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大船渡高校・国保監督が佐々木を起用しなかったもう1つの理由

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【高校野球 岩手大会 決勝 花巻東対大船渡】応援団に挨拶するため整列する佐々木朗希(右2人目)ら大船渡ナイン=2019年7月25日 岩手県営野球場 写真提供:産経新聞社
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、7月25日に行われた全国高校野球・岩手県大会決勝で登板を回避。甲子園出場を逃した大船渡高校・佐々木朗希(ろうき)投手の起用法にまつわるエピソードを取り上げる。

「投げられる状態ではあったかもしれませんが、私が判断しました。理由としては故障を防ぐため」(大船渡・国保陽平監督)

甲子園を目指し、全国各地で地方大会が進行中の、第101回全国高等学校野球選手権大会。岩手大会は25日に決勝戦が行われ、“令和の怪物”こと、最速163キロ右腕・佐々木を擁する大船渡が、大谷翔平(エンゼルス)、菊池雄星(マリナーズ)の母校でもある花巻東と対戦しました。

前日の24日、佐々木は一関工との準決勝に先発。150キロ超えの速球を連発し、15奪三振、2安打の完封勝利を挙げました。そんな佐々木の豪腕ぶりをひと目見ようと、早朝から並ぶ観客も出るなど、岩手県営野球場は大盛況。

しかし、国保監督は佐々木の連投を避け、控え投手の柴田貴広を先発させたのです。柴田は初回にいきなり2点を奪われ、その後もリードを広げられる苦しい展開に。6回、2死満塁から走者一掃の三塁打と守備の乱れで4点を失い、これで勝負あり。大船渡は2-12で敗れ、35年ぶり2度目の夏の甲子園行きを逃したのです。

佐々木は結局マウンドに上がらず、代打での出場もなし。令和の怪物は甲子園で勇姿を見せることなく、高校最後の夏を終えました。

最近の高校野球は、選手の過度な消耗を避けるため、エースが何連投もせず、控え投手と分業で戦うところも増えています。

国保監督も、あくまで“選手ファースト”で考える指導者。試合後、佐々木を決勝で使わなかった理由を聞かれ、こう答えました。

「故障を防ぐため。筋肉の張りとかそういう程度です。特に痛いとかはなかった」

「(判断材料は)球数、登板間隔、気温です。きょうは暑いですし。特に悩みはなかった」

国保監督が登板回避を伝えると、佐々木本人は笑顔で「分かりました」と言ったそうです。

今大会の佐々木のピッチングを振り返ってみると、初戦となった2回戦は先発で2イニング(vs遠野緑峰、5回コールド勝ち)。3回戦も先発で6イニング(vs一戸、6回コールド勝ち)。4回戦の盛岡第四戦は、延長12イニング。この3試合で、佐々木は20イニング投げたことになります。

特に4回戦の194球については、一部で「投げすぎではないか」という声も上がりました。しかも準々決勝の久慈戦は、佐々木がフル回転した4回戦の翌日……。

いろいろ考慮した結果、国保監督は準々決勝で「佐々木を完全に休ませる」という決断をしました。もし負けたら「なぜ使わない?」という批判を受けることは承知の上で、佐々木のコンディションと、その将来を優先したのです。

そしてこの温存策には、もう1つの意味がありました。「大船渡は、佐々木が投げて打つだけのワンマンチームにはしない」という方針です。

今年(2019年)5月の春季岩手大会1回戦で、国保監督は佐々木ではなく、控え投手の和田吟太を先発で起用。佐々木は打者で出場しました。途中、佐々木に切り替える機会が何度もありながら国保監督はあえて見送り、その結果チームはサヨナラ負け……。

批判も浴びた国保監督ですが「誰が出ても勝てるチームを作りたい」という意志を貫いたのは、それが佐々木の負担を減らすことにもつながるからでした。

佐々木を温存した準々決勝・久慈戦は、延長戦に突入する大熱戦となりましたが、大船渡は11回に2点を奪って勝ち越し。リリーフで最後を締めたのは、春に悔しい思いをした和田でした。こうしてチームの結束力は高まり、佐々木もベストコンディションで準決勝に臨むことができたのです。

そして決勝でも、三たび同じ決断をした国保監督。そういう判断ができるのは、国保監督が普段から佐々木はじめ、選手たちのフォームやコンディションをつぶさにチェックしているからこそです。体に負担のかかるフォームは、より負荷の少ないフォームに修正させ、同時に故障をしない体作りも指導していました。

佐々木が194球を投げた4回戦のあと、国保監督は佐々木のピッチングについて聞かれ、こう答えました。

「力感なく、脱力して投げていてよかったと思います」

常に全力で投げることは、必ずしもベストの選択ではないと国保監督に教えられた佐々木。
正しいコンディション作りを教えてくれる指導者に出会ったことは、これからの野球人生において大きな財産になるはずです。

夏の全国高校野球は、夏休みという限られた期間で開催している大会のため、過密日程はなかなか解消できない問題ですが、この“佐々木温存”は、高校野球の在り方に一石を投じた采配として、のちのち語り継がれることになるかもしれません。
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