは、「あのお陰で俺は金を貰い損なった」って怒っていますけど…。ようやくその「あなた買います」的な話題がなくなって、少しはプロ野球のお金に対する感覚というのが普通になってきたわけです。

 この直前ですね、昭和39年、埼玉県の上尾高校から東京オリオンズに入団した、高校出て入団した山崎裕之さんが、契約金として5000万円を貰ったんですね。これがドラフト制度に輪をかけて、急いでドラフト制度を作らないといけないとなり、すぐにドラフト制度ができたわけです。

 いま考え直しても山崎さんは大変な額を貰ったんですが、でもこの人はこれに見合う活躍を充分にして、後に西武ライオンズのコーチになり、今も時々解説をされておりますけれど、非常に良い選手でした。ただやっぱり世の中は、高校を出たばかりの生徒に5000万はないだろうということで、許さなかったですね。

 今年も高校には良い選手がたくさんいるので、上限が決まっているとはいえ、スカウトの間で値段をつけていると思うんですね。これからドラフトまで、どういう風にプロ野球のスカウトたちが手に決めていくのか、これは非常に面白いところだと思います。

 今はドラフトという非常にしっかりした制度ができていますが、こういった事件があって、日本の野球の大きな1つの区切りができたと言っても良いと思います。


(ニッポン放送ショウアップナイター)

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