ニュース 2023.06.19. 17:30

北別府学さんと杉下茂さん 偉大な2人の200勝投手と、継承される「背番号20物語」

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【野球殿堂入り記者発表】挨拶をする北別府学・元広島東洋カープ投手=2012年1月13日午後、東京都文京区の野球体育博物館 写真提供:産経新聞社
話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、6月16日に訃報が伝えられた2人のレジェンド、元広島のエース・北別府学さんと、元中日のエース・杉下茂さんが現役時代に背負った「背番号20」にまつわるエピソードを紹介する。

6月16日、球史を代表するレジェンド投手の訃報が立て続けに報じられ、球界は騒然となった。

1人は、広島一筋で19年間プレーし、「精密機械」と呼ばれた抜群のコントロールを武器に通算213勝をあげた北別府学さん。2020年に血液がんの一種「成人T細胞白血病」と診断されたことを公表して闘病生活を続けていたが、6月16日に帰らぬ人となった。65歳だった。

そしてもう1人は、中日が初めて日本一に輝いたときのエースで通算215勝。「フォークボールの神様」と呼ばれた杉下茂さん。間質性肺炎のため6月12日に亡くなっていたことが16日に公表された。97歳だった。

年齢は30歳以上離れ、世代は大きく違う2人ではあるが、同日のニュースだったこともあり、不思議な共通項が目に止まった。広島と中日の球団史を代表するエース同士で、ともに200勝投手。そして、これだけのレジェンドにもかかわらず、なぜか現役時代につけていた背番号が永久欠番になっていない。その数字は、奇しくもともに「20番」だ。

見方を変えれば、永久欠番にならなかったからこそ、偉大な番号を受け継いだ男たちがいる。その後継者たちの目線やつながりから、球史に残る2人のレジェンドの訃報を振り返りたい。

■北別府さんの20番
北別府さんが勝ち星を球団歴代1位の213勝まで積み上げ、引退したのは1994年。以降、誰も付けることなく、「準永久欠番」扱いだった背番号20を受け継いだのが2003年に入団した永川勝浩だった。

永川は抑えとして1年目から25セーブの活躍を見せ、引退までに積み上げたセーブ数は球団最多となる165セーブ。つまり、カープの20番は「球団最多勝」と「最多セーブ」のどちらも記録する特別な番号となった。だからこそ、北別府さんは永川が引退を表明した2019年9月、自身のブログにこんな思いを綴っていた。
『私の期待する永川選手がとうとう引退する事になりました。私から受け継いだ20番をこれまで大切に背負ってくれて本当にありがとう 引退を決意した永川投手が、私に電話をくれた際に労いと共に感謝の気持ちを伝えてました。今後は誰が、この20番を育ててくれ、大きくしてくれるか一緒に見守っていこうと思います』

~北別府学オフィシャルブログ(2019年9月6日投稿)より

そして、見守ること1年。2020年のドラフト会議で1位指名され、背番号20の襲名が決まったのが栗林良吏だった。
『栗林君、背番号20を受け継いでくれるとの事、期待と感謝の気持ちで胸がいっぱいです。壁につき当たった時など必要な時にはアドバイスもします。元背番号20をつけていたものとして陰ながら応援しますので頑張って下さい』

~北別府学オフィシャルブログ(2020年12月2日投稿)より

指名当初は、先発・抑えのどちらでも期待ができるという評判から、先発と抑えの最高成績を生んだ20番を付けることになった栗林。その後、実際には「抑え」として1年目から活躍を見せたのは周知の通りだ。それだけに、訃報が伝えられた6月16日に栗林はこんなコメントを発表した。
『カープの20番と言えば、北別府さんと永川(2軍投手コーチ)さん。自分も記憶に残る選手になりたいなと思う』

~『スポーツ報知』2023年6月17日配信記事 より

実は栗林以外にも、違った形で「20番」の影響について語ったカープOBがいる。メジャーリーグ・ツインズの前田健太だ。
『北別府さんにはご自宅に呼んで頂いたり 家族で食事させて頂いたり、いつも声をかけてくれ とても優しくして頂きました。2013年のWBCでは北別府さんのようなピッチングをと思い 20番を選ばせて頂きました。もう一度会って叱咤激励して頂きたかった。寂しい気持ちでいっぱいです』

~前田健太オフィシャルInstagram(18_maeken) より

日本で、アメリカで、偉大な先輩の思いとともにマウンドに立つ男たちがいる。彼らが活躍してくれるほど、北別府学さんの偉大さが後世にもどんどん伝わるはずだ。

■杉下茂さんの20番
杉下さんは1958年までプレーしたのち、1959年からは中日の選手兼任監督に就任。1960年シーズン限りで中日を退団するまで、ずっと背番号20を背負っていた。そして翌年、入れ替わる形で中日に入団し、背番号20を託されたのが権藤博だった。
『デビューした61年から背番号「20」を引き継ぐことになったのですが、ドラゴンズといえば杉下さん。歴史をつくった人です。永久欠番になるべきものを背負うことで、強い使命感が生まれたことを今も鮮明に覚えています』

~『毎日新聞』2023年6月17日配信記事 より

その使命感からか、とにかく投げまくった1年目の権藤。69試合登板で先発44、完投32という凄まじい投げっぷりで35勝をあげ、いきなりの最多勝。翌年も30勝で最多勝に輝いたが、3年目は10勝。投げすぎて肩が悲鳴を上げたのだ。

そんな権藤に対して別の生きる道を提示してくれたのは、背番号20の先輩、杉下さんだったという。
『肩を壊し野手に転向していた私に投手再転向をすすめ、ケジメをつけさせてくれたのも監督に復帰した杉下さんでした。19年1月。私の野球殿堂入り通知式でゲストスピーカーを務めていただいたのも杉下さんでした。野球人生の節目、節目で偉大な先輩に寄り添っていただきました。本当にありがとうございました』

~『毎日新聞』2023年6月17日配信記事 より

権藤のあと、1軍で背番号20をつけて躍動したのは「燃える男」星野仙一。さらに、星野のあとは「スピードガンの申し子」小松辰雄へと受け継がれ、「ドラゴンズ右のエースナンバー」の認識を強めていった。

そんな偉大すぎる番号ゆえに、2017年以降、誰も付けることができなかった竜の20番を今季から背負っているのが楽天からトレードで移籍してきた涌井秀章だ。
『トレードできて、エース番号をいただけたのは、それだけ期待されているということ。歴代の人たちのように、前面に出す気迫は見せられないが、中からは伝わると思う』

~『日刊スポーツ』2022年11月25日配信記事 より

援護に恵まれず、勝ち星はなかなか増えないが、それでも伝統の背番号20で10年ぶり勝利を飾った涌井。まだまだシーズンは折り返し前。背番号20がより特別な意味を持ついまこそ、「ドラゴンズ右のエース」の力を見せつけて欲しい。

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