先輩方の好意と難しさ
今週は、巨人の岡本選手を中心にお話したいと思います。
岡本選手の育成について、巨人はあの手この手、色々やっています。去年良くなって、今年2年目で『来年あたりは、本当の岡本にしたい』というのが、原監督のいま持っている青写真ではないでしょうか。
岡本選手は、一軍でのプレーという観点では実質的には2年目で、去年、打率.309、33本塁打、100打点という選手。今年は、実質的にプロ2年目という事で、2年目の選手というのは、相手に厳しくマークされて苦戦する、苦しむというジンクスがある。そこまでハマらなかったとしても、去年あれだけできたんだから、今年もっとやっても、という成績には達しなかったと思うんです。
とはいえ4番打者として、非常に良い所で、何回も打ちはしましたが、チャンスに気力のないバッティングフォームで空振りしたり、大事な所でね。まあ、去年があるから、去年ここで打ったのに、というような場面が一杯ありました。
まあ、一番悔しく感じているのは、原監督でもないし、ファンでもない、岡本選手だと思います。岡本選手は、そんな事を口にすることなく、愚痴る事もなく、空振りで無気力に見えるけれどそうでもなく、でも彼は、心の中で苦労していたと思います。
そんな岡本選手の姿を見て、先輩が、プロ野球の先輩というのは誰でもそうですが、自分はもう経験をしてわかっている訳です。だから、色々苦しんでいる後輩を見るとアドバイスをしたい。それは余計な口出しとかじゃなくて、先輩の親切心とか、なんとかこいつに上手くなって欲しいという、切なる想いだと思うんです。
そんな訳で、色々な先輩、他のチームの先輩が、夜中に電話をかけてきたりして、岡本選手はそれによって悩んだらしいんです。色々な事を言われるけれど、皆さんが同じことを言うとは限らない。しかも、夜中に電話が来るのも、大変だったみたいですね。
幸い岡本選手のバッティングフォームは、基本にしっかりして、あまり変則ではないんです。きわめてオーソドックスな打ち方なので、これから、ちゃんとした指導、アドバイスを受けると、彼は非常にキチンとした打者になって、しかも相当長い間、活躍できる打者になると思います。
問題は、精神的な所で、色々言われる事に対して、岡本選手がどうするのか。チャンスの時にバッターボックスに入って、前回の失敗を引きずらずに気持ちを切り替えられるのか、というのが大きな問題だと思うんですね。
長嶋さんのプラス思考
そこで私は、長嶋さんが、中畑清さんを成長させるときに使ったメンタルトレーニングの方法がいいのではないか、という事で、これをお話したいと思います。
昭和54年、1979年。それまで2年間で、わずか12試合しか出番のなかった中畑清さんが、この年だけで、なんと100試合に出場して、打率.298、12本塁打と、人が変わったように打ちました。しかも、いい所で打ったんですね。
長嶋監督は、常に明るい中畑選手を「この明るさをなんとしてもチームの中心にしよう」と思ったそうです。「この男は、技術的にまだまだダメだが、やるという自信を持ったら、凄いバッターになるかもしれない」という事で、中畑選手を精神的な所から変えていこうと思ったそうです。
という事で、長嶋さんは、アメリカから沢山の本を取り寄せて、奥さんに訳してもらったそうです。いつも暇なときは、家でその本を読んで、内容を整理して、「こういう話を聞いたのだけれど・・・」といって中畑さんに話したそうです。
『いいか清。嫌な事がいっぱいあるけれど、全部、家に持っていくことは良くない。明日の事を考えて家に帰る事が一番大事な事で、我々がやらなければいけない事だ。そしてベットの中で、自分の明日の試合を想像するんだ』と。
明日の中日は小松投手が投げてくる。彼はフォークボールもシャープに落ちる、その上、スライダーがいい。とにかく手強いピッチャーだ。
しかし俺は、あえて彼が得意とするスピードボール・速球を狙おう。フォークボールやスライダーもあるけれど、何もかもというのは難しいので目を瞑ろう。
試合は、0-0の8回の裏、1アウト、ランナーは一二塁、バッターはオレ。下手にスライダーに手を出すとゴロになって、ダブルプレーになってしまう。フォークボールは、見逃しても、あまりストライクにならない。だから、フォークと思ったら捨てよう。狙いは直球で、これが中々手強い。
1球目、狙い通り速球が来た。アウトローぎりぎりのボールで手が出なかったが、ボールになった。2球目はスライダー、これは打つ気なく見送り。ただ、幸いなことにボールと判定され、2ボール・0ストライク。有利なカウントになる、思う壺だ。今度は速球が来るだろう。ただ、注意しなければいけないのは、ボールに手を出す事。まっすぐのストライクのスピードボールだけを狙うんだ。読み通り、真ん中からちょっと外側に、スピードボールが来た。とにかく、逆らわず、迷わず、慌てず、タイミングを合わせて、ミートする。そうすると打球は右中間に飛んだ。
ランナー2人が還って2-0。オレは、二塁塁上で、得意満面な顔をする。
『なあ、清。そんなイメージで、明日の試合に臨むんだ。今日の試合の失敗なんて誰だってある。そんなものを引きずっていたのではダメだ。明日の試合のイメージを作って、寝る。そうすると良い朝が来るんだ。そうすると気分的に明るくなる、やろう!という気分になる』
そんなことを、長嶋は話したそうです。これは、長嶋さんが現役時代、自分でやっていたトレーニングなんだそうですが、これを中畑さんに、1回ではなく、何回も話をしたそうです。
中畑さんも『打者は3割を打てれば成功だけれど、そうは簡単にいかないし、イメージ通りの結果を出そうとしてもなかなかできるものでもない。でも、できないからやらないんじゃダメだと。とにかく、長嶋さんの持っている、独特のプラス思考をいただいて、自分も頑張っていこう。長嶋さんに上手く乗せられたけど、乗せられたから悪いとか、そういう事ではなくて、そういう事も成績を伸ばす方法だ』と思ったそうです。
中畑さんは、講演会のたびに、地方の野球少年とか、高校球児に話しているそうです。
多くの人は、そんな簡単には打てないだろう、中畑さんだから上手く乗せられたんだろう。というんですが、私は長嶋さん、中畑さんの両方からこの話を聞きましたから、なんかこのやり方が、岡本選手に当てはまらないかな?と思っているんです。
岡本選手と中畑さんとでは、性格が違いますけど、二人とも素直だと思うんですね。ですから、こういう事を合わせて、マイナスは絶対ないと思うので、いつか、原監督が暇で、『何でも聞くよ』っていう顔をしている時に、ちょっとこういう話をしてみたいと思います。
いずれにしても、できたら岡本選手の成長のために、このトレーニングを取り入れて欲しいと私は思いますし、指南役はなんといっても、中畑清さんだと思います。
(ニッポン放送ショウアップナイター)
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