ニュース 2021.07.27. 08:30

オリックスの参謀が語る“躍進”の裏側?

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笑顔で練習を見守るオリックスの水本勝己ヘッドコーチ<写真=北野正樹>

快進撃の裏側に指揮官の腹心


 2014年以来の首位で前半戦を折り返したオリックス。25年ぶりの優勝に向け、中嶋聡監督の腹心でもある水本勝己ヘッドコーチが今季の躍進につながる秘密の一端を語った。

 炎天下の下、二軍の本拠地・舞洲バファローズスタジアムで行われた、五輪休み中の練習。投内連係、挟殺プレー、ケースバッティングと、基本プレーに多くの時間が割かれる。挟殺プレーでは、走者の挟み方などを、プレーを止めて確認するなど、後半戦に向け、課題や問題点をつぶしていく地道な作業が繰り広げられた。

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 外野の芝生の上から静かに見守る中嶋聡監督に代わり、「いいプレーだ」「頑張っていこう」などと声を挙げるのが、水本勝己ヘッドコーチ。現役生活は2年で、一軍経験もない広島一筋の野球人生だったが、選手と汗をかき、気持ちに寄り添う指導力には定評がある。

 中嶋監督とは、ともに二軍監督としてウエスタン・リーグで凌ぎを削り、若手育成に知恵を絞った仲。今季から正式に一軍の指揮を執る中嶋監督の要請を受け、2年連続で最下位に沈むオリックスの再建に手を貸すことになった。中嶋監督が「僕と野球観が同じ」と、全幅の信頼を置く参謀だ。

 「勝つ喜びを覚えたら、このチームは強くなる」。キャンプ中盤での水本ヘッドの言葉通り、オリックスは快進撃を続けている。中嶋監督が、勝つことで殻を破り、選手の意識を変えさせようと臨んだ開幕戦の連敗ストップは果たせなかったが、6月11日に何度も跳ね返された“5割の壁”を突き抜けると、翌12日には11年ぶりの交流戦優勝。同21日に単独首位に立つと、23日の日本ハム戦まで37年ぶりの11連勝で首位固め。ここまで安定した試合を続けてきた。

 吉田正尚やT-岡田らの勝負強い打撃、開幕投手を務めた山本由伸の安定した投球などに加え、高卒2年目で9勝1敗の宮城大弥、社会人出身6年目に18本塁打と覚醒した杉本裕太郎といった戦力の台頭が躍進の大きな要素だ。

 その一方で表には出ないが、監督とコーチングスタッフ間、首脳陣と選手間の風通しのよさも快進撃を支える要因になっている。


意識改革を醸成する風土


 前半戦途中から、基本的に試合直前の守備練習(シートノック)をなくしたのも、意思疎通の良さから生まれたものの1つ。「一軍は試合に勝ってお客さんに喜んでもらうのが仕事。勝つためにはどうすればいいのかをスタッフの間で議論した時、試合直前のシートノックをやめてみてはどうか、という話になった」と水本ヘッド。選手が集中して試合に臨める方法の1つとして、試合前の準備を選手に委ねてみてはどうか、という発想からだ。

 ミーティングでシートノック廃止を提示された選手からは、歓迎の声が上がったという。今季、三塁に定着し、ダイナミックな守りでチームに貢献している宗佑磨もそのひとり。ホームゲーム、ビジターにかかわらず、ミーティングなどもあり、選手が練習後、試合前に自由に使える時間は30分程度。その時間内に個人的に相手投手の映像やデータを確認するため、慌ただしく過ごす。宗は「試合前のノックがなくなれば、時間的な余裕が生まれる。その時間を試合に入る準備に充てることが出来る」と肯く。

 もちろん、敵地でのカード頭やドームではない球場、慣れていない地方球場では、これまで通りノックを行う。水本ヘッドは「試合に最大限、集中するための準備をしてほしいということ。すべてやめてしまったわけではないし、やめると決めたわけでもない。結果が悪ければまた戻せばいいだけの話」と柔軟な考えのもと、「選手に、試合に臨む自覚と責任を持ってもらうものも目的」と、秘めたる狙いも明かす。

 ノックを担当する風岡尚幸・内野守備走塁コーチは「いろんな準備の仕方があり、何が正しいのか答えはない。試合前から(選手の)エンジンをかけたり、切ったりするこれまでのやり方がいいのか、どうか。ミスが出なくて試合に勝つことが出来れば、シートノックはなくてもいいのではないか。全員で考え、僕も賛成した」という。

 新しい試みには、不安も付きまとう。しかし、風岡コーチは「やったことがないからではなく、やってみてどうなの、ということ。でも、今までの歴史を考えると、なかなか試せないんですよ」と、実情を吐露する。 そんな中で今回の試みを実現に導いたのが、風通しのよさだ。

 「(コーチ陣)みんなでいろんな話が出来ることは、今までになかった。こんな試みは、これまでの12球団ではないパターンではないか」。2000年の現役引退後、阪神-中日-阪神-オリックスで指導者の道を歩む風岡だけに、斬新な取り組みという言葉には説得力がある。

 新任の梵英心・打撃コーチも、シートノックについて「普通に考えれば変える必要がないことだが、どうすれば選手が試合に臨みやすいか、どうすればチームの勝利につながるのか、ということを考えるのは、いいこと。失敗を恐れても仕方がない。スタッフ間でコミュニケーションがとれ、いい方向に向いている」と話す。


水本ヘッドと首脳陣の想い


 ほかにも、コーチ陣らの意見によって取り入れられたものがある。

 打撃練習の終了時のゲージ周りのボール拾いを、居合わせた選手ら全員でしようと発案したのが、田口壮・外野守備走塁コーチ。中嶋監督もボール拾いに足を運ぶ。打撃練習中のボール拾いに、時間の空いた広報担当者やマネジャーが参加することも多い。試合直前のベンチ内で行われる全員で行うグータッチを呼びかけたのは、水本ヘッドだ。2年連続最下位からのスタート。中嶋監督が常に口にする「我々はチャレンジャー」だからこそ出来る土壌が、そこにはある。

 グータッチについて、水本ヘッドは「開幕戦では選手、スタッフ全員がやっている。それを毎日、続けようということ。どうやって試合に入っていくかが、チームの課題だった。チームに一体感が生まれ、ワクワクして試合に臨むにはどうすればいいかと考えた」と、その狙いを説明する。

 また、「試合が終わって、勝った、負けた、次の試合だ、というようにはなってもらいたくない。試合が終わって『疲れた』というくらいに集中してほしい。言葉は悪いが、これまで(の低迷には)そんな要素もあるのではと、(外部からみて)思っていた」というから、一体感を醸成し、選手の意識改革につなげる思いもあったようだ。

 「僕らも含めて発展途上。勝つためにはどうすればいいか。足りない部分はどこかと考える。選手には大人になってほしいから、こういう選択肢もあるよ、と道を作ってあげたい。そのためには、監督にも意見は言うし、みんなが話せる環境を作る。とにかくやってみようというのが、僕の性格。考えるだけでは、何もコトが起こらない。極めてシンプルなんですよ」と、水本ヘッドは語る。

 8月半ばから始まる後半戦は56試合。25年ぶりの優勝に向け、熾烈な戦いが待っている。

「不安もあるが、選手がいろんな経験をしてどう変わっていくのかという楽しみもある。ここからコケると、何を言われるかわからない。それでも、いいと思うことはやってみる。後は、なるようにしかならない。そこは覚悟の上です」。

 春季キャンプで、選手に「野球小僧になろう」と呼びかけた水本ヘッド。野球を始めた原点に戻りチームを変えるため、自らも野球小僧になりきる。参謀の信念に揺るぎはない。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)
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