ニュース 2019.06.10. 11:30

令和&平成より凄い「昭和の怪物」

昭和の怪物


 ちょっと古くなりますけれど、今週は昭和の怪物についてお話していきたいと思います。世の中には色んな怪物がいますね。

 平成の怪物は松坂投手。それから令和の怪物は、果たして誰になるのか。令和の怪物というと、大船渡の佐々木投手あたりですかね。すでに怪物のような扱いを受けていますけれど、個人的には昭和の怪物の方が断然格上ではないかと思っています。

 色んな怪物がいましたけれど、「ON」は怪物というより昭和の宝物ですよね。怪物というと、私は、誰を置いてもやはり江川卓さんではないかと思うんです。彼は典型的な、記録よりも記憶に残る昭和の怪物として、我々の頭の中にいつまでも残る存在ではないかと思います。


怪物たる所以


 江川卓さんは、昭和30年、1955年5月25日に福島県いわき市で生まれました。海岸の方ですね。高校時代は栃木県に移り、作新学院に入りました。高校1年から3年の栃木県予選では、なんと13試合中7試合でノーヒットノーラン。これだけでも怪物だと思うんですが、そのうち1試合が完全試合。これ以上の怪物はいないと思うんです。

 高校卒業後は慶応大学を目指したんですが、上手くいかずに法政大学に入りました。法政大学時代は、六大学で47勝、奪三振443個、当時の法政大学野球部を指導していたOBの藤田省三さんの話を私は未だに覚えています。

「作新から来たときの江川というのは、少しフォームが崩れていたけれど、その後は全く問題なく、立て直すことができた。特に大学4年の秋が、彼にとってはピッチャーとしてベストではなかったのかと思っている。東京六大学の試合で、変化球を使うことは全くなかった。直球だけで優勝する事ができた。あのときの江川は素晴らしかった」

 藤田さんは、いつもそばで江川を見ていただけに、これが一番正しい江川投手への分析ではないかと思うんです。

 卒業後は、あの《江川の空白の一日》という、野球協約の隙を突いた変な作戦でジャイアンツに入り、プロでは1979年(昭和54)から、1987年(昭和62年)まで、135勝72敗、防御率3.02、1366奪三振、最優秀投手、防御率第一位、奪三振のタイトル、勝率のタイトル、全部獲りまして、成績優秀、人格最高、なぜもっと怪物として人気が出なかったのか?! プロへの入り方が少し解りづらい入り方だったので、あの辺で江川さんのイメージができてしまったと思うんですが……私が思う「昭和の怪物」は、左の金田正一、右の江川卓。これが球界最高の素質をもつピッチャーだったと思います。


伝説と悲運と


 江川さんは、プロ入り前の作新学院2年の時に、150キロをマーク。栃木予選の大田原戦で、いきなりノーヒットノーラン、続く石橋高校戦では完全試合を達成しました。さらに、準々決勝の栃木工業戦では、またノーヒットノーラン。準決勝の小山高校戦では9回までノーヒットの0対0で、延長戦に入って11回、四球と内野安打でランナーを出すと、相手はスクイズを仕掛け、江川投手は尻もちをついてしまい失点。それで負けてしまって甲子園に出ることができませんでした。

 こういう悲運というのは、あの人に子供の時からついて回っていた感じですが、それにしても、ノーヒットノーランは当たり前で、パーフェクトを何度もやっているという、凄い怪物だと思うんですよね。

 甲子園初出場の高校3年の時、選抜では1回戦・北陽高校戦で19奪三振、2回戦・小倉南高戦で10奪三振、準々決勝・今治西高校戦で20奪三振、準決勝・広島商業戦で初めて失点を喫しました。夏の栃木県予選5試合では、3試合でノーヒットノーランをやって、5試合で打たれたヒットが2本。甲子園で打たれたヒットの数はわからなかったのですが、とにかく日本人離れした記録を持っている。

 夏の甲子園では、柳川商業との1回戦で23個の三振をとりまして、2回戦・銚子商業戦は雨の中の試合で一死満塁から押し出しの四球でサヨナラ負けと、どうしても悲運が残るピッチャーでした。高校時代の予選で、スクイズで尻もちをついたり、雨の中でボールが滑って押し出し四球を与えたり、本当に華々しい記録はなかったのですが、とんでもない怪物でした。

 プロ入り後は、1984年(昭和59年)の7月24日、オールスターゲームの第3戦(ナゴヤ球場)で、福本豊・蓑田・ブーマー・栗橋・落合・石毛・伊東勤・クルーズの合計8人を、全部三振にとって、江夏の9連続三振に!という所だったのですが、9人目の大石大二郎さんが、三振しないように、2ストライクのあと、ちょ~んとバットを合わせてセカンドゴロに終わって、9人連続にはなりませんでしたが、内容的にはやったようなもんですね(笑)


鮮烈な9年間


 実質、江川さんがプロで活躍できたのは、わずか9年間。あの素質で、わずか9年間というのは、やっぱりあの人に付きまとう不運があったのかなと思います。

 1987年9月20日の広島市民球場、2対1の9回の裏、二死二塁という場面で、広島・小早川選手に弾丸ライナーの逆転2ランを打たれてね。私はグランドレベルにあった放送席で試合を見ていたのですが、江川さんがマウンドに崩れ落ちてね、で、その年をもって引退ですよ。

 平成の怪物・松坂に比べ、昭和の怪物・江川卓さんのプロ野球人生はあっという間でした。最終的には、なかなか王監督と折り合いがつかなかったというのも、彼が早くに野球を辞めた原因だと思います。

 その後は、監督になる・ならないで、毎年騒がれましたけど、やはり彼は、どーしても自分の考え方としてコーチは嫌だと、やるのならば監督をやりたいと。ところが日本の球団は、『コーチで勉強をしてから、監督をしてくれるのが一番いい』という考え方もあり、どこの球団とも折り合わない。結局、このまま解説を続けると思いますが、解説にもキレがあって、面白いと思いますね。

 今日は、昭和の怪物・江川卓さんのお話をしてみました。


(ニッポン放送ショウアップナイター)
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