ニュース 2019.06.03. 11:30

あの日の裏側【深澤弘のショウアップナイターヒストリー】

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長年にわたってショウアップナイターの実況を務めた“レジェンド”深澤弘スポーツアナウンサー [画像=ニッポン放送]

世紀の一戦


 今週は、「10.8」がジャイアンツの平成で最高のゲームだったとおっしゃる方が沢山いるので、どんなゲームだったのかを振り返ってみたいと思います。

 1994年(平成6年)10月8日セントラルリーグ最終戦、最後の最後のゲームで勝った方が優勝という凄まじいゲームがあって、これが巨人対中日の26回戦。長嶋監督のもと、ジャイアンツが勝利を収めて優勝したわけです。

 この年のジャイアンツは独走態勢で9月に入っていて、長嶋監督は何もしなくても、腕を組んでいてもジャイアンツが優勝すると思ったのですが、9月に入って4勝10敗と大きく負け越して、その前も8月26日からの星取りを見てみると、なんと4勝16敗という考えられないようなヨタヨタの数字でした。

 一方の中日は、9月を11勝4敗。特に9月の18日から10月にかけては、なんと中日が9連勝して巨人の差があっという間になくなってしまった。

 あと1試合の直接対決を残しただけで69勝60敗の同率首位に並び、最後の最後のゲームに勝った方が勝ちという事になったのですが、まあそれは大変なゲームになる。雨で中止のゲームがここに持ってこられたので、あまりスケジュールはピシッとしてないので結構試合の予想をしたり練習したりする時間があったんですね。

 ですから練習を見ながら新聞社の皆さん、評論家の皆さんが色んな予想をしてですね、いったいどっちが勝つんだという事で大方はジァイアンツが勝つだろうという予想を立てたんですが、それは斎藤、槙原、桑田というピッチャーがいたからで、ところがこのピッチャー達も当時あまり調子が良くなくて、ですから本当にジァイアンツの内情を知る者がそんなに簡単にジャイアンツが勝てるかどうか非常に心配したゲームだったんです。


三本柱揃い踏み


 その残り1試合は、いま申し上げたように雨で中止になった試合がこの試合に残っていただけで、10月8日18時、ナゴヤ球場、中日対巨人の第26回戦。巨人がこのゲームで使ったピッチャーは斎藤、槙原、桑田の“三本柱”。それから打線の方は落合を中心にコトーという外国人選手、松井、岡崎、原それからグラッデンという元気者の外国人選手がいました。

 一方中日は、ピッチャーが今中、それから山本昌、ヘンリー、佐藤、郭源治、打線の方は立浪、大豊、パウエル、こういった名前聞くと、当時いたなってお分かりだと思います。プレイボールで2回の表、落合が今中から先制の2ラン。ジャイアンツベンチは沸き立ちましたが、2回の裏、今度は中日の彦野が槙原からタイムリーヒットを打って2対2。手に汗握るゲーム展開になりました。

 3回の表、ジャイアンツは落合のタイムリーで3対2と1点のリード。2回途中からジャイアンツの長嶋監督は槙原がどうしても調子が出ないので斎藤にピッチャーを変えました。それが功を奏して斉藤は無難なピッチングをを披露。4回の表、ジャイアンツは村田真一とコトーのホームランで2点を加えると、5回の表には松井のホームランで加点し、6点目をあげました。

 中日は6回裏、パウエル、彦野がヒットを打って1点を返し、6-3でゲームは推移。ジャイアンツの投手は先ほど申し上げたように、槙原、斎藤、桑田の順、中日のピッチャーは今中、山田、佐野、尾仲、という投手リレー。ジャイアンツは三本柱を使っているが、絶好調ではなかった。長嶋監督も非常に不安だったといいますが、いずれにしてもこういう得点経過でジャイアンツが中日を破り、ジャイアンツが6対3で世紀の一戦をものにした訳です。


決戦を前に


 この試合、8回に中日の立浪がファーストへスライディングするんです。彼は日頃、解説で「ケガの原因になるから一塁へ絶対にスライディングはしてはいけない」ということを言っているんですが、その彼がスライディングをする。これはのちに聞いた話では忘れていたと。無我夢中だったと。何とか生きようという気持ちがあって、思わずやっちゃいけないというのを忘れて滑りこんで、結局それで左肩を脱臼します。

 ジャイアンツの落合も一二塁間のゴロに飛び込んで、何とか飛び込んでライト前ヒットを阻止しようとしたんですが、止められないで足を痛め、これも左内転筋の故障でほとんど動けない状態になり、日本シリーズにはほとんど出場する事ができなくなった。

 そういう激しいゲームだったのですが、実はホテルを出発する前にジャイアンツは名古屋の駅前、今はもうないですが、都ホテルという所に泊まって、そこに全員集めてユニフォームに着替えてバスへ乗る前にミーティングするのですが、そこで長嶋監督は「ゲームが始まると世紀の一戦だ。こんなゲームができるオレたちは幸せだ」と。「ゲームはこういう風に展開していく。ピッチャーもウチは三本柱をつぎ込む。こういう風に展開してこういう展開になる」といった話をして、スコアは当たっていなかったそうですが、「5対いくつかのスコアで我々は今日は勝つんだ」と。

 で、「勝った後に大いに喜べばいいので、それまではとにかく今までの全てをかけて今日のゲームを戦ってほしい」という事を言って、最後に長嶋さん得意の台詞で「今日は、勝つ、勝つ、勝つんだ。勝とうではなくて勝つんだ」と言って、バスへ乗り込んだ。これは中畑さんがコーチの時に、「あの時の監督の決意の強さというのはみんな感じた」といってバスへ乗って、ナゴヤ球場へ行くんですね。

 で、ナゴヤ球場の細い通路を入ってパッとグラウンドへ出るんですが、そうするとジャイアンツのロッカールームがすぐ側にあるんですが、長嶋監督は例によって選手の先頭に立ってグラウンドへ通じる細い通路を通ってグラウンドへパッっと出たら、そのとき非常にいい天気の中で、ナゴヤ球場で中日の選手が試合前のバッティング練習をしていたんですね。

 ちに私が長嶋さんから聞いた話では、「オレね、あそこに入ってパッと見たら山崎が打っているんだよ。バッティング練習。ところがね、いつもの山崎と打ち方が全然違うんだ。これはあいつら緊張しているな。よし!勝った!と思った」と言っていたんですよね。

 長嶋さんはそういう風に思い込んでゲームに入る訳ですが、その話をですね、ついこの間、東京ドームの食堂に山崎さんがいたんで、「山崎さん、長嶋さんそんなことを言ってたんだけど、覚えてる?」と聞いたら、「いやー。それは間違いです。あの時ね、僕は一軍にはいなかったんです。あの時、僕はファームにいたんですよ。ですからあのゲームに僕は残念ながら参加することができなくて、従ってジャイアンツが来た時間に僕がグラウンドで練習しているというのはあり得ないんです。僕の打ち方の後姿がパウエルという外国人選手に似ていたんで、もしかしたら長嶋さん、パウエルを見て山崎だ!と思われたんじゃないでしょうかね」と言うんですね。

 長嶋さんは、山崎ではないかと思っていたんですが、とんだ勘違いが功を奏し、選手たちへのミーティングの材料になり、これでジャイアンツが勝ったとは言いませんけれど、精神的な支えにはなったと思うんです。そのくらい凄まじい試合でした。

 さらにオチがあるんです。意気揚々と東京の田園調布に次の日に帰ってきます。前日夜、宿舎から奥さんへ電話していますから、一応の報告はしていますけれども、もっと色々詳しい事を奥さんの前で得意になって話したいなと思って、家に帰ったらやけに静か。誰もいない。お手伝いさんにどうしたの?って聞いたら、奥さんはかねての約束通りゴルフに行ってますという。奥さんの友達同士でゴルフ行っちゃってて誰もいなかった。色々とオチがついてる世紀の一戦でした。


(ニッポン放送ショウアップナイター)
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