ニュース 2021.09.09. 15:56

後伸びさせるインテリジェンスを|世界を獲るノート

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野球をやっている子ども達は「野球ノート」を書いていますか?
『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(島沢優子/カンゼン)という本があります。卓球の伊藤美誠選手、柔道の朝比奈沙羅選手など、世界を目指すトップアスリート達が日々ノートに何を書き、何を考えているのか? また世界に選手達を送り込む指導者達の「主体性」を重視した指導法などが紹介されています。
この本の中から今回は、女子日本柔道代表の増地克之監督が「成長し続ける力」について語られている部分を紹介します。グラウンドでは子ども達の「主体性」を意識した指導がされていますか?




「自分のところで結果を出そうと無理をさせないで欲しい。
子どもたちに後伸びする力を授け、次のカテゴリーにバトンタッチする。それが指導者の役割です」(女子日本柔道代表監督 増地克之)


わかったか?「はい」
こうするんだ。「はい」

育成年代と言われる小中学生のスポーツの指導現場に行くと、子どもの返事ばかりが聞こえてくる。その様子を見て「集中している」「意欲がある」と判断する向きもあるが、増地は「もっと質問して、選手に考えさせてほしい」と話す。

なぜなら、これまでの育成年代は「勝つための技を教え込む」ことにエネルギーが注がれた過去があるからだ。

増地が集計したデータによると、1984年から2009年までの25年間で全国中学生選抜大会(全中)で優勝した選手が、五輪や世界選手権に出場した割合は8%。入賞者(ベスト8)になるとわずか5%になる。

彼らの多くは、全国高校総体(インターハイ)の時点で消えてしまう。全中優勝者のインターハイ優勝者は21%、全中で各階級のベスト8に残っていた者のうちインターハイでも8に入ったのは26%。つまり74%、約7割強が8強に残れていないのだ。
「現場を見ていると、子どもたちは柔道をやりすぎて、バーンアウトしている。柔道が一番でなければ、その子のすべてが否定される状況に見えた。親や指導者の期待が、子どもたちの足かせになっていたのではないか」

増地の言葉を裏付けるように、2015年9月に全日本柔道連盟は中学生以下の「韓国背負い投げ」を禁止にした。それ以前から頭を打って脳振とうの事例も出ていた技で、受け身が取りにくく重大事故につながるとされ禁止されたのだ。

それ以前はこの技で勝つ中学生は少なくなかった。そうなると、その年齢に応じた基礎的な技のみを教えられた選手は、初めてかけられる技なので受け身ができず敗れてしまう。試合に勝たせるために大人が教えたと言われている。
「自分のところで結果を出そうと無理をさせないでほしい。子どもたちに後伸びする力を授けて、次のカテゴリーにバトンタッチする。それが指導者の役割です」

そう話す増地自身、全中出場経験はない。高校は進学校に進みながらインターハイで入賞。1時間半の練習を集中して行ったのち、高校教員を目指して筑波大学へ進んだ。

小中学生が、多いところでは1日4〜5時間練習するとも聞く。
「子どもがもう少しやりたいのに、と不満を言うくらいでやめることです。クタクタになって、練習から帰ったときに勉強できない状態ではいけません」

選手のピークをどこに持ってくるのか。

そのことを日本の柔道界全体で考えなくてはならないと増地は考える。とどのつまりは「後伸びの重要性」と、それを解する「知性」が求められるのだ。

自分の目の前で勝ってくれさえすれば——。

そのような精神は何よりも、講道館柔道の教え「自他共栄」にそぐわない。

『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』より




増地克之(ますちかつゆき)
1970 年、三重県出身。筑波大学から同大学大学院修了。現役時代は1990年代の全日本選手権常連として活躍。無差別級のアジア王者に2 度輝く。筑波大学柔道部監督を経て、16 年より現職。世界大会でのメダル獲得のない異例の代表監督。妻の千代里(旧姓立野)も女子強化スタッフ。

著者:島沢優子(しまざわゆうこ)
ジャーナリスト。筑波大学体育専門学群4年時に全日本女子大学バスケットボール選手権優勝。2年間の英国留学等を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年からフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。著書に『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『部活があぶない』(講談社現代新書)など。日本文藝家協会会員。

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