記者クラブでの出来事
今週は、記者クラブと記者クラブにおける王貞治さんのお話をしたいと思います。
放送とか新聞は、色々な所から記事になるネタを集めてきます。そのネタを集める人たちを、新聞は新聞記者、放送は放送記者というんですが、その人たちが、ただデタラメに世の中に出て、ネタを集めているわけではなく、みんな決められたルールに則って取材活動をやっています。それが記者会で、新聞記者会、放送記者会というのがあります。
新聞記者会というのは、政治・経済・流通・産業・交通・スポーツ・文芸・芸能、とにかくあらゆるジャンルの記者会があります。放送記者会というのも、色々なジャンルがあり、そのスポーツ記者クラブの中にも…関東圏は、東京運動記者クラブというのですが、その中には、色々な分科会があります。
競馬・ボクシング・水泳・陸上・バレー・バスケット・サッカー・野球など、全部種目ごとに記者会があって、年に一度、記者クラブ全員が集まって、忘年会みたいな、総会を行います。総会では、初めて会う人がいたり、久しぶりに会う人がいたり、ここで他のスポーツなどの色々な話が聞けるんです。
実は先日、そのプロ野球記者会というのがあり、このプロ野球記者会には、民放・NHK・各新聞が加入しています。で、ここには、現役の新聞記者や、アナウンサーなんかも入っています。ところが、みんなそのうち定年退職になってしまうんですね。
その定年した記者を集めて、OB会というのが出来たんです。記者クラブOB会が出来たからって、これで何をやろうという訳でもない、悪だくみはしていないんですが、ただそのOBの記者というのが、これまでの色々な事件とか、あらゆる場面に立ち会っている訳ですから、彼らがその気になると、凄いネタが出てくる。そういった宝物のようなネタを出し合って、みんなまとめて、後世に伝えていこうじゃないかという、非常に立派な考えを持った方がいて、OB会が出来たんです(笑)
私も、プロ野球記者会のOB会に入って、古い取材の話なんかを、皆さんにお聞かせしています。
野球界の変化について
実はこの間、このプロ野球記者会OB会の方に、王貞治さんが来てくれました。王さんに、「王さんの現役時代に取材していた記者が一杯いますから、懐かしいから顔を見せてくださいよ」って誘ったら、「いいですね」と、忙しい王さんが来てくれたんです。
そこで、王さんにちょっと話をしていただいたら、なんと王さんは、今年が野球生活60年なんだそうです。早稲田実業から野球を始めて、いまでもソフトバンクホークスの球団会長をやっていますからね。最近は、野球生活を始めて60年なので、その野球生活を振り返って、いろいろ話をすることもあるそうです。以下に王さんの言葉を引用します。
プロ野球人として60年を迎える事ができたのは、非常にうれしく思っています。子供の頃から野球が好きで、その野球に、未だに、ソフトバンクホークの球団会長として、現場に居させてもらうという事は、非常にありがたく、幸せに思っています。
60年もこの現場にいますと、色々なことを、その時々によって考えるんですけど、最近、特にこの2,3年で感じる事は、《野球が凄い勢いで姿を変えている》という事を実感します。野球が、良くなっている、悪くなっているという意味ではなくて、変化している。
例えば、私の専門の打つ事に関しても、我々の時は、走って、打って、とにかく打つ前に、下半身を鍛えて、それから、バットを振って、振りまくって、スイングのスピードをつける。それから、色々な運動をすることによって、体の色々な部位を強くする。筋肉を強くする。それから、野球にダメな物、たばこ、酒、これはできるだけやめろ。アッパースイングはいけない。打つ時はダウンスイングだ。と言うような事を、ずっと教え込まれて来ました。
ところが、いまメジャーリーグを見ると、うちの柳田なんかも、完全にアッパースイングで、その打ち方によって成績が出ている。昔は、アッパースイングなんてダメだよ!って言われた時代とは大きな違いです。
アメリカの野球を見ていると、フライボール革命といわれる、160キロくらいのスピードの打球を打てば、これがホームラン、ヒットになる確率が高い。打球の角度が、地上と30度くらいの角度がある打球を打つと、これもヒットやホームランになる確率が高い。そうすれば、自然とヒットの数が増えて打率も上がる。
アメリカ大リーグなんかが、毎年、野球を科学するような感じで、データを中心に、どんどん違った事を考えていく。これはもう野球の技術とか、ゲームとかを離れて、いわゆる野球マニアが何かを考えて、何かを創り出していると思うけれど、でも実際、ドジャースの選手なんかは、その理論に則って、いま、優勝の近い所にいる。こういう野球は、私たちの時代には想像もできなかった。
日本の野球界なんかはそうだけれど、OB、ユニフォームを脱いだ人が、コーチ、データ作成などをやっているけれども、アメリカはそうではなくて、統計学者とか、大学で統計を勉強していた、全然野球を知らない人もフロントに連れてきて、数字からすべてを割り出そうとしている。そういう事が果たして良いのかどうか。という事より、現実にそういう事が行われているし、結果も出ているので、そこに我々はどうついていくか、という事が大きな問題だと思います。
大谷翔平に対する持論?!
王さんは、『困ったなぁ』という表情で話していましたね。で、王さんが最後に話していたのが、大谷君のこと。
皆さん、大谷君のこと、僕が何を考えているか聞きたいと思うでしょ。大谷君については、私は二刀流が果たしてどうか、という事を考えていたのですが、最近思うんです。もう二刀流ではなくて、バッターでやるべきだと思うんです。
とにかく、あれだけ打てるのですから。あんなに打たなければ、《二刀流でなんとか・・・》と言ったかもしれませんが、あんなに打てるのだったら、もうバッター一本に絞って、記録を目指して、練習に打ち込んで、打つ事だけを考えて、投げる事を置いておいて、非常にもったいない話だけれども、それで行くべきではないかと思いますが、大谷君なんていうのも、我々の時代では考えられなかった凄い選手だし、本当に野球界が変わったとつくづく感じます。
それともう一つ。昔は、村山実さんと長嶋茂雄さん、あと自分の事を言うのもおかしいのですが、私、王貞治と江夏豊さん、そういった個人の対決というのが、皆さんから興味を持たれて、我々もその気になって、阪神戦というのを忘れて《江夏を打つんだ》、長嶋さんも《村山を打つんだ》、村山さんは長嶋さんを見ると、涙を流して投げていた、なんて、男同士の争いがあったのですが、最近は、工藤ソフトバンクや、原ジャイアンツとなる。そういう中に、男同士の対決があったらいいと思いますね
色々話した末に、「すいません、60年も野球界で生きていると、色々言いたいことがあって、まだ言いたい事があるんですがこの辺で止めます(笑)」と言って、王さんはお帰りになりました。非常に王さん元気ですね。
確かに言われるように、大リーグは凄い変わったし、新聞の記事も本当に変わってしまったし、まあどうでしょうね、古い連中はそういうものに流されて、何かまた別の野球界に入って行くような、そういう感じではないかと思います。