話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、11月11日のプレミア12で、試合の流れを変える同点セーフティスクイズを成功させた、侍ジャパン・源田壮亮選手(西武)・周東佑京選手(ソフトバンク)にまつわるエピソードを取り上げる。
11日から東京ドームと千葉・ZOZOマリンスタジアムで開幕した、野球の国際大会「プレミア12」のスーパーラウンド。1次ラウンドを勝ち抜いた6チームによるリーグ戦で、日本代表・侍ジャパンは初戦、オーストラリアと千葉で対戦しました。
日本は2004年、オールプロで臨んだアテネ五輪で、オーストラリアと準決勝で対戦。0-1で敗れましたが、このとき4番・捕手として日本の金メダルの夢を打ち砕いたのが、今回指揮官を務めるデービッド・ニルソン監督でした。
MLB・ブリュワーズの主砲だったニルソン監督は、2000年、「ディンゴ」という登録名で中日に入団。日本のピッチャーに対応しきれずシーズン途中で退団しましたが、日本の「スモール・ベースボール」をよく知っているだけに、不気味な存在です。
初戦は何としても取っておきたい日本ですが、オーストラリアに主導権を握られ、1-2で7回に突入する苦しい展開に。
1点を追う日本は、まず先頭の吉田正尚(オリックス)がヒットで出塁。ここで稲葉監督がすかさず代走に送ったのが、「侍のいだてん」周東でした。
周東はソフトバンクでは「足のスペシャリスト」として、主に代走で起用されており、各球団の主力クラスが集まる侍ジャパンのなかでは異色の「控え選手」です。選手枠が限られているなか、「ぜひ彼をメンバーに入れたい」と強く要望したのは、指揮官・稲葉監督でした。
昨年(2018年)10月にコロンビアで行われた、若手主体のU−23ワールドカップで指揮を執った稲葉監督。出塁すれば高確率でホームに還って来る俊足に、すっかり魅了された指揮官は「トップチームにも呼ぼう」と、その足に賭ける決意をしたのです。
1点ビハインドの無死一塁、何としても同点に追い付きたいこの場面。オーストラリアバッテリーも一塁ランナー・周東を警戒し、牽制やクイックモーションを徹底して来ました。
5球目、周東のために待ちに徹した浅村栄斗(楽天)は三振しましたが、周東は二盗に成功。続く松田宣浩(ソフトバンク)は三振で、2死二塁。ここでバッターは源田。
「源田さんなら足があるから、自分が三塁に行けば、内野ゴロでも点が入る」と考えた周東は、3球目に三盗を敢行。周東は、投手・ウィルキンスのモーションが少し大きくなっていたことも見逃していませんでした。これがみごとに決まり、2死三塁。
「二盗もだが、三盗も大きかった。あれでバッテリーはワンバウンド(落ちる球)が投げにくくなって、揺さぶることができた」(稲葉監督)
続く4球目、指揮官も想定していなかったプレーが飛び出します。何と、源田がセーフティスクイズを敢行!
「相手のポジショニングを見て、自分のバッティングで普通に打つのと、セーフティして足を使うのと、どちらの確率が高いかなと考え、腹を決めてやりました」(源田)
「(源田がバントの構えを見せた瞬間)正直ビックリしました。でも、そこは(源田を)信じてホームに突っ込もうと思った」(周東)
「2アウトでしたからノーサイン。あれは本人の意思です。私もまさかと思った」と稲葉監督さえ驚かせた、瞬時の判断。源田のバントの構えを見て、以心伝心、即スタートを切った周東もさすがでした。
バントは投手の正面に転がったので、一塁に投げていれば間に合ったかも、というタイミングでしたが、意表を突かれた投手・ウィルキンスは、本塁に突っ込んで来た周東にタッチしようと試みます。
しかし周東の“神足”は、タッチをスルリとくぐり抜けホームイン。源田のセーフティスクイズは記録上「犠打+野選」となったため、周東はノーヒットで一塁から還って来たことになります。これぞ、日本式スモール・ベースボール。敵将・ニルソン監督も、このプレーには脱帽する他ありませんでした。
「周東のスピードはワールドクラスだよ。(源田と周東は)リスクがあるところで完璧にやってのけた。敬意を表したい」
「国際大会では、ああいうところで『何かやってやろう』というのは非常に大事。大きな1点だった」と褒め称えた稲葉監督ですが、この積極的な走塁は就任以来、ずっと掲げて来たテーマでもありました。
2回、敵失で出塁した鈴木誠也が二盗を狙って憤死、積極性が裏目に出るシーンもありましたが、「アウトになったら俺の責任。行けると思ったら、次の塁を狙え」という姿勢を主砲自ら実践しているところが、このチームの強みでもあるのです。
鈴木は4回に、反撃のノロシとなる3試合連続のソロ本塁打を放ちましたが、ここで1点差にしておいたことが、周東起用→伝説のプレーにつながったのです。また、8回は2死二塁の場面で申告敬遠。これが決勝点となった押し出しにつながりました。相手が勝手に転んだと言えばそれまでですが、鈴木が敬遠されたのは「3試合連続アーチ」を打ったからであり、バットを振らなくても敵に威圧感を与える、これぞ4番の仕事です。
選手がいくら高いポテンシャルを持っていても、お互いを信頼し合い、個々の能力が有機的につながって行かなければ、試合には勝てません。現役時代、さまざまなドリームチームで国際試合を戦って来た稲葉監督は、そのことをよく知っています。
肝心な場面で四球が命取りになったオーストラリアと、打線の反撃を信じて、先発・山口俊(巨人)から抑えの山﨑康晃(DeNA)まで5投手が無四球リレーした日本。稲葉監督はいいチームを作りました。
11日から東京ドームと千葉・ZOZOマリンスタジアムで開幕した、野球の国際大会「プレミア12」のスーパーラウンド。1次ラウンドを勝ち抜いた6チームによるリーグ戦で、日本代表・侍ジャパンは初戦、オーストラリアと千葉で対戦しました。
日本は2004年、オールプロで臨んだアテネ五輪で、オーストラリアと準決勝で対戦。0-1で敗れましたが、このとき4番・捕手として日本の金メダルの夢を打ち砕いたのが、今回指揮官を務めるデービッド・ニルソン監督でした。
MLB・ブリュワーズの主砲だったニルソン監督は、2000年、「ディンゴ」という登録名で中日に入団。日本のピッチャーに対応しきれずシーズン途中で退団しましたが、日本の「スモール・ベースボール」をよく知っているだけに、不気味な存在です。
初戦は何としても取っておきたい日本ですが、オーストラリアに主導権を握られ、1-2で7回に突入する苦しい展開に。
1点を追う日本は、まず先頭の吉田正尚(オリックス)がヒットで出塁。ここで稲葉監督がすかさず代走に送ったのが、「侍のいだてん」周東でした。
周東はソフトバンクでは「足のスペシャリスト」として、主に代走で起用されており、各球団の主力クラスが集まる侍ジャパンのなかでは異色の「控え選手」です。選手枠が限られているなか、「ぜひ彼をメンバーに入れたい」と強く要望したのは、指揮官・稲葉監督でした。
昨年(2018年)10月にコロンビアで行われた、若手主体のU−23ワールドカップで指揮を執った稲葉監督。出塁すれば高確率でホームに還って来る俊足に、すっかり魅了された指揮官は「トップチームにも呼ぼう」と、その足に賭ける決意をしたのです。
1点ビハインドの無死一塁、何としても同点に追い付きたいこの場面。オーストラリアバッテリーも一塁ランナー・周東を警戒し、牽制やクイックモーションを徹底して来ました。
5球目、周東のために待ちに徹した浅村栄斗(楽天)は三振しましたが、周東は二盗に成功。続く松田宣浩(ソフトバンク)は三振で、2死二塁。ここでバッターは源田。
「源田さんなら足があるから、自分が三塁に行けば、内野ゴロでも点が入る」と考えた周東は、3球目に三盗を敢行。周東は、投手・ウィルキンスのモーションが少し大きくなっていたことも見逃していませんでした。これがみごとに決まり、2死三塁。
「二盗もだが、三盗も大きかった。あれでバッテリーはワンバウンド(落ちる球)が投げにくくなって、揺さぶることができた」(稲葉監督)
続く4球目、指揮官も想定していなかったプレーが飛び出します。何と、源田がセーフティスクイズを敢行!
「相手のポジショニングを見て、自分のバッティングで普通に打つのと、セーフティして足を使うのと、どちらの確率が高いかなと考え、腹を決めてやりました」(源田)
「(源田がバントの構えを見せた瞬間)正直ビックリしました。でも、そこは(源田を)信じてホームに突っ込もうと思った」(周東)
「2アウトでしたからノーサイン。あれは本人の意思です。私もまさかと思った」と稲葉監督さえ驚かせた、瞬時の判断。源田のバントの構えを見て、以心伝心、即スタートを切った周東もさすがでした。
バントは投手の正面に転がったので、一塁に投げていれば間に合ったかも、というタイミングでしたが、意表を突かれた投手・ウィルキンスは、本塁に突っ込んで来た周東にタッチしようと試みます。
しかし周東の“神足”は、タッチをスルリとくぐり抜けホームイン。源田のセーフティスクイズは記録上「犠打+野選」となったため、周東はノーヒットで一塁から還って来たことになります。これぞ、日本式スモール・ベースボール。敵将・ニルソン監督も、このプレーには脱帽する他ありませんでした。
「周東のスピードはワールドクラスだよ。(源田と周東は)リスクがあるところで完璧にやってのけた。敬意を表したい」
「国際大会では、ああいうところで『何かやってやろう』というのは非常に大事。大きな1点だった」と褒め称えた稲葉監督ですが、この積極的な走塁は就任以来、ずっと掲げて来たテーマでもありました。
2回、敵失で出塁した鈴木誠也が二盗を狙って憤死、積極性が裏目に出るシーンもありましたが、「アウトになったら俺の責任。行けると思ったら、次の塁を狙え」という姿勢を主砲自ら実践しているところが、このチームの強みでもあるのです。
鈴木は4回に、反撃のノロシとなる3試合連続のソロ本塁打を放ちましたが、ここで1点差にしておいたことが、周東起用→伝説のプレーにつながったのです。また、8回は2死二塁の場面で申告敬遠。これが決勝点となった押し出しにつながりました。相手が勝手に転んだと言えばそれまでですが、鈴木が敬遠されたのは「3試合連続アーチ」を打ったからであり、バットを振らなくても敵に威圧感を与える、これぞ4番の仕事です。
選手がいくら高いポテンシャルを持っていても、お互いを信頼し合い、個々の能力が有機的につながって行かなければ、試合には勝てません。現役時代、さまざまなドリームチームで国際試合を戦って来た稲葉監督は、そのことをよく知っています。
肝心な場面で四球が命取りになったオーストラリアと、打線の反撃を信じて、先発・山口俊(巨人)から抑えの山﨑康晃(DeNA)まで5投手が無四球リレーした日本。稲葉監督はいいチームを作りました。