あらゆる投球指標でリーグトップクラスの成績
球界を代表する左腕になりつつある西武の菊池雄星が、ここに来てさらなる進化を見せつけている。
6月2日のヤクルト戦。1点リードの3回、坂口智隆に同点タイムリーを喫し、続く4回には大引啓次に一時勝ち越しを許す痛恨のソロ本塁打を被弾。苦しい展開となったが、その後は5回、6回と三者凡退で切り抜けると、味方打線の逆転劇によって今季6勝目を挙げた。
花巻東高時代から全国的な注目を集めた逸材だけに、過去には期待値の高さから伸び悩みを指摘する声も聞かれたが、昨季は投球スタイルを一変して大きく成長。代名詞の速球に頼り過ぎず、勝負どころでも変化球を効果的に交えることで、自己最多の12勝をマークした。
今季は新球・フォークを手持ちのカードに加え、さらに成長した姿を披露。“大エース”への道を着実に歩んでいる。
菊池の進化については、数字が雄弁に語る。ここまでの防御率(1.38)は堂々のリーグ1位。勝利数(6勝)と奪三振(74)、1回当たりに許した走者数であるWHIP(0.82)もリーグ2位と、あらゆる指標で軒並みトップクラスの数字を残しているのだ。
抜きん出た安定感と驚異的な低被打率
なかでも光るのが、6回を自責点3以内に抑えるクオリティ・スタート(QS)率と被打率だ。
今季はこれまで10試合に登板し、QS率はなんと100%。そのうち8試合は、7回を自責点2以内に抑えるハイクオリティ・スタート(HQS)を達成している。
さらに、被打率(.163)は則本昂大(楽天/.175)を1分以上離してトップの数字だ。昨季リーグトップだった千賀滉大(ソフトバンク)の被打率が.207だったことからも、いかに今季の菊池の数字が群を抜いているかは明白だろう。
これらの数字は、ローテーション投手に求められる“安定感”を手に入れ、かつ「ヒットを許さない」という投手最大の課題を高い次元でクリアしていることの表れに他ならない。
2013年オフに涌井秀章(ロッテ)、昨オフには岸孝之(楽天)と、相次いでチームのエースが他球団へ移籍…。佐野泰雄、高橋光成、多和田真三郎ら、菊池より年下の先発投手も増えてきた。その現実は、菊池にとっては悪い意味でのプレッシャーにはならず、自らをエースへと成長させるための大きな糧となったようだ。
最後に“エース”として残された課題をあえて挙げるとすれば、ソフトバンクを苦手としていることくらいだろうか。
プロ入り後、ソフトバンク戦には14試合に先発していまだ未勝利。今季のふたつの黒星もいずれもソフトバンクにつけられたものだ。とはいえ、その2敗はそれぞれ7回4失点(自責点2)、8回2失点(自責点2)ときっちり試合を作ったなかで運悪く喫したもの。今の投球を続けていれば、待望の初勝利を挙げるのも時間の問題だろう。
ソフトバンクという天敵をねじ伏せたとき、菊池が真の大エースへとまた一歩近づく。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)