話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、5月5日の阪神戦で、強力打線を相手に好投を見せたヤクルト・奥川恭伸投手のエピソードを取り上げる。
5月5日、こどもの日。ヤクルトの奥川恭伸投手が今季(2021年)4度目の先発マウンドに立ちました。結果的に勝ち負けはつかず、プロ2勝目とはなりませんでしたが、最速148キロのストレートを軸に6回86球5奪三振。許したヒットは3本のみで2失点。内容としては、初勝利を挙げながらも5失点を喫した4月8日の広島戦以上の力投と言えます。
その投球内容を掘り下げると、これまで越えられなかった「2つの壁」を突破した奥川投手の姿がありました。
まずは、「初回の壁」です。
昨年(2020年)11月10日のプロデビュー戦では初回に2失点。今季初登板となった3月28日の阪神戦では初回に先制打を許し、プロ初勝利を挙げた試合でも初回2死走者なしから5連打を浴びて4失点。4月23日の中日戦でも先制点をもらった直後に同点に追いつかれるなど、奥川投手はここまでに登板した試合すべての立ち上がりで失点。初回はまさに“鬼門”でした。
しかし、今季4度目の先発となった5日の阪神戦では初回を3者凡退の無失点。プロ入りして初めて“鬼門”を無傷で切り抜けたのです。
もう1つは、「5回の壁」です。
4月までの今季3試合は、すべて判を押したように5回を投げ終わって降板。投げ過ぎはいまの時代にそぐわないとは言え、夏の甲子園で延長の激闘を投げ抜き、決勝戦まで勝ち上がった伝説の投球を知るファンにとっては、物足りなさもありました。
ところが、5日の試合ではこの「5回の壁」を突破し、プロ最長の6回、プロ最多となる1試合86球を投じた奥川投手。これで、先発投手の評価軸の1つ、クオリティ・スタート(6イニング以上を投げて自責点が3点以内)も初めてクリアしました。
一歩ずつ、少しずつ課題をクリアして行く奥川投手。ファンからすると、ゆっくりとした歩みに歯がゆさもあるかも知れません。ただ、奥川投手本人、そしてチームとしては「将来のエースを目指して」という、目先の結果にとらわれない長期的視野に立った目標があるからこそ、ブレはありません。あるインタビューで、奥川投手はこんなコメントを残しています。
一方、チームを預かる高津臣吾監督はこう言っています。
昔から「燕が巣をつくると、その家は繁盛する」と言われますが、奥川投手はまさにいま、将来のチームの繁盛のため、自らの巣づくりをしている段階と言えます。
もっとも、目の前にある壁と向き合い、一歩ずつ成長するのはいまに始まったことではありません。「高校生ナンバーワン右腕」と評された星稜高校時代も、その座に辿り着くまでには紆余曲折があったことを当時の恩師・林和成監督がこう評しています。
実際、1年秋の県大会決勝と北信越大会決勝で対戦した日本航空石川高には、2試合で計16失点の炎上。2年春のセンバツ準々決勝(対三重戦)では一死も取れず4失点で負け投手に。2年夏の甲子園2回戦(対済美高)では足がつってしまい途中降板。また、同学年の佐々木朗希(当時、大船渡高)と高校代表合宿で出会い、163キロを間近で見た際には、上には上がいることを思い知ったと言います。
そんな奥川投手が真のエースになるため、次なる課題となりそうなのが「球場の壁」です。実は奥川投手、去年と今年、ここまで1軍で投げた5試合はすべて本拠地・神宮球場での登板。敵地での洗礼やプレッシャーをまだ浴びていません。
奥川投手の次の1軍登板はまだ未定ですが、本拠地以外の“燕”征試合でも結果を出す姿をファンは待ち望んでいるはずです。
最後にもう1つ、恩師である星稜高・林和成監督のコメントをご紹介します。
5月5日、こどもの日。ヤクルトの奥川恭伸投手が今季(2021年)4度目の先発マウンドに立ちました。結果的に勝ち負けはつかず、プロ2勝目とはなりませんでしたが、最速148キロのストレートを軸に6回86球5奪三振。許したヒットは3本のみで2失点。内容としては、初勝利を挙げながらも5失点を喫した4月8日の広島戦以上の力投と言えます。
その投球内容を掘り下げると、これまで越えられなかった「2つの壁」を突破した奥川投手の姿がありました。
まずは、「初回の壁」です。
昨年(2020年)11月10日のプロデビュー戦では初回に2失点。今季初登板となった3月28日の阪神戦では初回に先制打を許し、プロ初勝利を挙げた試合でも初回2死走者なしから5連打を浴びて4失点。4月23日の中日戦でも先制点をもらった直後に同点に追いつかれるなど、奥川投手はここまでに登板した試合すべての立ち上がりで失点。初回はまさに“鬼門”でした。
しかし、今季4度目の先発となった5日の阪神戦では初回を3者凡退の無失点。プロ入りして初めて“鬼門”を無傷で切り抜けたのです。
もう1つは、「5回の壁」です。
4月までの今季3試合は、すべて判を押したように5回を投げ終わって降板。投げ過ぎはいまの時代にそぐわないとは言え、夏の甲子園で延長の激闘を投げ抜き、決勝戦まで勝ち上がった伝説の投球を知るファンにとっては、物足りなさもありました。
ところが、5日の試合ではこの「5回の壁」を突破し、プロ最長の6回、プロ最多となる1試合86球を投じた奥川投手。これで、先発投手の評価軸の1つ、クオリティ・スタート(6イニング以上を投げて自責点が3点以内)も初めてクリアしました。
一歩ずつ、少しずつ課題をクリアして行く奥川投手。ファンからすると、ゆっくりとした歩みに歯がゆさもあるかも知れません。ただ、奥川投手本人、そしてチームとしては「将来のエースを目指して」という、目先の結果にとらわれない長期的視野に立った目標があるからこそ、ブレはありません。あるインタビューで、奥川投手はこんなコメントを残しています。
『エースと呼ばれる存在になりたい。そうならないといけないというか、そういうのも十分に思っている。しっかりと期待に応えられるように、頑張りたい』
~『時事ドットコム』2021年4月19日配信記事 より
一方、チームを預かる高津臣吾監督はこう言っています。
『彼の野球人生の5年後、10年後、15年後を考えた時に、2年目のシーズンでローテーションに入って頑張ったことが結果的に良かったね、と言えるようなシーズンにさせたい。エースに育てないといけない。なってもらわないと困る』
~『時事ドットコム』2021年4月19日配信記事 より
昔から「燕が巣をつくると、その家は繁盛する」と言われますが、奥川投手はまさにいま、将来のチームの繁盛のため、自らの巣づくりをしている段階と言えます。
もっとも、目の前にある壁と向き合い、一歩ずつ成長するのはいまに始まったことではありません。「高校生ナンバーワン右腕」と評された星稜高校時代も、その座に辿り着くまでには紆余曲折があったことを当時の恩師・林和成監督がこう評しています。
『ターニングポイントとなったのが2年春の県大会決勝で4安打完封。そこで、自信をつけたと思います。でも、良くなったな? と思っても再び壁にぶつかる、その繰り返しでした』
~『週刊ベースボールONLINE』2019年9月14日配信記事 より(星稜高・林和成監督のコメント)
実際、1年秋の県大会決勝と北信越大会決勝で対戦した日本航空石川高には、2試合で計16失点の炎上。2年春のセンバツ準々決勝(対三重戦)では一死も取れず4失点で負け投手に。2年夏の甲子園2回戦(対済美高)では足がつってしまい途中降板。また、同学年の佐々木朗希(当時、大船渡高)と高校代表合宿で出会い、163キロを間近で見た際には、上には上がいることを思い知ったと言います。
『多くの壁に当たりながら成長してくれた。成功するために『野球の神様』が、いろいろ課題を授けてくれた』
~『週刊ベースボールONLINE』2019年9月14日配信記事 より(星稜高・林和成監督のコメント)
こうした苦い経験を味わい、糧としながら、最後の夏に甲子園準優勝投手となった奥川投手。いまは、プロでも同じような「壁に当たりながら成長」する過程を踏んでいる段階なのです。
そんな奥川投手が真のエースになるため、次なる課題となりそうなのが「球場の壁」です。実は奥川投手、去年と今年、ここまで1軍で投げた5試合はすべて本拠地・神宮球場での登板。敵地での洗礼やプレッシャーをまだ浴びていません。
奥川投手の次の1軍登板はまだ未定ですが、本拠地以外の“燕”征試合でも結果を出す姿をファンは待ち望んでいるはずです。
最後にもう1つ、恩師である星稜高・林和成監督のコメントをご紹介します。
『指名してもらった球団に恩返しができるように。精神的な強さ、ぶれない気持ちも必要になると思う。結果が出ないことも、いろいろな壁もあると思う。エースになって、優勝に導いてほしい』
~『サンケイスポーツ』2019年12月29日配信記事 より