話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、5日のオリックス戦で地元・兵庫に凱旋登板。見事6勝目を挙げた西武のルーキー・松本航(わたる)投手にまつわるエピソードを取り上げる。
「しっかり勝ちにつながる投球ができてよかったです。要所でいい球を投げられました」(松本)
パ・リーグ首位を独走していたソフトバンクを猛追。リーグ連覇に向けて、僅差の競り合いを続けている2位・西武ですが、負けるとソフトバンクにマジック点灯もあり得る状況で迎えた5日のオリックス戦(ほっともっとフィールド神戸)。先発したのは、地元・兵庫出身のドラフト1位ルーキー・松本航(日体大出身)でした。
松本の出身地は、兵庫県北部の朝来市(あさごし)。かつて「天空の城」として有名な竹田城があった所です。高校は地元・明石商業に進み、甲子園経験こそありませんが、1年生の夏からベンチ入り。3年夏はエースとしてチームを引っ張り、激戦区の兵庫大会でベスト8に進出しています。
つまり今回は“凱旋登板”。ほっともっとフィールド神戸(旧グリーンスタジアム神戸)は敵地ですが、松本にとっては「懐かしい球場」でもありました。
そしてスタンドには、心強い味方が。三塁側の内野席に、制服姿の男子高校生が100名ほど陣取っており、観客から「あれはどこの学生だろう?」という声も上がっていましたが、実は松本の母校・明石商の野球部員たちだったのです。
今年(2019年)の甲子園で、明石商は春・夏ともにベスト4に進出。松本が果たせなかった甲子園行きの夢を、後輩部員たちが果たしてくれました。
そんな後輩たちに「力をもらった」と言う松本。神戸で投げることが濃厚になったとき、高校時代の恩師・狭間善徳監督から「応援に行くぞ!」という連絡をもらったそうです。それならみんなでと、松本は部員たち100人以上のチケットを手配。代金は松本の自腹です。狭間監督も、明石商名物の猛練習をこの日だけ休みにして、部員一同と応援に駆け付けました。
恩師と後輩たちが見守るなかマウンドに立った松本。実は狭間監督から電話で「ええピッチングをせんと、(後輩の手前)カッコつかへんで!」とハッパを掛けられていたそうです。そもそも負けられない試合で、余計にプレッシャーがかかりそうですが、もちろんこれは、松本の性格を知った上での“愛のゲキ”。さすがは強心臓のルーキー、この応援を力に変えました。
外崎のソロ本塁打で先制してもらった2回、すぐ宗に同点弾を浴びましたが、140キロ台後半の真っ直ぐに変化球も織り交ぜ、オリックス打線を翻弄。強力西武打線も4回、満塁のチャンスから、連続押し出し四球のあと、中村が走者一掃二塁打を放ち、一挙5点を奪ってバックアップしてくれました。
松本は6回を投げ切り、7安打2失点で降板。自己最多の9奪三振を奪う力投で、42日ぶりの6勝目を挙げ、チームの3連勝に貢献したのです。
ソフトバンクも楽天に勝ったため、もし西武が負けていたらソフトバンクにマジックが点灯していました。この白星は、3日連続で宿敵のマジック点灯を阻止する貴重な勝利でもあったのです。
後輩たちの前でヒーローインタビューを受けるという、この上なく格好いいシーンが現実になりましたが、スタンドでは、甲子園で活躍したエース右腕の2年生・中森俊介投手も先輩に熱い視線を送っていました。
実は松本は日体大時代、教育実習で母校に戻って、中森投手を指導しているのです。カットボールとツーシームを直接伝授。それが春・夏甲子園ベスト4につながりました。
中森投手も、先輩の見事なマウンドさばきに学ぶところは多かったようで、スタンドへ取材に来た報道陣に「プロは全然レベルが違う。僕もいつか、こういう世界で投げてみたい」と語りました。
松本は明石商が生んだ初のプロ野球選手ですが、こうして道を拓いたことで、後輩たちも夢を持つことができます。狭間監督も、わざわざ練習を休んで連れて来た甲斐があった、と嬉しかったに違いありません。
そしてこの白星は、松本にとってもう1つ、大きな意味がありました。
「上茶谷だけには負けたくないと思っているので、ここからまた頑張りたい」
同じドラフト1位ルーキーのDeNA・上茶谷大河(東洋大出身)も、9月5日現在6勝を挙げており、松本はこれで並んだことになります。DeNAも巨人を猛追、デッドヒートを繰り広げていますが、2位で追うチームの先発を担うルーキー、という立場はまったく同じ。普段はなかよしですが、刺激を与え合うライバルでもあるのです。
いろいろな意味で負けられない試合に、しっかり勝ってみせた松本。投手陣に不安のある西武にとって、心強い戦力になりそうです。
「しっかり勝ちにつながる投球ができてよかったです。要所でいい球を投げられました」(松本)
パ・リーグ首位を独走していたソフトバンクを猛追。リーグ連覇に向けて、僅差の競り合いを続けている2位・西武ですが、負けるとソフトバンクにマジック点灯もあり得る状況で迎えた5日のオリックス戦(ほっともっとフィールド神戸)。先発したのは、地元・兵庫出身のドラフト1位ルーキー・松本航(日体大出身)でした。
松本の出身地は、兵庫県北部の朝来市(あさごし)。かつて「天空の城」として有名な竹田城があった所です。高校は地元・明石商業に進み、甲子園経験こそありませんが、1年生の夏からベンチ入り。3年夏はエースとしてチームを引っ張り、激戦区の兵庫大会でベスト8に進出しています。
つまり今回は“凱旋登板”。ほっともっとフィールド神戸(旧グリーンスタジアム神戸)は敵地ですが、松本にとっては「懐かしい球場」でもありました。
そしてスタンドには、心強い味方が。三塁側の内野席に、制服姿の男子高校生が100名ほど陣取っており、観客から「あれはどこの学生だろう?」という声も上がっていましたが、実は松本の母校・明石商の野球部員たちだったのです。
今年(2019年)の甲子園で、明石商は春・夏ともにベスト4に進出。松本が果たせなかった甲子園行きの夢を、後輩部員たちが果たしてくれました。
そんな後輩たちに「力をもらった」と言う松本。神戸で投げることが濃厚になったとき、高校時代の恩師・狭間善徳監督から「応援に行くぞ!」という連絡をもらったそうです。それならみんなでと、松本は部員たち100人以上のチケットを手配。代金は松本の自腹です。狭間監督も、明石商名物の猛練習をこの日だけ休みにして、部員一同と応援に駆け付けました。
恩師と後輩たちが見守るなかマウンドに立った松本。実は狭間監督から電話で「ええピッチングをせんと、(後輩の手前)カッコつかへんで!」とハッパを掛けられていたそうです。そもそも負けられない試合で、余計にプレッシャーがかかりそうですが、もちろんこれは、松本の性格を知った上での“愛のゲキ”。さすがは強心臓のルーキー、この応援を力に変えました。
外崎のソロ本塁打で先制してもらった2回、すぐ宗に同点弾を浴びましたが、140キロ台後半の真っ直ぐに変化球も織り交ぜ、オリックス打線を翻弄。強力西武打線も4回、満塁のチャンスから、連続押し出し四球のあと、中村が走者一掃二塁打を放ち、一挙5点を奪ってバックアップしてくれました。
松本は6回を投げ切り、7安打2失点で降板。自己最多の9奪三振を奪う力投で、42日ぶりの6勝目を挙げ、チームの3連勝に貢献したのです。
ソフトバンクも楽天に勝ったため、もし西武が負けていたらソフトバンクにマジックが点灯していました。この白星は、3日連続で宿敵のマジック点灯を阻止する貴重な勝利でもあったのです。
後輩たちの前でヒーローインタビューを受けるという、この上なく格好いいシーンが現実になりましたが、スタンドでは、甲子園で活躍したエース右腕の2年生・中森俊介投手も先輩に熱い視線を送っていました。
実は松本は日体大時代、教育実習で母校に戻って、中森投手を指導しているのです。カットボールとツーシームを直接伝授。それが春・夏甲子園ベスト4につながりました。
中森投手も、先輩の見事なマウンドさばきに学ぶところは多かったようで、スタンドへ取材に来た報道陣に「プロは全然レベルが違う。僕もいつか、こういう世界で投げてみたい」と語りました。
松本は明石商が生んだ初のプロ野球選手ですが、こうして道を拓いたことで、後輩たちも夢を持つことができます。狭間監督も、わざわざ練習を休んで連れて来た甲斐があった、と嬉しかったに違いありません。
そしてこの白星は、松本にとってもう1つ、大きな意味がありました。
「上茶谷だけには負けたくないと思っているので、ここからまた頑張りたい」
同じドラフト1位ルーキーのDeNA・上茶谷大河(東洋大出身)も、9月5日現在6勝を挙げており、松本はこれで並んだことになります。DeNAも巨人を猛追、デッドヒートを繰り広げていますが、2位で追うチームの先発を担うルーキー、という立場はまったく同じ。普段はなかよしですが、刺激を与え合うライバルでもあるのです。
いろいろな意味で負けられない試合に、しっかり勝ってみせた松本。投手陣に不安のある西武にとって、心強い戦力になりそうです。