コラム 2020.12.18. 07:09

これぞ社会人野球の醍醐味!「都市対抗」を盛り上げた“プロよりもプロらしい”ベテラン選手たち

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三菱重工広島・鮫島優樹選手 [写真提供=プロアマ野球研究所]

楽天・浅村栄斗と全国制覇を達成した福島由登


  11月22日から12日間にわたって東京ドームで行われた、『第91回都市対抗野球大会』。いつもの夏季ではなく、冬の開催となった異例の戦いは、Honda(狭山市)が攻守に安定した戦いぶりを見せ、11年ぶりの優勝を飾った。

 社会人では唯一の全国大会となったこともあってか、例年以上にレベルの高いプレーが多い印象を受けた今年の「都市対抗」。今回は、年齢的にドラフト候補ではないものの、プロ選手にも負けないパフォーマンスを見せたベテラン選手たちにスポットを当てたい。


 まず、投手で圧倒的な存在感を見せたのが、決勝まで勝ち進んだ福島由登(Honda/30歳)と大竹飛鳥(NTT東日本/35歳)の2人だ。

 福島は大阪桐蔭時代、エースとして浅村栄斗(現・楽天)らとともに夏の甲子園優勝を経験。社会人でも長く主戦として活躍してきたが、ここ数年はリリーフに転向して存在感を増している。

 今大会でも5試合中4試合に抑えとして登板し、わずか1失点という盤石の投球を見せた。昨年と比べても、明らかに腕の振り、ストレートの勢いがアップ。打者の手元で鋭く変化するカットボールは、ボール球でも思わず手が出る必殺の決め球だ。

 なかでもENEOS戦とセガサミー戦では、タイブレークに突入した10回にいずれも2つの三振を奪っており、ここ一番での集中力は見事という他ない。30歳を迎えて、今が全盛期とも言える状態だ。


35歳の大ベテランが圧巻の投球


 大竹は今年で13年目という、社会人では“大ベテラン”の部類に入る選手だが、全く力の衰えを感じさせず、チームの切り札と呼べる存在である。

 今大会は、初戦のJR北海道硬式野球クラブ戦で最終回を3人で抑えると、準決勝の日本新薬戦では7回を被安打わずか2、四死球0、7奪三振という圧巻のピッチングで、チームを決勝進出に導いてみせた。

 ボールの出所を巧みに隠し、ストレートと変わらない腕の振りから速い変化球と遅い変化球を投げ分ける投球術は、社会人でも1、2を争うレベル。同じ球種でも微妙にスピードや曲がりに変化をつけており、忘れたころには140キロ台中盤のスピードボールを内角に投げ込んでくる。

 予選から本番を通じて失点しそうな雰囲気が全くなく、その投球にはプロのスカウトからも感嘆の声が聞こえるほどだった。


30歳を超えた投手が「最速150キロ」


 2人と同じ30歳を超えた投手では、フェリペ・ナテル(ヤマハ/31歳)、浜崎浩大(NTT西日本/31歳)、鮫島優樹(三菱重工広島/32歳)の3人がさすがの投球を見せた。

 ナテルは初戦の先発を任されると、立ち上がりこそ不安定だったものの、徐々にエンジンがかかり、3回から5回まではパーフェクトピッチングを披露。最終的には6回を投げて3安打無失点、8奪三振と日立製作所打線を抑え込み、チームの初戦突破に大きく貢献した。最速は150キロをマークしており、スピードはまだまだトップクラスだ。

 浜崎も初戦の東芝戦で8回を投げて2安打無失点、毎回の9奪三振と快投。スピードは時折140キロを超える程度ながら、抜群の制球力で安定感は申し分ない。球が速くなくても、コンビネーションで三振を奪えるというのは高校生、大学生にとって格好のお手本と言えるだろう。

 鮫島は、今大会ではリリーフに回ったものの、2試合ともに無失点と好投。代名詞とも言える鋭く落ちるフォークと、最速147キロをマークしたストレートはまだまだ健在だ。チーム再編で三菱重工広島でのプレーは今年が最後となるが、来季以降も系列チームでの現役続行は決まっており、今後も大きな戦力となることは間違いない。


捕手で輝くベテラン選手


 捕手では浜岡直人(Honda熊本/35歳)と川辺健司(ヤマハ/31歳)の2人が筆頭格だ。

 浜岡は13年目のベテランながら、予選の3試合で12打数8安打と打ちまくり、本大会でも4番として3試合全てでヒットを放った。守備も若い頃に比べると、スローイングは少し衰えた感は否めないが、それを補うだけのハンドリングが光る。この年齢で「4番・捕手」を務められる体の強さも魅力だ。

 一方の川辺も、打順こそ8番ながら1回戦では3方向に打ち分けて3安打、2回戦でも3打席全て四球で出塁するなど、見事な打撃を見せた。盗塁こそ許したものの、スローイングやキャッチングもまだまだ高レベル。チームには毎年のように好素材の捕手が入部してきているが、大事な試合ではマスクを任せられており、その信頼感は絶大と言える。


ベテラン選手の活躍は社会人野球の醍醐味


 内野手では松永弘樹(三菱重工広島/32歳)の活躍が目立った。

 広陵高~早稲田大では守備が光るショート、もしくはセカンドだったが、年々打撃力をつけて今大会は「4番・一塁」で出場。初戦の日本製鉄鹿島戦では、先制の適時二塁打など4安打・3打点と主砲の役割を果たした。さらに、バントヒットでは、右打者ながら一塁到達で3.85秒をマーク。その脚力も健在だ。


 また、決勝戦で試合を決めるスリーランを放ち、MVPにあたる橋戸賞を受賞した井上彰吾(Honda/30歳)は今年で8年目。これまで都市対抗ではなかなか結果が出ずに苦しんだ選手である。

 年齢的にプロ入りの可能性がほぼなくなると、一気に衰えてしまう選手も多いが、ここで紹介したのはそんな野球選手としての岐路を乗り越え、技を磨いてきた選手ばかりである。

 こういったベテラン選手の輝きは、都市対抗や社会人野球の醍醐味といえる。来年以降も、ある意味“プロよりもプロらしい”彼らのプレーにぜひ注目してもらいたい。


☆記事提供:プロアマ野球研究所
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