話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は「令和初の三冠王」が期待される東京ヤクルトスワローズ・村上宗隆選手にまつわるエピソードと、三冠達成に必要な“条件”を紹介する。
新型コロナウイルスの感染拡大で出場辞退者が相次いだ、今年(2022年)のプロ野球オールスターゲーム。出場した選手たちの頑張りで、大いに盛り上がったのは何よりでした。
勝負はパの2連勝という形になりましたが、2試合とも僅差で、力と力がぶつかり合う面白いゲームでした。観客をフルで入れての球宴は3年ぶりだけに、選手たちも例年以上に「ファンに喜んでもらえるプレー」を意識していたような気がします。
7月27日、松山で行われた第2戦、パ・リーグはロッテ・佐々木朗希が先発。佐々木はどの打者にも直球で真っ向勝負を挑みました。注目はやはり全セの4番、ヤクルト・村上宗隆との対決です。初回、村上は佐々木が投じた160キロの直球をセンター前へ。しかし村上は、まったく満足していませんでした。
たとえ佐々木朗希が投げた160キロだろうが、真っ直ぐが来るとわかっているならファンが期待する本塁打を打たないと……「僕のミスショットかな」は、そんなプライドを感じさせる一言です。
村上は3回、パを代表するエース、オリックス・山本由伸とも対戦。山本が投じた149キロの直球をライト前へ運んでいます。しかし、村上はここでも自分に“ダメ出し”をしました。
佐々木朗希、山本由伸からヒットを打ったのに「まだまだだな」と言って不遜に聞こえないのは、村上だけでしょう。球宴2試合を終えて、村上はこう語りました。
ホームランバッターとしての矜持を感じる一言。やはり村上は、ファンが求めているものをわかっています。
今季、村上は前半戦を終えて、33本塁打、89打点、打率.312。本塁打・打点はいずれも2位を大きく引き離してリーグトップ。打率もトップのDeNA・佐野恵太(.331)に約2分差の5位と十分射程圏にあります。「令和初の三冠王」への期待も高まってきますが、村上はこう宣言しました。
2リーグ制以降、三冠王はセ・パ合わせて10回達成されており、達成者はわずか6人しかいません。落合博満が3回、王貞治・バースが2回、野村克也・ブーマー・松中信彦が各1回です。平成に限ると2004年の松中だけで、いかに難しい記録かがわかります。
本塁打王と打点王の同時獲得は、過去何度も例があります。ホームランが多い打者は自ずと打点も増えますし、どちらも積み重ね系のタイトルで、数字が減ることはないからです。
一方、首位打者のタイトルが厄介なのは、こちらは「打率」ですので、打たないと数字が下がっていきます。しかしホームランを狙うと、アベレージは下がります。本塁打王と首位打者は、そもそも両狙いが難しいタイトルなのです。
前述の三冠王達成者を見ると、全員がホームランバッターです。「ホームランの打ち損ねがヒット」という感じで打率を上げて行き、アベレージヒッターを抑えて三冠獲得、というパターンがほとんどです。
前半戦終了時のセ・リーグ打率ランキングは、トップの佐野以下、宮崎敏郎(DeNA)・大島洋平(中日)・塩見泰隆(ヤクルト)・村上の順。村上以外は全員アベレージヒッターです。村上が彼らを押しのけ首位打者を獲得するには、何が必要でしょうか?
ホームランにしにくい球で攻められたとき、それを凡打にせずヒットゾーンに運ぶことも大事ですが、打率を上げるにはもう1つ方法があります。それは「打数を減らす」こと。打率=安打数÷打数ですから、分母を減らせば自ずと打率は上がります。
打数を減らすには、「四球」を増やすこと。村上の場合、敬遠されることも多いのでもともと四球は多いのですが、ボール球を見極めて、三振や凡打を四球に変えていくことも重要になってきます。つまり「選球眼」です。
選球眼のよさを測るものとして「BB/K」という指標があります。四球の数を三振の数で割ったもので、この数値が高いほど、その打者は選球眼がよいことになります。例として、落合が三冠王を獲得したときの「BB/K」を見てみましょう(小数点4位以下切り上げ)。
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■1982年 四球=81 三振=58 BB/K=1.397 打率.325
■1985年 四球=101 三振=40 BB/K=2.525 打率.367
■1986年 四球=101 三振=59 BB/K=1.712 打率.360
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BB/Kが1を超えればかなり選球眼がいいと言えますが、いずれも1を大きく突破。当時の落合がいかにボール球を見極め、三振を減らし四球を増やしていたかがわかります。自然とアベレージも上がり、連続三冠王に輝いた1985年・1986年はいずれも3割6分台の高打率をマーク。村上の三冠達成に必要なのは、BB/Kを上げていくことです。
村上はもともと選球眼がいいと言われ、BB/Kも年々向上しています。ブレイクした2年目以降の数値を見てみましょう(2022年は前半戦終了時)。
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■2019年 四球=74 三振=184 BB/K=0.402 打率.231
■2020年 四球=87 三振=115 BB/K=0.757 打率.307
■2021年 四球=106 三振=133 BB/K=0.797 打率.278
■2022年 四球=75 三振=79 BB/K=0.949 打率.312
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3年前の村上は、四球数の倍以上三振していましたが、今季は四球数と三振数がほぼ同じで、それが打率向上につながっています。前半戦はBB/Kが1を割りましたが、これを1以上にすることが三冠王獲得のカギと言えるでしょう。
もう少し、三冠王に必要な具体的数字を計算してみましょう。ヤクルトは前半戦で91試合を消化。残り試合は52試合です。前半戦フル出場した村上は、91試合で392回打席に立ちました。1試合あたりおよそ4.31打席。このペースで後半戦もフル出場した場合、あと224回打席に立つ計算になります。
いま村上より打率上位にいる4人が、後半戦どれだけ打率を上げていくかはわかりませんが、前半戦トップの佐野が.331なので、おそらく3割3分台の争いになると思われます。村上が首位打者を獲得するには、約224回打席に立つなかで、あと何本ヒットを打てばいいのでしょうか?
これは打数によって変わってきます。4番でフル出場した昨季の打数は500ちょうどでした。BB/Kが昨季より上がっているので、その分打数も減ると思われますが、とりあえず昨季と同じ500打数だと仮定してみましょう。
村上は前半戦で98安打を放っています。必要な安打数は、アベレージ別にすると以下のとおりです。
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■打率.330→ 500打数165安打 あと67安打
■打率.336→ 500打数168安打 あと70安打
■打率.340→ 500打数170安打 あと72安打
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残り52試合・約224打席で、上記の安打数を打つ計算になります。同時に本塁打と打点も積み重ねていかなければならず、道はかなり険しいですが、いまの村上であれば乗り越えていけるのではないでしょうか。
まとめると、村上三冠王の条件は「三振を極力減らし、四球を増やして、残り試合で70安打近く打つ」。52試合で70安打→1試合平均1.34安打→3試合で約4本ペースですから、何とかなりそうな気もします。あとはケガと新型コロナ感染を避けること。後半戦、村上がどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、期待しましょう。
新型コロナウイルスの感染拡大で出場辞退者が相次いだ、今年(2022年)のプロ野球オールスターゲーム。出場した選手たちの頑張りで、大いに盛り上がったのは何よりでした。
勝負はパの2連勝という形になりましたが、2試合とも僅差で、力と力がぶつかり合う面白いゲームでした。観客をフルで入れての球宴は3年ぶりだけに、選手たちも例年以上に「ファンに喜んでもらえるプレー」を意識していたような気がします。
7月27日、松山で行われた第2戦、パ・リーグはロッテ・佐々木朗希が先発。佐々木はどの打者にも直球で真っ向勝負を挑みました。注目はやはり全セの4番、ヤクルト・村上宗隆との対決です。初回、村上は佐々木が投じた160キロの直球をセンター前へ。しかし村上は、まったく満足していませんでした。
『強い打球でセンターに弾き返せたのはよかったんですけど、ホームランを打ちたいなって思いもあったので、そこは僕のミスショットかな』
~『サンケイスポーツ』 2022年7月27日配信記事 より
たとえ佐々木朗希が投げた160キロだろうが、真っ直ぐが来るとわかっているならファンが期待する本塁打を打たないと……「僕のミスショットかな」は、そんなプライドを感じさせる一言です。
村上は3回、パを代表するエース、オリックス・山本由伸とも対戦。山本が投じた149キロの直球をライト前へ運んでいます。しかし、村上はここでも自分に“ダメ出し”をしました。
『あれも真っすぐが来るとわかっていて差し込まれた。まだまだだなと思いました』
~『サンケイスポーツ』2022年7月27日配信記事 より
佐々木朗希、山本由伸からヒットを打ったのに「まだまだだな」と言って不遜に聞こえないのは、村上だけでしょう。球宴2試合を終えて、村上はこう語りました。
『普段ないような雰囲気で試合ができましたし、ホームランを打ちたかったですけど、打つことができなかったので、また来年がんばります』
~『サンケイスポーツ』2022年7月27日配信記事 より
ホームランバッターとしての矜持を感じる一言。やはり村上は、ファンが求めているものをわかっています。
今季、村上は前半戦を終えて、33本塁打、89打点、打率.312。本塁打・打点はいずれも2位を大きく引き離してリーグトップ。打率もトップのDeNA・佐野恵太(.331)に約2分差の5位と十分射程圏にあります。「令和初の三冠王」への期待も高まってきますが、村上はこう宣言しました。
『(三冠王を)狙える位置に僕がいるってことはチャンスだと思うので、達成できるように集中してがんばります』
~『サンケイスポーツ』2022年7月27日配信記事 より
2リーグ制以降、三冠王はセ・パ合わせて10回達成されており、達成者はわずか6人しかいません。落合博満が3回、王貞治・バースが2回、野村克也・ブーマー・松中信彦が各1回です。平成に限ると2004年の松中だけで、いかに難しい記録かがわかります。
本塁打王と打点王の同時獲得は、過去何度も例があります。ホームランが多い打者は自ずと打点も増えますし、どちらも積み重ね系のタイトルで、数字が減ることはないからです。
一方、首位打者のタイトルが厄介なのは、こちらは「打率」ですので、打たないと数字が下がっていきます。しかしホームランを狙うと、アベレージは下がります。本塁打王と首位打者は、そもそも両狙いが難しいタイトルなのです。
前述の三冠王達成者を見ると、全員がホームランバッターです。「ホームランの打ち損ねがヒット」という感じで打率を上げて行き、アベレージヒッターを抑えて三冠獲得、というパターンがほとんどです。
前半戦終了時のセ・リーグ打率ランキングは、トップの佐野以下、宮崎敏郎(DeNA)・大島洋平(中日)・塩見泰隆(ヤクルト)・村上の順。村上以外は全員アベレージヒッターです。村上が彼らを押しのけ首位打者を獲得するには、何が必要でしょうか?
ホームランにしにくい球で攻められたとき、それを凡打にせずヒットゾーンに運ぶことも大事ですが、打率を上げるにはもう1つ方法があります。それは「打数を減らす」こと。打率=安打数÷打数ですから、分母を減らせば自ずと打率は上がります。
打数を減らすには、「四球」を増やすこと。村上の場合、敬遠されることも多いのでもともと四球は多いのですが、ボール球を見極めて、三振や凡打を四球に変えていくことも重要になってきます。つまり「選球眼」です。
選球眼のよさを測るものとして「BB/K」という指標があります。四球の数を三振の数で割ったもので、この数値が高いほど、その打者は選球眼がよいことになります。例として、落合が三冠王を獲得したときの「BB/K」を見てみましょう(小数点4位以下切り上げ)。
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■1982年 四球=81 三振=58 BB/K=1.397 打率.325
■1985年 四球=101 三振=40 BB/K=2.525 打率.367
■1986年 四球=101 三振=59 BB/K=1.712 打率.360
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BB/Kが1を超えればかなり選球眼がいいと言えますが、いずれも1を大きく突破。当時の落合がいかにボール球を見極め、三振を減らし四球を増やしていたかがわかります。自然とアベレージも上がり、連続三冠王に輝いた1985年・1986年はいずれも3割6分台の高打率をマーク。村上の三冠達成に必要なのは、BB/Kを上げていくことです。
村上はもともと選球眼がいいと言われ、BB/Kも年々向上しています。ブレイクした2年目以降の数値を見てみましょう(2022年は前半戦終了時)。
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■2019年 四球=74 三振=184 BB/K=0.402 打率.231
■2020年 四球=87 三振=115 BB/K=0.757 打率.307
■2021年 四球=106 三振=133 BB/K=0.797 打率.278
■2022年 四球=75 三振=79 BB/K=0.949 打率.312
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3年前の村上は、四球数の倍以上三振していましたが、今季は四球数と三振数がほぼ同じで、それが打率向上につながっています。前半戦はBB/Kが1を割りましたが、これを1以上にすることが三冠王獲得のカギと言えるでしょう。
もう少し、三冠王に必要な具体的数字を計算してみましょう。ヤクルトは前半戦で91試合を消化。残り試合は52試合です。前半戦フル出場した村上は、91試合で392回打席に立ちました。1試合あたりおよそ4.31打席。このペースで後半戦もフル出場した場合、あと224回打席に立つ計算になります。
いま村上より打率上位にいる4人が、後半戦どれだけ打率を上げていくかはわかりませんが、前半戦トップの佐野が.331なので、おそらく3割3分台の争いになると思われます。村上が首位打者を獲得するには、約224回打席に立つなかで、あと何本ヒットを打てばいいのでしょうか?
これは打数によって変わってきます。4番でフル出場した昨季の打数は500ちょうどでした。BB/Kが昨季より上がっているので、その分打数も減ると思われますが、とりあえず昨季と同じ500打数だと仮定してみましょう。
村上は前半戦で98安打を放っています。必要な安打数は、アベレージ別にすると以下のとおりです。
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■打率.330→ 500打数165安打 あと67安打
■打率.336→ 500打数168安打 あと70安打
■打率.340→ 500打数170安打 あと72安打
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残り52試合・約224打席で、上記の安打数を打つ計算になります。同時に本塁打と打点も積み重ねていかなければならず、道はかなり険しいですが、いまの村上であれば乗り越えていけるのではないでしょうか。
まとめると、村上三冠王の条件は「三振を極力減らし、四球を増やして、残り試合で70安打近く打つ」。52試合で70安打→1試合平均1.34安打→3試合で約4本ペースですから、何とかなりそうな気もします。あとはケガと新型コロナ感染を避けること。後半戦、村上がどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、期待しましょう。