ニュース 2020.07.15. 20:50

元Rソックス・田澤のNPB入り阻む時代遅れの「田澤ルール」

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【プロ野球埼玉武蔵ヒートベアーズ】入団会見でユニフォームを着る埼玉武蔵ヒートベアーズ・田澤純一=2020年7月13日 埼玉県熊谷市 写真提供:産経新聞社
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、7月13日に独立リーグ・埼玉武蔵ヒートベアーズへの入団会見を行った田澤純一投手と、12年前に決められた「田澤ルール」をめぐるエピソードを取り上げる。

「いろいろ迷ったこともありましたが、監督から(入団オファーの)コメントをいただき、このチームでプレーしようと思いました」

2013年、ボストン・レッドソックスでセットアッパーを務め、世界一に貢献。メジャーで通算9シーズンプレーした田澤純一投手(34歳)が、13日、埼玉・熊谷市内で会見。ルートインBCリーグ・埼玉武蔵ヒートベアーズへの入団を発表しました。

「コロナのなか、アメリカもマイナー(リーグの試合)がなく、やれる場所があまりなかった。オファーをもらい、素直に嬉しかった」

田澤は昨シーズン(2019年)、シカゴ・カブス、次いでシンシナティ・レッズといずれもマイナー契約を交わしましたが、メジャーでの登板機会はなく、今年(2020年)3月にレッズを自由契約となっていました。他球団でのメジャー昇格を模索しましたが、新型コロナウイルスの影響で、今シーズン、マイナーリーグは開催中止が決定。田澤はプレーする場所を求め、2008年、社会人野球時代以来12年ぶりに、日本球界への復帰を決めました。

本来、田澤ほどの実績があれば、NPBの球団からオファーが来てしかるべきですが、田澤は現在「NPBでプレーしたくてもできない」状況にあります。それは通称「田澤ルール」と呼ばれる規定があるからです。

2008年、社会人野球の名門・新日本石油ENEOS(現JX-ENEOS)のエースだった田澤は、この年の都市対抗野球で、先発・リリーフとフル回転。5試合すべてに登板してチームを優勝に導き、橋戸賞(大会MVP)を受賞しました。

「ドラフトの目玉候補」として注目された田澤ですが、ドラフト会議を前にメジャーリーグ挑戦を表明。同時に、NPB12球団宛てに「指名回避要望書」を送付し、「指名されても入団しない」と宣言したのです。結局、ドラフトではどの球団も指名を回避。田澤は12月にレッドソックスと契約し、翌2009年8月にメジャーリーグデビューを飾りました。

この田澤の行動は、当時大きな波紋を呼びました。それまでにも日本の球団を経ずに、直接米国に渡った選手はいましたが、アマチュアのトップ選手がメジャーの球団と契約を交わしたケースは、これが初めてだったからです。このとき、さらなるアマ球界からの人材流出を危惧したNPBは、12球団の申し合わせ事項として、こんなルールをつくりました。

「ドラフト指名を拒否して海外のプロ球団と契約した選手は、海外球団を退団後も一定期間、NPB球団と契約することはできない。NPBでプレーするにはドラフト指名される必要があり、高卒選手は3年間、大学・社会人出身選手は2年間、指名を凍結される」

これがいわゆる「田澤ルール」で、12年前に決められたこの規定によって、田澤は今シーズン、NPBでプレーする道を閉ざされているのです。また、このルールは直接海外挑戦を目指したアマチュア選手たちを縛ることにもなりましたが、その後、球界のグローバル化が進むなかで、いささか時代遅れになっているのは否めません。

以下は筆者の私見ですが、そもそも、どこの国でプレーするかは選手本人の自由であり、「日本のアマ選手は、日本のプロ野球を経てからメジャーへ行くのが筋」などと言う権利はどこにもないはずです。確かに「田澤ルール」は「メジャーに直で行くな」とは言っていないものの、どこか懲罰的な匂いを感じますし、どんな縛りを設けようが、田澤のように「どうしてもメジャーに行くんだ」という選手は行くでしょう。このルールは抑止力よりも、若いアマチュア選手たちを幻滅させているだけのような気がします。

もしNPBが本気で人材流出を懸念するのであれば、逆転の発想で、海外からアマの優秀な人材が流入して来るように、各球団が環境を整えればいいのです。昨年(2019年)5月に、ソフトバンクが契約を結んだ、米国アマ球界の逸材、カーター・スチュワート投手が好例です。

スチュワートは2018年、アトランタ・ブレーブスからドラフト1巡目指名を受けましたが、身体検査で「右手首に異常が見つかった」として契約額を下げられ、入団を拒否。次の全米ドラフト直前に、突然ソフトバンクと契約して米球界を驚かせました。

契約に至った決め手は、スチュワートが日本球界のレベルの高さと、ソフトバンクの育成システムに共鳴したからです。つまり、環境が必ずしもいいとは言えない米国のマイナーリーグからメジャーを目指すよりも、環境の整った日本球界で実績を残してから“逆輸入”の形でメジャー入りしたほうが、より高い条件で契約できると考えたからです。

この件、スチュワートは再びドラフト上位指名が確実視されていただけに、自国の逸材を日本球界に攫われることになったMLBは快く思わなかったでしょうが、「田澤ルール」のような規定を設けることは、当然ですがしませんでした。

田澤の埼玉武蔵入団会見では、このルールに関する質問も出ましたが、田澤はこうコメントしました。「そういったルールがなくなってくれればいいな、という気持ちは、個人的にはあります」。自分の渡米が原因で、メジャーに憧れる後進の選手たちに縛りをつくってしまったのではないか?……田澤の表情を見ているとそんな苦悩すら感じますが、それは彼のせいではありません。田澤は単に自分の歩みたい道を選んだだけで、ルールを破ったわけでも何でもないのです。12年後も、まだ苦しめられる必要はあるのでしょうか?

NPBも、本気でグローバルスタンダードを目指すのであればまず、旧態依然とした「田澤ルール」を撤廃することから始めたらどうでしょうか?
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