ベテランから若手への金言
今週は、私の前にゲストがいます。ゲストと言っても、私から見ればガキみたいなものなんですが、ニッポン放送に入って3年目のスポーツアナウンサー、大泉健斗を呼びました。
大泉「はい、ニッポン放送アナウンサーの大泉です。」
深澤「何回か放送しているよね。ラジオを聴いている方にはお馴染みかもしれないけど、改めて《大泉健斗》っていうのを。こういう時じゃないと、なかなか紹介できないからね。今年は全部で何本くらい放送をしたの?」
大泉「今年だけで数えると16本。他局本番(地方の放送局用の中継)も含めて、やらせて頂きました。」
深澤「大丈夫かよ」
大泉「大丈夫です! といっても途中一度、体調を崩した時があったんですが、何とか大丈夫でした。」
深澤「いや、君の問題じゃないよ、君の放送が大丈夫かってことだよ(笑) 世間的に大丈夫かって!」
大泉「いやぁ~それは……先輩たちに評価していただいて……」
深澤「先輩には何を言われる?」
大泉「たまに早口になるので、その事を言われます。」
深澤「そうか、僕ね、君の放送を1回聴いたよ。えーと、デビューの時だね。」
大泉「去年ですか? フレッシュオールスターの?」
深澤「そうそう、それそれ。それから、今年も1回聴いたんだけど、君が言った通り、速いよね。あんなに野球は動いていないもん。それを勝手に動かして、ガンガン騒いじゃってさ、あれだと、ラジオを聴いている皆さんが、本当の球場の雰囲気っていうのを掴めないし、疲れてしまう。」
「それから、色々な事を言おうとするから、つまんない事も言っちゃう。だから、持っているだろ? 実況を録音したテープ、これを何度も聴いて、全部修正して、来年を迎えなきゃダメだね。でも、いい所は元気がいいね。これは何よりだ。」
大泉「はい。ありがとうございます。元気だけは負けるなと、松本秀夫アナウンサーから言われています。」
深澤「松本が言う事は当てにならないからね(苦笑) でもね、松本だって、デビューした時はおっちょこちょいだった。違う球場の試合を喋っているかと思うような実況をしたりして、最初はどうなるかと思ったけど」
大泉「よく、深澤アナに、愛のある指導をして頂いたと、松本アナからお聞きました。」
深澤「そんな、愛なんてなかったけどさ(笑)。でも、だんだんカッコがついて来て、僕が思うに、いま民放では、特にラジオでは、彼がNo.1だと思うんだよね。だから、そういうお手本がいるんだから、いくらでも勉強できると思うよ。ちなみに、どういうアナウンサーになりたい?」
大泉「まだまだ先になるかも知れませんが、大泉に任せたい。と、メインを張れる様なアナウンサーになりたいと思っています。」
深澤「そのためには、どんな事が必要なの?」
大泉「そうですねぇ~(苦笑)」
深澤「気持ちだけじゃだめだからね(笑)」
大泉他局本番をやらせて頂いたので、まずは1本1本しっかり喋るのと、野球を勉強する。戦術とか、ベンチワークとか、スタンドの雰囲気とかも含めて、次にどういうプレーが起こるのかな?という事を予想しながら、解説の方に聞いて、それを本番で積み重ねて行こうと……」
深澤「松本から聞いたな!? その話は。」
大泉「(笑)ちょっと聞きました。はい。」
深澤「松本に何度も言ったことだよ(笑)。で、君は立教大学出身で、野球部だって?レギュラーだって?」
大泉「4軍なんです。4軍です(苦笑)」
深澤「なに!? 話が違うね(笑)、立教大学には4軍なんてあるの?」
大泉「そうなんですよ。僕の時は、部員が200人居まして、200人ですから、4軍まで分けられていたんです。だから一番最下層です。」
深澤「じゃぁ、野球できないじゃん。」
大泉「そうなんです。4軍なので、グラウンドが使えないので、外野で走っていたりとか、体幹トレーニングで鍛えたりとか、それ位しかやる事がありませんでした。」
深澤「じゃぁ、君が今言った、細かい野球?インサイドベースボールどころじゃなかったんだ。」
大泉「そうなんですよ。ただ公式戦は、神宮球場のスタンドで見ていたので、その時、野球部員と一緒に、『ここはエンドランじゃないよな』とか『ここは盗塁するべきだよな』といった話をしていました。」
深澤「お前、監督批判していたな?」
大泉「いやいや、そんな事はないです。」
深澤「でもね、プロ野球というのは、考えられないくらいの戦法があり、展開があり、本当にドラマチックだよ。だから、それについていくには相当の事を、勉強しなければならない。まずルールから。実は、僕がずっと読んでいた本があってね。『高校生のためのウイニング・ベースボール』という本なんだけど、これはアメリカで出版された本で、野球の1~10まで全部書いてある。50年位前に出た本なんだけど、もう絶版になっているんだけど、神田に行くとある、古本屋に行けばあると思う。」
「実は、僕が80何歳かで中継を辞めたとき、その『ウイニングベースボール』を原監督にあげてきたんだ。監督は馬鹿にされたと感じたかもしれないんだけど、実に良い事が書いてあるんだよ。野球をやっているうちに、忘れてしまったようなことが全部書いてある。だから、原監督は凄い喜んでくれてね、時々読んでるって。あと、もう一冊あげたんだ。『ドジャースの戦法』という本。巨人が川上監督時代に、その本で強くなったんだ。V9のとき。これも売っているかもしれない。」
「こういう本を買ってきて、これからの冬、野球はやっていないんだから、勉強できるんだから。そうやって勉強してグラウンドに行けば、パッと、あの事だなと解る。ただ、そうすると、アナウンサーが《しめた!》と思って、知ったかぶりして喋っちゃう。でも、アナウンサーって、どんなにベテランになっても、野球は素人。その本に書いてあったことを、どう解説に話してもらうか、関根潤三にしゃべってもらうか、どう江本孟紀にしゃべてもらうか、そういう事をすれば、いい放送は出来てくるんだ。」
大泉「そうですね。僕もその本を買って、ただ大学まで野球をやってきたので、わかったような気になっている所が、少なからずあるとは思うので、もう1回、イチから勉強をしたいなと思います。」
深澤「でもさ、全然やっていない奴よりは、はるかに得だよ。硬式野球をやっていたんだから、公園で軟式野球をやっていたわけではないんだから。それと、松本みたいに良い先輩アナウンサーもいるしね。あとは、他のアナウンサーの放送を聴くことだね。」
「僕、色々思うんだけど、野球というのが、ラグビーやサッカーに押されているけれど、お客さんの数は増えていて、今年は新記録だよね。大リーグだって増えているよね。だから、相変わらず人気はあるんだよ。だけど、なぜその人気が表面的に出てこないのか。
「それは、ONのようなスーパースターが居ないとか。でも、スーパースターまではいかないまでも、アメリカに行っちゃったけど、大谷だとかね、いるじゃない。でも、そんな野球の隆盛に役立っていないのが、放送だと思うんだ。」
「もっといい放送をしなければ、もっとみんながラジオに噛り付く、テレビの前から離れない、そういう放送をしなきゃ。はっきり言って、いまアナウンサーが足りないよ。僕が言うと偉そうだけど、本当にそう思うよ。」
「野球なんて、知って知って知りまくるくらい、聞いて聞いて聞きまくるくらい、見て見て見まくるくらいやって、野球の事なら大丈夫だというくらいのプロフェッサーになって、そこにユーモアがあって、社会時評があって、人物論があって、そうしたら面白い放送が出来るよ。そういう面白いアナウンサーが出てくると、『あのアナウンサーの中継を聴きたい』って、みんなが思ってくれたら占めたもんだよ。張り合いも出てくるし。」
大泉「先輩の放送を家で聞いていて、勉強になる事ばかりですし、自分にはない表現をされているので、凄く刺激的で勉強になります。」
深澤「いいと思うよ。それから、できるだけ自分の言葉でしゃべること。『三遊間を破った』とか、既製の言葉もいいけど、自分の言葉『三塁へ緩いゴロ』の緩いが良いんだよ。」
大泉「深澤さん、その言葉を増やすという事で、やっていた事はありますか?」
深澤「もう、ボールが転がったら、全部追っかけて、実況をした。とにかく、くどくならない様に、煩くならない程度に、全部追っかけて実況をした。最後の最後、そのプレーが終わっても、しつこく実況をした。緩いゴロとか、速いゴロとか。それから選手とよく話すこと。気持ちが解るじゃない? エラーした選手が、茫然と立っていると、一言いえるじゃない?」
大泉「そうですね。あの僕も一応、六大学野球出身なので、プロ野球にも六大学OBが多いので、球場で会ったら、挨拶をして、良く話すようにしてます。」
深澤「立教大出身は誰がいる?」
大泉「ヤクルトの捕手で、最近出ている松本直樹。」
深澤「こりゃあ大したことないなぁ」
大泉「(苦笑)DeNAの斎藤俊介という投手。今年、初めて一軍で投げたんですけど」
深澤「そう...あ、見た見た。あんまり大きくない投手だろ。」
大泉「そうです。176センチなんですけど。最近、立教出身の選手が増えてきているので、そういった意味では心強いです。」
深澤「そうか、利用できるところは、利用して。で利用されるのもいいんだよ、利用されて。一体になっていい放送をすれば良いのだから。とにかくお前、いいアナウンサーになれよ、せっかくアナウンサーになったんだから」
大泉「わかりました(苦笑)本当に、毎日が勉強です。」
深澤「そうだよ、松本なんて、すぐに抜いちゃえよ(笑)」
大泉「いや、そこは(苦笑)もう、松本アナには、実況の面でも指導していただいていますし、実況以外でも良くしてもらっているので……よく飲みに連れて行っていただいて……」
深澤「そこが怪しいな(笑)。まあいいや、とにかく体に気を付けて、とにかくリスナーを唸らせるような、やって出来ないことはないんだから、熱意だけだから、頑張れな!」
大泉「はい、わかりました。ありがとうございます。」