イチロー“4257”のあゆみ ~マリナーズ編~
イチローがまた新たな金字塔を打ち立てた。
現地時間6月15日、敵地でのパドレス戦の9回にライトへの二塁打を放ち、キャリア通算4257本目の安打を記録。日米通算ではあるが、ピート・ローズが持つメジャー最多安打記録:4256本を上回った。
日本で1278本、メジャーで2979本…。世紀の大偉業を達成した男が歩んできた25年間を、在籍したチームごとに区切って振り返っていきたい。
第2回はマリナーズ編。未知数だった野手初の日本人メジャーリーガーはいかにして自分の地位を築き上げていったのか…。イチローがシアトルで過ごした12年間をまとめた。
最初は「ナメられていた」!?
日本で十分過ぎる実績を残し、海を渡ったイチロー。ポスティングシステムで交渉権を獲得したのが、シアトル・マリナーズだった。
3年契約を結び、晴れて日本人野手初のメジャー挑戦が現実に。ところが、現地の見方はそれはそれは厳しいものであった。
「日本人の野手がメジャーで通用するはずがない」
これが多くの評論家たちの見方。もちろん“前例のない挑戦”というところで評価が低くなるのは当然といえば当然なのだが、当時の指揮官であるピネラ氏ですら「良くて3割、25~30盗塁くらいやってくれるのでは」程度であったというから驚きだ。
加えて、イチローが「51」を背負うことになったことも視線を厳しい物にした要因のひとつであった。
イチローといえば「51」。我々としたら何ら違和感のないことであるが、それまでマリナーズの「51」といえば最強左腕ランディ・ジョンソンがのものとして浸透しており、それをいきなりやってきた日本人に背負わせるとなってしまったからさあ大変。多くのファンが懐疑的な目で開幕を迎える。
いきなり前途多難なスタートとなってしまうが、イチローはそんな見方を実力で覆していった。
開幕戦でいきなり2安打を放つデビューを決めると、4月からいきなり月間39安打を記録。打率.336、2本塁打で5盗塁と躍動し、月間最優秀新人に輝くと、5月の同賞も受賞。このころからイチローに対する“謝罪文”を掲載する記者や媒体が現れ始める。
その後も活躍を続けると、ルーキーながらオールスターゲームにファン投票で選出。夏場には疲れも見え失速したものの、8月には完全復調。9月にはアレックス・ロドリゲスが記録した球団最多215安打を軽々更新し、最終的にはその記録を242まで伸ばした。
当初は完全に“ナメられていた”はずの男は、終わってみれば打率.350、8本塁打、69打点、242安打に56盗塁の大暴れ。リーグMVP、ア・リーグ新人王、首位打者、最多安打、盗塁王、シルバースラッガー賞、ゴールドグラブ賞とタイトルを総ナメにし、記録ずくめの1年目を終えた。
全米が熱狂した「262」
イチローがマリナーズ時代に残した功績の中で、最も讃えられたのが2004年のシーズン最多安打新記録の樹立であろう。日本で210安打を放って新記録を打ち立てた男は、海の向こうメジャーリーグでも同じことをやってのけた。
春先こそエンジンがなかなかかからなかったものの、5月は月間打率.400で50安打の大爆発。6月は29安打とやや調子を落とすが、7月は51安打とまたも大当たり。さらに8月にも56安打を記録してシーズン3度の月間50安打達成というメジャー新記録も打ち立てる。
そして迎えた10月1日、第1打席でレフト前ヒットを放ってジョージ・シスラーが持つシーズン257安打の記録に並ぶと、第2打席にはセンター前へ弾き返す安打であっさりと記録を更新。最終的にはその記録を「262」まで伸ばし、全米中から祝福を受けた。
このシーズンは打率.372で自身3年ぶり2度目となる首位打者にも輝き、もはや誰も破ることができないと思われた記録を打ち破ったことで、コミッショナー特別表彰を受賞。クーパーズタウンのアメリカ野球殿堂には特別ブースが作られるという異例の措置が続いた。
オールスター史上初のランニングホームラン
イチローが残した伝説といえば、これも忘れてはいけない。2007年のオールスターゲームでの大活躍だ。
7年連続出場となったオールスターゲーム。クリス・ヤングからライト後方への大飛球を放つと、外野手がクッションボールの処理に手間取る感に一気にダイヤモンドを一周。ホームまで駆け抜け、オールスター史上初となるランニングホームランを記録した。
この年はホームランのほかにも3安打2打点の大活躍で、オールスターMVPを受賞。大舞台での活躍で、改めて自身の価値を証明した。
数々の栄光と突然の別れ
メジャーデビューからマリナーズ一筋で突き進んできたイチロー。中でも10年連続200安打は史上初の快挙であり、その他にも打率3割、オールスター出場、ゴールドグラブ賞も10年の長きに渡って続けてきた。
しかし、在籍12年目の夏――。別れは突然訪れる。
7月23日に発表された一件のトレード。これにより、球団の顔であった男はヤンキースへと移ることになった。
後にイチローは、この移籍が「自ら望んだもの」であったことを明かしている。マリナーズで確固たる地位を築いた男の決断。新天地・ニューヨークでの新しい日々がはじまる。
イチロー通算成績(1992~2000年)
・1844試合
打席8483 打数7858 得点1176 安打2533 二塁打295 三塁打79 本塁打99
塁打数3283 打点633 盗塁438 盗塁死97 犠打28 犠飛37
四球513 敬遠172 死球47 三振792 併殺打67
打率.322 出塁率.366 長打率.418 OPS.784
☆MVP:1回(2001年)
☆新人王(2001年)
☆オールスターMVP:1回(2007年)
☆首位打者:2回(01、04年)
☆盗塁王:1回(01年)
☆最多安打:7回(01、04、06~10年)
☆シルバースラッガー賞:3回 (01、07、09年)
☆ゴールドグラブ賞:10回(01年~10年)