巨人・畠の「打たれ方が異常」だった!?
今週もジャイアンツのお話をしたいと思います。
開幕直後の話になりますが、4月14日、東京ドームでの巨人-ヤクルトの3回戦。ジャイアンツ先発の畠世周の立ち上がりをヤクルト打線が攻め立て、3回で打者20人、9安打、6点を奪って畠をノックアウトしました。そんな簡単にノックアウトされるピッチャーではないんですが、本当に簡単にノックアウトされました。
その後、巨人打線も打ち返して少し見せ場を作ったんですが、最終的には、ヤクルトが11-6で勝ちました。担当記者たちは「畠はそんなに悪くなかったんじゃないかな、ボール自体は走っていたし、しかしちょっと単調だったかもしれない」と話していたんですが、試合後に原監督は「畠の打たれ方が異常でした。その分を次には直さなければならないと思います。今日は150キロの速球もいとも簡単に打たれていました。特に3回の打者一巡、7安打で5失点。そのうち6本のヒットがいずれも直球を真芯でヒットされていました。」という談話を残しました。
この談話はいつもと違った談話なんですね。
いつもは「畠は良かったんだけどね」くらいの感じなんですが、「打たれ方が異常だった」という言葉を使うくらい、試合後の原監督の談話としては「あれ?何かあるな」と伺わせるような談話だったんですね。
原監督の試合後談話、「150キロの速球をいとも簡単に打たれすぎた」というその部分が、何かを考えさせる談話だと思うんです。原監督が言いたいのは、直球を畠が投げるというのを、ヤクルトの打者がわかっていたのではないかということなんですね。
そういう言い方をすると、あまりにも直接的でなにかあったんじゃないかと疑られるんでそういう言い方をしたんですが、直球真芯で、150キロの直球を真芯で全部当てるというのは難しい。畠のピッチングには癖があって、サインを盗むこととは別に、分かっちゃったんじゃないかと。その談話のなかでは、打者というのは、これから真っ直ぐがいくということがわかっていれば、たとえそのボールが150キロでも打ちますよということを言ってるんですね。
ですから畠が投げるボールが全部分かっていたのではないか、つまりマウンド上での畠の癖をヤクルト打線が見抜いたんではないか。その部分を次には直さなければならないと言って、次の日に原監督は畠をファームに落としました。おそらく畠は、一生懸命、映像を見直してどこに癖があるかを探し、その癖をジャイアンツ球場で必死に直したと思います。
江川と桑田の“癖”とは?
野球選手のなかには持って生まれた才能というか、相手の癖を見抜くのが実にうまいプレーヤーがいるんです。これはルール違反でもなんでもなく、これだけは特殊な才能なんですね。
かつてロッテに弘田澄男さんという165センチくらいの小さな、四国の高知から来た外野手がいて、この人は後に色々なところでコーチをやったりして、いまはもうフリーになってますけど、この人が実にピッチャーの癖を見抜くのがうまかった。
あるとき弘田さんが巨人の二軍外野守備・走塁コーチをやってるとき、昼間に球場へ行ったら一軍の試合を弘田さんが私服で見ていたんですね。私もちょっと早めに行ったんで、そのゲームを隣で見ていたら、「深澤さん、ピッチャーの癖って全部出るんですよ。いいですか見ててください。これ真っ直ぐですよ」と言うと真っ直ぐなんです。「これスライダーですよ」と言うとスライダーなんですよ。全部当たるんです。ことごとく当たる。
そのピッチャーにしても、弘田さんはその日にはじめて見たピッチャーだから前もって癖を知っていたわけじゃない。そうすると、なんでだということを聞いたんですね。どうして分かるんだと聞いたら、そのピッチャーのためにも何故というのは教えてくれなかったんですが、ピッチャーによって投げる時の癖がでる。これはさすが人間のやることだと思いますね。
かつて癖でいろいろ痛い目にあったのが、ジャイアンツの江川卓さんです。江川さんは真っ直ぐとカーブしか投げなかった。投げるときに江川さんは頭の上でボールとグラブを合わせる、いわゆる振りかぶるピッチャー。振りかぶって頭上で両手を合わせたときに左手のグラブの外側が少し違うんだそうです。両手をあわせたときに左手のグラブの外側が、ゴロゴロと動く、あるいは膨らんだりする、そのときの握りはカーブなんだそうです。ガッと振りかぶって頭上にグラブと手を合わせたときに、グラブの外側の膨らみに全然動きがないときは直球なんだそうです。ですからこれで打者はだいたい分かるわけですね。
いくら江川さんでも直球、カーブしかないピッチャーで、これを分かられてしまってはどうしようもないということで、彼もその後いろいろ工夫したりしましたが、これも癖でしょうがない。それから同じように桑田真澄さん。彼もセットポジションで、ベルトの前でグラブとボールを合わせる時に、カーブと真っ直ぐではグラブの背中の動き方が違う。それから右手をグラブの中に入れる角度が違うということで、バッターはそれを教えてもらうと実によく見えるんですけど、それで桑田さんもずいぶん苦労したみたいなんですね。
エモやんにも癖があった?!
なにしろほとんどのピッチャーには、いろんな癖があります。全部それを読まれたらたまらない。ただ、癖があるからといって、みんなにそれがわかるかというと、そんなにわかるわけではない。癖を読む独特な才能を持った人がいるんですね。
江本孟紀さんがニッポン放送の解説になって、最初の仕事で広島に行ったときのこと。その時、まだ山本浩二さんが現役だったんですね。山本浩二さんは江本さんの先輩ですから、「おう、エモ、そうかお前解説か。じゃあお祝いやろう」と言ってゲームが終わった後に、山本浩二さんが私と江本さんを焼き肉に連れて行ってくれたんです。
で、焼き肉を飽きるほど食ってくれと言われ、乾杯して、その後「エモ、ご苦労さん、それはいいんだけど、ここで今だから言うけど悪かったな。オレはお前の癖がみんな分かってた。真っ直ぐ、シンカー、全部分かってた。だからお前に対して俺は比較的いい打率だったと思うんだけど、どうだろう」と。
「えー」と江本さんもびっくりして、「オレにあったんですか」と言ったんですね。でも山本浩二さんはさすが、そこでどういう癖がどこにあったとは言わなかったんですが、「悪い悪い、分かっとった分かっとった」と言うんですね。
癖というのはチームの1人のバッターがわかったからといって、じゃあ山本さんが衣笠さんにそれを教えたかというと教えてないんですね。というのも、衣笠さんというのは正義感いっぱいのバッターなんです。教えてもらったサイン、あるいは盗んだサインなんかで打つのは大嫌いだと、いつも正々堂々と勝負しているんだ。ということで、山本浩二さんにサインを教えてくれとは言わなかった。従って衣笠さんは山本浩二さんより打率がかなり低いんです。
それと同じように、おそらくONもこだわってなかったと思うんです。もし王さんが分かっても長嶋さんに教えなかったと思いますし、やっぱりチームの主力打者の関係というのはそんなところなんですね。なにしろほとんどのピッチャーというのはみんな癖があります。牽制球を1球投げると、次は絶対後投げないとか、2球続けて投げてくるとか、いろんな癖がある。そうやってみると、いろいろあります。
だからランナーは、このピッチャーは1球投げたらもう牽制がないよということで、2球目のリードを少し大きめにとってセカンドベースを狙うとか、それも野球の作戦というか技術の1つだと思うんです。そればっかりやっていると肝心なことがダメになっちゃいますから、そればっかりというわけにはいかないでしょうけれど、4月14日のヤクルト戦の畠のように、相手チームから見ると簡単に打てるような癖が出てくる。しかし畠はこれで癖を直し、ピッチャーとしてさらに大きく成長するのではないかと思います。
(ニッポン放送ショウアップナイター)
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