ニュース 2019.01.28. 13:40

筒香が語った日本球界改革への思い

フリーアナウンサーの節丸裕一が、スポーツ現場で取材したコラムを紹介。今回は、少年野球から高校野球まで、日本の野球界にある「勝利至上主義」の改善を訴えた筒香嘉智の記者会見について解説する。


日本外国特派員協会で会見したDeNA・筒香嘉智=2019年1月25日 東京都千代田区の日本外国特派員協会 写真提供:産経新聞社

1月25日、日本外国特派員協会での記者会見。「子供達のため、野球界のために」と切り出した筒香嘉智の言葉は子供達への愛情にあふれていた。

日本における少子化を何倍も上回るペースで野球人口の減少が進んでいるというデータも紹介し、日本の野球界の問題点を指摘して改善を訴えた。

筒香が問題視する「勝利至上主義」。選手の将来的な活躍よりもいまの結果を重視し、目の前の勝利にばかり囚われた考え方は、子供達から野球本来の楽しさを奪い、ときに子供のケガなど健康面にも悪影響を及ぼしている、という指摘だ。昔より大会数も増えているなか、そのほとんどが1度負けたら終わるトーナメント制のため「勝ち続けるためにメンバーが固定され、試合に出られない子は野球が楽しくなくなってしまう」。同時に、勝ち進めば日程的に厳しくなり、試合に出続ける子の体への負担は大きくなる。筒香は「子供達が無理をしすぎて手術をしたり、ケガをして野球を断念したケースを何度も見てきた」と明かし、こうした弊害をなくすため、リーグ制の導入やルールとしての球数制限の導入、さらには長時間練習の制限を訴えた。

リーグ戦であれば勝っても負けても一定数の試合があり、選手の計画的な出場機会の確保と、一部の選手への過度な負担の防止が期待できる。トーナメントで行われて来た過去の歴史を変えたくないという声もあるし、球数制限についても「野球がつまらなくなる、待球作戦が出て来るという声もある」のが実態だが、それでも「子供達の将来を考えることがいちばん」と話す筒香。自身も球数制限があるWBCに参加した際は「試合をするなかで違和感はありませんでした」と振り返った。

高校野球について筒香は「教育の場と言いながら、ドラマのようなことを作ったりすることもある」と指摘。主催が新聞社であることにも触れて「子供達のためになっていない部分をなかなか伝えきれていないのが現状」と話した。それを聞いて、私の頭に浮かんだのは昨夏の金足農だ。公立高校ながら甲子園の決勝まで進んで話題をさらったが、県大会から甲子園の決勝まで9人野球を貫き、疲れの見えるエース吉田に決勝の途中まで1人で投げさせ続けた。私はこれこそ勝利至上主義の弊害が出た最たる例だと思うが、甲子園大会がもしリーグ戦であればこうした起用法はなかったかもしれない。


【第100回全国高校野球】決勝 金足農業(秋田)-大阪桐蔭(北大阪) 優勝した大阪桐蔭ナイン=2018年8月21日 甲子園球場 写真提供:産経新聞社

勝利至上主義は普段の指導でも見られる。「指導者の罵声、暴言、子供達ができないことに対して苛立って怒っているところを僕自身も見て来た」という筒香は、普段から「子供の失敗やできないことを怒るのは絶対にダメ」と話している。失敗を恐れず何回も失敗しながら新しいチャレンジをしていくことが成長につながるという考えだ。「スポーツマンは対戦チーム、仲間とお互いにリスペクトしあう。指導者と選手の関係も同じ目線、同じ立場でリスペクトしあい、信頼関係が生まれて、子供達は成長していくと思う」と、野球だけにとどまらない人間形成の部分にも踏み込んだ。

筒香は2014年は個人的に、15年はウィンターリーグに参加するためにドミニカ共和国を訪問し、日本との指導方法の違いを実感したという。「多くの日本の指導者とは違って子供達に答えを与えすぎることがなく、決して選手に無理をさせない指導だった」と振り返る。 日本も世界有数の野球先進国だが、日本の10分の1の人口ながら、日本の10倍のメジャーリーガーを輩出しているドミニカ共和国など他国から学ぶことがあってもいいだろう。そして、自分で考えて行動する力をつけることは野球以外でも将来役に立つはずだという主張はもっともだし、「野球界も勝利史上主義ではなく、スポーツの本当の意味を理解して、野球の価値、スポーツの価値をみんなが高めていく、そういう行動が必要ではないか」という言葉に深く頷かされた。

少子化を上回るペースで減少していると言われる野球人口。まずは野球をはじめる子供を増やしたいところだが、筒香がスーパーバイザーを務める堺ビッグボーイズの選手の保護者からは「(他の)チームに入ろうと思っても指導が怖くて入部できない、練習時間が長く子供が遊ぶ時間も勉強する時間もない、お茶当番などがあり母親の負担も大きい」といった声が聞かれたという。私が思うには、これこそが子供が野球チームに入れない最大の理由の1つだ。本人が野球をやりたければ気軽に始められるような環境を整える必要がある。

筒香も気遣っていたが、少年野球は自身の仕事を持つボランティアの指導者が大半で、彼らに多くを求めるのは酷かもしれないが、それでも子供の将来がいちばん大切なはずだ。「指導者は最新の指導法を勉強して、指導者自身が成長、アップデートしていくことが必要」と筒香は繰り返した。

「子供を守るのは大人。大人が守らないと子供の将来は潰れる」。 質疑応答を含めると1時間以上に及んだ会見で、筒香が何度となく口にした「子供達の将来」という言葉。筒香の強い思いを感じずにはいられなかった。 侍ジャパンの主砲でもあるDeNAの筒香嘉智が勇気を振り絞って発した声は、全国の指導者の耳に届くはずだが、古い固定観念を打ち破って野球界を変えて行くには、大きなエネルギーと時間が必要だ。同じ考えを持つ仲間として、私もできることをやっていこう、とあらためて思わされた。
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