話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、10月26日に行われた日本シリーズ第4戦で見事なリリーフを見せ、チームにシリーズ初勝利をもたらしたオリックスバファローズ・宇田川優希の「フォーク」にまつわるエピソードを紹介する。
第3戦までヤクルトが2勝1分けで迎えた日本シリーズ第4戦。何としても初勝利を挙げたいオリックス・中嶋監督は、先発・山岡泰輔を5回途中で降ろし、プロ2年目の宇田川優希にスイッチ。その理由について、中嶋監督は試合後のインタビューでこう答えました。
毎回ランナーを出しながらも粘りのピッチングを見せ、ヤクルト打線に得点を許さなかった山岡。しかし、5回1死から塩見泰隆に三塁打を打たれたところで、ちょうど球数は70球に達していました。
「疲労が出て、高めに浮いた球を狙われたらまずい」と考えた中嶋監督が宇田川への継投を決断したのは、コメントにもあるとおり、彼は三振が取れるピッチャーだからです。1死三塁は、犠飛でも内野ゴロでも1点が入るシチュエーション。守る側としてはまず、ランナーはそのままでアウトカウントを増やしたいところで、いちばん欲しいのは「三振」です。
宇田川は指揮官の要望どおり、山崎晃大朗を空振り三振、山田哲人を見逃し三振に仕留め、ピンチを脱しました。6回も宇田川は続投。2四球を出しながらも、1死からサンタナ・中村悠平を連続で空振り三振に仕留めます。後続の山﨑颯一郎(7回・8回)、ワゲスパック(9回)も得点を許さず、宇田川は勝利投手に。見事なリリーフで、完封リレーの立役者となりました。
宇田川はなぜ三振が取れるのか? 彼は力のある150キロ台のストレートとフォークだけで勝負するピッチャーです。この球種の少なさでも宇田川が通用しているのは「2種類のフォーク」を持っているからです。
1つは、大きく落ちる通常のフォーク。これは振らずに見逃せばボールになりますが、宇田川にはもう1つ「ストライクゾーンのなかで小さく落ちる」フォークも投げられるのです。こちらは見逃したらストライク。打者にとっては厄介なことこの上ありません。
第4戦、宇田川は、この「大小のフォーク」を効果的に使い分けました。5回、山崎には「大きく落ちるフォーク」で攻めて三振に仕留めると、続く山田には3球連続で156キロ、155キロ、152キロと剛速球のストレート勝負。山田は3球目をファールにして粘ります。
4球目は、大きく落ちるフォーク。ワンバウンドになり山田は見逃しました。続く5球目が、ストライクゾーンに落ちる「小さなフォーク」で、山田はまったく反応できず三振。見事な配球で、この回ヤクルトは無得点に終わりました。
宇田川がこの2種類のフォークを駆使するようになったきっかけは、育成選手としてファームにいたとき、捕手の松井雅人から受けたこんなアドバイスがきっかけでした。
宇田川はさっそく、フォークを武器にメジャーでも活躍した先輩・平野佳寿のピッチングを研究するなど、いろいろ試行錯誤。努力の末、ストライクゾーンからストライクゾーンに落とす技術を身に付け、今年(2022年)の7月末に、支配下登録と1軍昇格を勝ち取ったのです。
ヤクルト打線は宇田川とは初対決で、もちろんスコアラーから情報は上がっていますが、初見でそう簡単に打てるピッチャーではありません。経験の少なさは逆に言うと、相手にとって「データが少ない」ということでもあり、宇田川がいたからこそ、中嶋監督は早々と山岡交代を決断できたのです。
打線はわずか3安打でしたが、杉本裕太郎のタイムリーで挙げた1点を完封リレーで守り、4戦目にしてようやく初勝利を挙げたオリックス。27日の第5戦、オリックスが勝てば2勝2敗1分のタイに戻りますし、ヤクルトが勝てば2年連続日本一に王手がかかります。
まさにシリーズの行方を左右する第5戦、予告先発投手は、オリックスが今季9勝の田嶋大樹。一方ヤクルトは、ドラフト1位ルーキー・山下輝(ひかる、法政大)を大抜擢してきました。
山下は今季、9月にレギュラーシーズンで2試合に先発。1軍デビュー戦となった9月22日の中日戦は4回2/3を投げて2失点で負け投手になりましたが、続く9月30日の広島戦では7回2/3を無失点に抑え、プロ初勝利を挙げました。クライマックスシリーズには登板しなかったため、それ以来の実戦登板になります。
日本シリーズでヤクルトの新人が先発するのは、1992年、野村監督がシーズン未勝利のルーキー・石井一久(現・楽天監督)を抜擢して以来、実に30年ぶりのこと。もし山下が勝利投手になれば、球団初の快挙になります。
高津監督は第4戦、石川が5回で降板したあとは木澤尚文と今野龍太を投げさせただけで、あえて投手を注ぎ込みませんでした。投手を温存したのは第5戦、山下を早めに降板させて継投勝負に持ち込もうという腹づもりだからで、第2戦・第4戦で中嶋監督が見せた采配への「お返し」でもあります。
オリックス打線はもちろん、山下とは初対戦。相手にあまり研究されていないのも、ヤクルトにとっては強みです。中継ぎ陣が登場する前に、オリックス打線が初見の山下を攻略できるか? この両監督の駆け引きから、まだまだ目が離せません。
第3戦までヤクルトが2勝1分けで迎えた日本シリーズ第4戦。何としても初勝利を挙げたいオリックス・中嶋監督は、先発・山岡泰輔を5回途中で降ろし、プロ2年目の宇田川優希にスイッチ。その理由について、中嶋監督は試合後のインタビューでこう答えました。
『山岡は本当に頑張ってくれていた。ちょっと70球、80球あたりでバテるというか、ちょっと浮きますので。三振が取れる投手と思って、宇田川でいきました』
~『サンケイスポーツ』2022年10月26日配信記事 より
毎回ランナーを出しながらも粘りのピッチングを見せ、ヤクルト打線に得点を許さなかった山岡。しかし、5回1死から塩見泰隆に三塁打を打たれたところで、ちょうど球数は70球に達していました。
「疲労が出て、高めに浮いた球を狙われたらまずい」と考えた中嶋監督が宇田川への継投を決断したのは、コメントにもあるとおり、彼は三振が取れるピッチャーだからです。1死三塁は、犠飛でも内野ゴロでも1点が入るシチュエーション。守る側としてはまず、ランナーはそのままでアウトカウントを増やしたいところで、いちばん欲しいのは「三振」です。
宇田川は指揮官の要望どおり、山崎晃大朗を空振り三振、山田哲人を見逃し三振に仕留め、ピンチを脱しました。6回も宇田川は続投。2四球を出しながらも、1死からサンタナ・中村悠平を連続で空振り三振に仕留めます。後続の山﨑颯一郎(7回・8回)、ワゲスパック(9回)も得点を許さず、宇田川は勝利投手に。見事なリリーフで、完封リレーの立役者となりました。
宇田川はなぜ三振が取れるのか? 彼は力のある150キロ台のストレートとフォークだけで勝負するピッチャーです。この球種の少なさでも宇田川が通用しているのは「2種類のフォーク」を持っているからです。
1つは、大きく落ちる通常のフォーク。これは振らずに見逃せばボールになりますが、宇田川にはもう1つ「ストライクゾーンのなかで小さく落ちる」フォークも投げられるのです。こちらは見逃したらストライク。打者にとっては厄介なことこの上ありません。
第4戦、宇田川は、この「大小のフォーク」を効果的に使い分けました。5回、山崎には「大きく落ちるフォーク」で攻めて三振に仕留めると、続く山田には3球連続で156キロ、155キロ、152キロと剛速球のストレート勝負。山田は3球目をファールにして粘ります。
4球目は、大きく落ちるフォーク。ワンバウンドになり山田は見逃しました。続く5球目が、ストライクゾーンに落ちる「小さなフォーク」で、山田はまったく反応できず三振。見事な配球で、この回ヤクルトは無得点に終わりました。
宇田川がこの2種類のフォークを駆使するようになったきっかけは、育成選手としてファームにいたとき、捕手の松井雅人から受けたこんなアドバイスがきっかけでした。
『フォークが大きく揺れて軌道が読めないから、ランナーが三塁にいる時には要求しにくい。変化の小さいフォークもあったらいいんじゃない?』
~『Number Web』2022年10月12日配信記事 より
宇田川はさっそく、フォークを武器にメジャーでも活躍した先輩・平野佳寿のピッチングを研究するなど、いろいろ試行錯誤。努力の末、ストライクゾーンからストライクゾーンに落とす技術を身に付け、今年(2022年)の7月末に、支配下登録と1軍昇格を勝ち取ったのです。
ヤクルト打線は宇田川とは初対決で、もちろんスコアラーから情報は上がっていますが、初見でそう簡単に打てるピッチャーではありません。経験の少なさは逆に言うと、相手にとって「データが少ない」ということでもあり、宇田川がいたからこそ、中嶋監督は早々と山岡交代を決断できたのです。
打線はわずか3安打でしたが、杉本裕太郎のタイムリーで挙げた1点を完封リレーで守り、4戦目にしてようやく初勝利を挙げたオリックス。27日の第5戦、オリックスが勝てば2勝2敗1分のタイに戻りますし、ヤクルトが勝てば2年連続日本一に王手がかかります。
まさにシリーズの行方を左右する第5戦、予告先発投手は、オリックスが今季9勝の田嶋大樹。一方ヤクルトは、ドラフト1位ルーキー・山下輝(ひかる、法政大)を大抜擢してきました。
山下は今季、9月にレギュラーシーズンで2試合に先発。1軍デビュー戦となった9月22日の中日戦は4回2/3を投げて2失点で負け投手になりましたが、続く9月30日の広島戦では7回2/3を無失点に抑え、プロ初勝利を挙げました。クライマックスシリーズには登板しなかったため、それ以来の実戦登板になります。
日本シリーズでヤクルトの新人が先発するのは、1992年、野村監督がシーズン未勝利のルーキー・石井一久(現・楽天監督)を抜擢して以来、実に30年ぶりのこと。もし山下が勝利投手になれば、球団初の快挙になります。
高津監督は第4戦、石川が5回で降板したあとは木澤尚文と今野龍太を投げさせただけで、あえて投手を注ぎ込みませんでした。投手を温存したのは第5戦、山下を早めに降板させて継投勝負に持ち込もうという腹づもりだからで、第2戦・第4戦で中嶋監督が見せた采配への「お返し」でもあります。
オリックス打線はもちろん、山下とは初対戦。相手にあまり研究されていないのも、ヤクルトにとっては強みです。中継ぎ陣が登場する前に、オリックス打線が初見の山下を攻略できるか? この両監督の駆け引きから、まだまだ目が離せません。