話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、12月11日、DeNAから巨人へのFA移籍が決まった梶谷隆幸選手にまつわるエピソードを取り上げる。
日本シリーズでソフトバンクに2年連続完敗した巨人が、巻き返しのため、今年(2020年)のオフも積極的な補強に動いています。まずは国内フリーエージェント(FA)権を行使したDeNAのリードオフマン・梶谷隆幸の入団が決定。これとは別に、同じDeNAからFA宣言していたピッチャー・井納翔一の獲得も決まった模様です。
「また同じセ・リーグから、主力選手を引っこ抜いて行くのか」という批判の声もありますが、ソフトバンクに完膚なきまで叩きのめされたいま、覇権奪回のため、もはやなりふり構ってはいられないのでしょう。
走攻守3拍子揃った梶谷は、プロ8年目の2014年に39盗塁を奪い、初の盗塁王に輝きました。2017年には「21本塁打・21盗塁」をマーク。同じ年に本塁打20本・20盗塁を記録したのは、球団史上39年ぶり3人目の快挙でした。
トリプル3も狙えそうな勢いでしたが、2018年、右肩の不調や腰痛に加え、死球で右手の尺骨を骨折。その影響で過去2年(2018年・2019年)はいずれも試合出場が41試合にとどまり、2年連続でオフは大減俸となりました(今季推定年俸は7400万円)。
背水の陣で臨んだ今シーズン(2020年)は、故障も癒え、開幕から不動の1番打者として活躍。同僚の佐野恵太に次ぐ打率リーグ2位の.323を記録し、さらに19本塁打・14盗塁といずれも3年ぶりに数字を2ケタに乗せました。
今季、1番と5番が課題となった巨人。リードオフマンとクリーンアップ、どちらもこなせる梶谷は、補強ポイントにぴったりはまる存在でした。残留を願って「宣言残留」も認めたDeNAに対し、巨人は「4年8億円」の好条件を提示。梶谷は悩んだ末、14年在籍したDeNAを離れ、新天地で戦う道を選びました。新しい背番号は「13」です。
とはいえ「32歳の選手に、4年契約はちょっと長いのでは?」という声もあります。梶谷はこの14年間で、規定打席に達したのは今季を含め5回だけ。故障がちなのも気になります。しかし梶谷には、「ムードを変える力」があります。
10月18日、横浜スタジアムで行われたDeNA-巨人戦。梶谷は7回、3点差に迫った場面で、高梨雄平から逆転満塁本塁打を放つと、8回には2打席連発となる、ダメ押しの2ラン。梶谷は1人で6打点を挙げる大活躍で、入場規制のなか詰めかけた1万5833人の観客を沸かせてみせました。
梶谷はこれ以外にも、今季、ファンを沸かせる一発を放っています。今季初の有観客試合となった7月10日の阪神戦(甲子園球場)で、プレイボール直後にいきなり先頭打者本塁打。さらに入場制限が緩和された9月19日、今季初めて横浜スタジアムの外野席にファンが入った巨人戦でも、本塁打2発を放ちました。こういう「ファンが待ち焦がれた試合」で本塁打が打てるのは、梶谷自身「ファンの期待に応えたい」という思いが、ことのほか強いからでもあります。
また、「野球に対するひたむきさ」も梶谷の特筆すべき点です。2016年のCS(クライマックスシリーズ)ファーストステージに出場した梶谷は、第3戦で巨人・内海哲也から死球を受け左手薬指を骨折。激痛で立ちくらみが起こるほどの状態でしたが、チームがファイナルステージに駒を進めたため、梶谷は痛みをおして試合に出続けました。
広島とのファイナルステージ第3戦、8回、2死満塁の場面で右翼を守っていた梶谷は、新井貴浩の放ったファウルフライを、ダイビングキャッチ! 梶谷は薬指が圧迫されないようグラブの小指付近を切って穴を開けていたため、患部が直接グラウンドに触れました。悶絶するほどの痛みが走ったはずですが、捕球したボールをつかんで離さなかった梶谷。気迫のプレーでチームを救った梶谷は当時、こう語っていました。
「これで試合に出なかったら、内海さんに申し訳ないでしょう」
もちろん、ソフトバンクとの差は一朝一夕で埋まるものではありません。しかし「逆境に立ち向かう強さ」を持った選手が1人いるだけで、チームのムードは大きく変わります。日本シリーズではいったん主導権を奪われると、そのまま無抵抗でズルズルと敗れる試合の繰り返しでした。そんな「おとなしさ」は要らない。ひたむきに勝利へ向かう姿勢を見せて欲しい……巨人が梶谷と4年の長期契約を結んだ理由は、そのあたりにもあるような気がします。
今年の開幕前、スポーツ紙のインタビューでFA権について聞かれ、「僕はやっぱり横浜で終わりたい」と答えていた梶谷。今回、その言葉とは相反する選択になりましたが、梶谷はその後に、こう付け加えていました。
「男としては、必要とされないことほど虚しいことはない。必要とされているところで野球をやりたいし、それが横浜であればいい。そう思ってもらえるよう、今年も頑張らないと」
「梶谷が必要だ」という思いは、今回巨人のほうが上回った、ということなのでしょう。それは本人が熟慮の末に決めたことであり、外部がとやかく言うことではないと思います。必要とされればされるほど意気に感じる男・梶谷は、巨人をどう変えるのか? いっぽう、DeNAの若手野手にとって、梶谷移籍は「チャンス到来」でもあります。三浦大輔新監督が誰を抜擢するのか? 梶谷の選択が、セ・リーグの活性化につながることを期待します。
日本シリーズでソフトバンクに2年連続完敗した巨人が、巻き返しのため、今年(2020年)のオフも積極的な補強に動いています。まずは国内フリーエージェント(FA)権を行使したDeNAのリードオフマン・梶谷隆幸の入団が決定。これとは別に、同じDeNAからFA宣言していたピッチャー・井納翔一の獲得も決まった模様です。
「また同じセ・リーグから、主力選手を引っこ抜いて行くのか」という批判の声もありますが、ソフトバンクに完膚なきまで叩きのめされたいま、覇権奪回のため、もはやなりふり構ってはいられないのでしょう。
走攻守3拍子揃った梶谷は、プロ8年目の2014年に39盗塁を奪い、初の盗塁王に輝きました。2017年には「21本塁打・21盗塁」をマーク。同じ年に本塁打20本・20盗塁を記録したのは、球団史上39年ぶり3人目の快挙でした。
トリプル3も狙えそうな勢いでしたが、2018年、右肩の不調や腰痛に加え、死球で右手の尺骨を骨折。その影響で過去2年(2018年・2019年)はいずれも試合出場が41試合にとどまり、2年連続でオフは大減俸となりました(今季推定年俸は7400万円)。
背水の陣で臨んだ今シーズン(2020年)は、故障も癒え、開幕から不動の1番打者として活躍。同僚の佐野恵太に次ぐ打率リーグ2位の.323を記録し、さらに19本塁打・14盗塁といずれも3年ぶりに数字を2ケタに乗せました。
今季、1番と5番が課題となった巨人。リードオフマンとクリーンアップ、どちらもこなせる梶谷は、補強ポイントにぴったりはまる存在でした。残留を願って「宣言残留」も認めたDeNAに対し、巨人は「4年8億円」の好条件を提示。梶谷は悩んだ末、14年在籍したDeNAを離れ、新天地で戦う道を選びました。新しい背番号は「13」です。
とはいえ「32歳の選手に、4年契約はちょっと長いのでは?」という声もあります。梶谷はこの14年間で、規定打席に達したのは今季を含め5回だけ。故障がちなのも気になります。しかし梶谷には、「ムードを変える力」があります。
10月18日、横浜スタジアムで行われたDeNA-巨人戦。梶谷は7回、3点差に迫った場面で、高梨雄平から逆転満塁本塁打を放つと、8回には2打席連発となる、ダメ押しの2ラン。梶谷は1人で6打点を挙げる大活躍で、入場規制のなか詰めかけた1万5833人の観客を沸かせてみせました。
梶谷はこれ以外にも、今季、ファンを沸かせる一発を放っています。今季初の有観客試合となった7月10日の阪神戦(甲子園球場)で、プレイボール直後にいきなり先頭打者本塁打。さらに入場制限が緩和された9月19日、今季初めて横浜スタジアムの外野席にファンが入った巨人戦でも、本塁打2発を放ちました。こういう「ファンが待ち焦がれた試合」で本塁打が打てるのは、梶谷自身「ファンの期待に応えたい」という思いが、ことのほか強いからでもあります。
また、「野球に対するひたむきさ」も梶谷の特筆すべき点です。2016年のCS(クライマックスシリーズ)ファーストステージに出場した梶谷は、第3戦で巨人・内海哲也から死球を受け左手薬指を骨折。激痛で立ちくらみが起こるほどの状態でしたが、チームがファイナルステージに駒を進めたため、梶谷は痛みをおして試合に出続けました。
広島とのファイナルステージ第3戦、8回、2死満塁の場面で右翼を守っていた梶谷は、新井貴浩の放ったファウルフライを、ダイビングキャッチ! 梶谷は薬指が圧迫されないようグラブの小指付近を切って穴を開けていたため、患部が直接グラウンドに触れました。悶絶するほどの痛みが走ったはずですが、捕球したボールをつかんで離さなかった梶谷。気迫のプレーでチームを救った梶谷は当時、こう語っていました。
「これで試合に出なかったら、内海さんに申し訳ないでしょう」
もちろん、ソフトバンクとの差は一朝一夕で埋まるものではありません。しかし「逆境に立ち向かう強さ」を持った選手が1人いるだけで、チームのムードは大きく変わります。日本シリーズではいったん主導権を奪われると、そのまま無抵抗でズルズルと敗れる試合の繰り返しでした。そんな「おとなしさ」は要らない。ひたむきに勝利へ向かう姿勢を見せて欲しい……巨人が梶谷と4年の長期契約を結んだ理由は、そのあたりにもあるような気がします。
今年の開幕前、スポーツ紙のインタビューでFA権について聞かれ、「僕はやっぱり横浜で終わりたい」と答えていた梶谷。今回、その言葉とは相反する選択になりましたが、梶谷はその後に、こう付け加えていました。
「男としては、必要とされないことほど虚しいことはない。必要とされているところで野球をやりたいし、それが横浜であればいい。そう思ってもらえるよう、今年も頑張らないと」
「梶谷が必要だ」という思いは、今回巨人のほうが上回った、ということなのでしょう。それは本人が熟慮の末に決めたことであり、外部がとやかく言うことではないと思います。必要とされればされるほど意気に感じる男・梶谷は、巨人をどう変えるのか? いっぽう、DeNAの若手野手にとって、梶谷移籍は「チャンス到来」でもあります。三浦大輔新監督が誰を抜擢するのか? 梶谷の選択が、セ・リーグの活性化につながることを期待します。