9回裏ランナーなし、レフトスタンドからは「チャンステーマ4」
8月4日の対ソフトバンク戦、3点差で迎えた9回裏。西武プリンスドームのレフトスタンドから聞こえてきたのは「チャンステーマ4」だった。
塁上にランナーはいない。それでも、西武ファンは歌い続けた。
1死から渡辺直人がセンター前ヒットで出塁。上本達之もヒットを放つなど好機を作ったが、追加点を挙げることができず、4-7で敗戦。借金は今季最多の「20」まで膨らみ、最下位に転落した。
所沢に西武ライオンズが誕生した「西武元年」の1979年以来となる最下位フィニッシュの危機。このままでは終われない。そんな状況の中、背番号「16」が帰ってくる。
悔しさとふがいなさと申し訳なさ
「やっとですね…」。二軍生活は菊池雄星にとって長い月日だった。
6月23日に右脇腹痛で出場登録を抹消されてから約1カ月半。「悔しさしかなかった」と話す。
二軍にいる間は一度も試合を見なかった。自分がその場にいないことがふがいないと、唇をかみしめる。
今季は初の開幕投手を任されるなど、「左のエース」として大きな期待を寄せられていた菊池。プロ入り7年目の25歳には、その自覚もあった。「チームもここからという時に、(離脱してしまい)申し訳ない気持ちだった」。
自身は5月18日のロッテ戦から5連勝中、チームも後半戦で巻き返しを図ろうとしている時期だった。
菊池が最後に投げた6月14日の広島戦以降、チームは13カード連続勝ち越しなし。菊池離脱の代償はあまりにも大きかった。
“真”のエースとしての責務
苦戦を強いられている西武の投手陣。エースの岸孝之は6月17日に復帰するも、復帰後は2勝4敗と黒星が先行。若きエース候補として期待されている高橋光成も6連敗中と苦しんでいる。
こういう状況を立て直す事ができるのが“真”のエースのあるべき姿だろう。
背負っているものの大きさはわかっている。「迷惑をかけた分、挽回しないと…」。
7月29日のイースタンリーグ・ヤクルト戦では、5回3安打1失点、11奪三振と完全復活をアピールした。「万全で投げれるぞというところを見せたい」と意気込む顔つきはたくましい。
気合を入れろライオンズ――。昨日、ファンが何度も何度も叫んでいたその想いを無駄にはできない。25歳左腕が大きな期待を背負って、仙台のマウンドに立つ。