話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、今季(2023年)3年ぶりのV奪回を目指す巨人に復帰した長野久義選手と、ソフトバンクから移籍した松田宣浩選手のエピソードを紹介する。
2月1日はキャンプイン初日、プロ野球選手にとっての“元日”です。昨季(2022年)は4位と不本意な成績に終わった巨人は、3年ぶりのV奪回が至上命題。このオフ、外国人を大幅に入れ替えましたが、珍しく「FAでの補強」はありませんでした。
そんななか、注目されているのが、今季から新たに加わった2人のベテランです。1人は、5シーズンぶりに巨人へ復帰した長野久義(38)。丸佳浩のFA移籍に伴う「人的補償選手」として、2019年1月に広島へ移籍した長野。巨人では入団から9年間、すべて100安打以上を記録し、2年目の2011年には首位打者も獲得した“チームの顔”がプロテクトから漏れていたことに、ファンから批判の声が上がりました。
しかし、長野はすぐに気持ちを切り替え、カープの一員として活躍すると決意。巨人では“宴会部長”でもありましたが、それは広島でも変わらず、試合に出ていないときでもチームを盛り上げる役目に徹しました。若い力の台頭で出番が減り、満足のいく成績は残せませんでしたが、若手の面倒をみたり、チームメイトを励ましたりと、数字以上に長野の功績は大きかったようです。
今回の復帰劇は、広島側から巨人に無償トレードを持ちかけて実現しました。広島は、新井貴浩新監督就任でますます若返りの方針が進むことが予想されるため、ならば現役最後は古巣・巨人のユニフォームで終えた方がいいだろう、という広島フロントの配慮によるものです。これはかなり異例のトレードで、長野の人柄もあってのことです。
5年ぶりに巨人のユニフォームに袖を通した長野。背番号は以前つけていたのと同じ「7」です。原監督は、長野の復帰についてこう語りました。
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長野の復帰会見の際、原監督は4年前の「プロテクト漏れ」について触れ、「FA制度の28人プロテクトのなかで、29人目だった」と明かしました。長野は必要な選手ですが、一方で有望な若手を攫われるのも痛いところ。長野は年俸が高額なので、プロテクトから外しても、広島はまさか指名してこないだろう……という読みだったのでしょう。ところが、その「まさか」が起こったのです。
原監督が「偶然ではなく、必然」と言ったのは、広島からの打診がなくても、いずれ長野を呼び戻す構想があったからだと思います。長野は、巨人にとって現状「最後の日本一」である2012年の日本シリーズ制覇を知る1人。11年ぶりの頂点を目指す上で、その経験値は欠かせません。
長野は、復帰会見でこう抱負を語っています。
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1月28日、長野は2軍のグラウンド・ジャイアンツ球場で行った自主トレを公開しました。報道陣に「オフに重視していたトレーニングは?」と聞かれ、「量としてはウエイト」と答えた長野。30前半まで、ウエイトトレーニングはやったことがなかったそうですが、採り入れた理由についてこう話しました。
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広島に移籍して、鈴木誠也選手(現在はカブスに移籍)らと一緒に汗を流した際、そのトレーニング法に刺激を受けた長野。外に出たことで、得たものは大きかったようです。
そしてもう1人、今季から新たに加わったベテランが、ソフトバンクから移籍した「熱男!(あつお)」のパフォーマンスでおなじみの「マッチ」こと松田宣浩です。
昨年(2023年)、ソフトバンクを戦力外となり、18年目のシーズンを新天地・巨人で迎える松田。セ・リーグでプレーするのは初めてです。今年(2023年)5月に40歳の大台に乗りますが、こちらもまだまだ元気。長野の復帰会見と合同で行った入団会見では、こうコメントしました。
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原監督にとってソフトバンクは、2019年・2020年と日本シリーズで2年連続ストレート負けを喫した相手でもあります。その主力だった松田は、11年ぶりの日本一を目指す上で欠かせないパーツでした。松田が心打たれた「日本一のための戦力として考えている」という原監督の言葉は、決して社交辞令ではありません。
松田も長野同様、ナインからの人望が厚い選手です。生え抜きのベテランが戦力外通告を受け、引退を拒否して他球団へ移籍することはよくありますが、球団がわざわざ「退団セレモニー」を行うのは非常に珍しいケースです。
昨年10月1日、ソフトバンク2軍の本拠地・タマスタ筑後で行われた中日との2軍戦が、松田のホークスでの最後のゲームになりました。試合後、ビジョンにチームメイト・スタッフからの惜別メッセージが流れたあと、何と工藤公康前監督が花束を持ってサプライズで登場。長年の労を直接ねぎらい、松田が思わず涙を流すシーンも。
ソフトバンクが松田を異例の形で送り出したのは、もちろんこれまでの功労に報いてのこと。誰からも慕われる人間性や、2軍でも腐ることなく練習に打ち込んだ姿勢も、原監督は高く評価しています。本人もやる気満々。
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松田の新しい背番号は「23」。原監督によると、「2」と「3」を足すとソフトバンクでつけていた「5」になるので、この番号に決まったそうです。
松田も、1月24日にジャイアンツ球場での自主トレを報道陣に公開。若手とともに汗を流し、居合わせたルーキーからも「熱男さん」と呼ばれるなど、早くも存在感を示し、チームになじんでいるのはさすが。「熱男!」のパフォーマンスは、巨人でも変わらず披露する意向だそうです。
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ただ、原監督がこの2人を1軍で優先して使うと確約したわけではありません。1軍のイスは、同じベテラン右打者・中島宏之(40)も交えた3人での競争になります。阿部慎之助ヘッド兼バッテリーコーチはこう語っています。
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もちろんそのことは、長野も松田も承知の上。通算2000安打を狙う中島も、簡単に1軍の座を譲らないでしょう。実績のあるベテラン3人が火花を散らせば、自ずと若手たちも刺激を受け、ますますチーム内競争が激化する……「若返りと逆行しているじゃないか」という批判が出るのもわかった上で、原監督が2人を獲得した本当の理由は、そこにあるのかも知れません。
2月1日はキャンプイン初日、プロ野球選手にとっての“元日”です。昨季(2022年)は4位と不本意な成績に終わった巨人は、3年ぶりのV奪回が至上命題。このオフ、外国人を大幅に入れ替えましたが、珍しく「FAでの補強」はありませんでした。
そんななか、注目されているのが、今季から新たに加わった2人のベテランです。1人は、5シーズンぶりに巨人へ復帰した長野久義(38)。丸佳浩のFA移籍に伴う「人的補償選手」として、2019年1月に広島へ移籍した長野。巨人では入団から9年間、すべて100安打以上を記録し、2年目の2011年には首位打者も獲得した“チームの顔”がプロテクトから漏れていたことに、ファンから批判の声が上がりました。
しかし、長野はすぐに気持ちを切り替え、カープの一員として活躍すると決意。巨人では“宴会部長”でもありましたが、それは広島でも変わらず、試合に出ていないときでもチームを盛り上げる役目に徹しました。若い力の台頭で出番が減り、満足のいく成績は残せませんでしたが、若手の面倒をみたり、チームメイトを励ましたりと、数字以上に長野の功績は大きかったようです。
今回の復帰劇は、広島側から巨人に無償トレードを持ちかけて実現しました。広島は、新井貴浩新監督就任でますます若返りの方針が進むことが予想されるため、ならば現役最後は古巣・巨人のユニフォームで終えた方がいいだろう、という広島フロントの配慮によるものです。これはかなり異例のトレードで、長野の人柄もあってのことです。
5年ぶりに巨人のユニフォームに袖を通した長野。背番号は以前つけていたのと同じ「7」です。原監督は、長野の復帰についてこう語りました。
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『待ちに待った7番、偶然ではなく必然だと思う』
~『週刊ベースボールONLINE』2022年11月23日配信記事 より
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長野の復帰会見の際、原監督は4年前の「プロテクト漏れ」について触れ、「FA制度の28人プロテクトのなかで、29人目だった」と明かしました。長野は必要な選手ですが、一方で有望な若手を攫われるのも痛いところ。長野は年俸が高額なので、プロテクトから外しても、広島はまさか指名してこないだろう……という読みだったのでしょう。ところが、その「まさか」が起こったのです。
原監督が「偶然ではなく、必然」と言ったのは、広島からの打診がなくても、いずれ長野を呼び戻す構想があったからだと思います。長野は、巨人にとって現状「最後の日本一」である2012年の日本シリーズ制覇を知る1人。11年ぶりの頂点を目指す上で、その経験値は欠かせません。
長野は、復帰会見でこう抱負を語っています。
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『久しぶりにジャイアンツに復帰することになって楽しみ。今はやる気に満ちあふれている』
『2012年のリーグ優勝、日本一が記憶に残っている。あの銀座のパレードを若い子に経験してほしい』
~『週刊ベースボールONLINE』2022年11月23日配信記事 より
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1月28日、長野は2軍のグラウンド・ジャイアンツ球場で行った自主トレを公開しました。報道陣に「オフに重視していたトレーニングは?」と聞かれ、「量としてはウエイト」と答えた長野。30前半まで、ウエイトトレーニングはやったことがなかったそうですが、採り入れた理由についてこう話しました。
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『カープでみんなやっていた。それで一緒になってやってみて、すごくよかった。続けたいと思ってやっている。あとけがをしない。それもあると思うので』
~『日刊スポーツ』2023年1月28日配信記事 より
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広島に移籍して、鈴木誠也選手(現在はカブスに移籍)らと一緒に汗を流した際、そのトレーニング法に刺激を受けた長野。外に出たことで、得たものは大きかったようです。
そしてもう1人、今季から新たに加わったベテランが、ソフトバンクから移籍した「熱男!(あつお)」のパフォーマンスでおなじみの「マッチ」こと松田宣浩です。
昨年(2023年)、ソフトバンクを戦力外となり、18年目のシーズンを新天地・巨人で迎える松田。セ・リーグでプレーするのは初めてです。今年(2023年)5月に40歳の大台に乗りますが、こちらもまだまだ元気。長野の復帰会見と合同で行った入団会見では、こうコメントしました。
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『僕は本当に野球が大好き。まだまだ若く、熱く、元気に、これをモットーにプレーしていきたい』
『ムードメーカーとして入団したと思われているが、ジャイアンツのリーグ優勝、日本一のための戦力として考えているという言葉をもらった。それがうれしかった』
~『週刊ベースボールONLINE』2022年11月23日配信記事 より
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原監督にとってソフトバンクは、2019年・2020年と日本シリーズで2年連続ストレート負けを喫した相手でもあります。その主力だった松田は、11年ぶりの日本一を目指す上で欠かせないパーツでした。松田が心打たれた「日本一のための戦力として考えている」という原監督の言葉は、決して社交辞令ではありません。
松田も長野同様、ナインからの人望が厚い選手です。生え抜きのベテランが戦力外通告を受け、引退を拒否して他球団へ移籍することはよくありますが、球団がわざわざ「退団セレモニー」を行うのは非常に珍しいケースです。
昨年10月1日、ソフトバンク2軍の本拠地・タマスタ筑後で行われた中日との2軍戦が、松田のホークスでの最後のゲームになりました。試合後、ビジョンにチームメイト・スタッフからの惜別メッセージが流れたあと、何と工藤公康前監督が花束を持ってサプライズで登場。長年の労を直接ねぎらい、松田が思わず涙を流すシーンも。
ソフトバンクが松田を異例の形で送り出したのは、もちろんこれまでの功労に報いてのこと。誰からも慕われる人間性や、2軍でも腐ることなく練習に打ち込んだ姿勢も、原監督は高く評価しています。本人もやる気満々。
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『17年間サードを守ってきたが、今年はファーストもやったし、若いときは外野も守ったし、試合に出るためにどこでも守るつもりで、今練習して備えている』
~『週刊ベースボールONLINE』2022年11月23日配信記事 より
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松田の新しい背番号は「23」。原監督によると、「2」と「3」を足すとソフトバンクでつけていた「5」になるので、この番号に決まったそうです。
松田も、1月24日にジャイアンツ球場での自主トレを報道陣に公開。若手とともに汗を流し、居合わせたルーキーからも「熱男さん」と呼ばれるなど、早くも存在感を示し、チームになじんでいるのはさすが。「熱男!」のパフォーマンスは、巨人でも変わらず披露する意向だそうです。
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『体重は2、3キロしっかり増えた。若い選手ともいろいろな所で自主トレをやったけど、同じメニューをできたことはこの18年目で勝負できる一つの要素だと思う。そこはクリアできた』
~『中日スポーツ』2023年1月24日配信記事 より(松田のコメント)
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ただ、原監督がこの2人を1軍で優先して使うと確約したわけではありません。1軍のイスは、同じベテラン右打者・中島宏之(40)も交えた3人での競争になります。阿部慎之助ヘッド兼バッテリーコーチはこう語っています。
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『長野にも言ったけど、悪いけどベテラン3人は(全員をベンチに)置けないよと。3人で競争して頑張ってくれというのは言ったから』
~『スポーツ報知』2023年1月29日配信記事 より
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もちろんそのことは、長野も松田も承知の上。通算2000安打を狙う中島も、簡単に1軍の座を譲らないでしょう。実績のあるベテラン3人が火花を散らせば、自ずと若手たちも刺激を受け、ますますチーム内競争が激化する……「若返りと逆行しているじゃないか」という批判が出るのもわかった上で、原監督が2人を獲得した本当の理由は、そこにあるのかも知れません。