白球つれづれ2021~第10回・吉田正尚
変則シフトなんか、お構いなし。オリックスの吉田正尚選手のバットが春先から絶好調だ。
5日から行われたDeNAとの3連戦。相手は昨年のパ・リーグ首位打者を警戒して大胆な「吉田シフト」を敷いて来た。一、二塁間に三塁手も含めた3人を配し、遊撃手もほぼ二塁ベース後方に位置する。だが、7日の3戦目では第1打席に上茶谷大河投手の内角スライダーを右翼スタンドに一発。続く打席ではシフトの逆を突く遊撃強襲安打で出塁した。
>>1カ月無料トライアルはこちら<<
初戦、2戦目ともにヒットを量産して3戦合計は7打数5安打。オープン戦を通じても「.545」(8日現在)のハイアベレージだから今季も死角は見当たらない。
6年連続でBクラスに沈み、直近の2年間は最下位のオリックス。一昨年は山本由伸投手が防御率1位に山岡泰輔投手が勝率1位。昨年も山本が最多奪三振のタイトルを千賀滉大投手(ソフトバンク)と分け合っている。チーム防御率(3.97)はリーグ3位なのにテールエンドの現状はやはり打撃力に尽きる。
そんな現状を打破するために中嶋聡監督が試行錯誤しているのが、主砲の吉田を何番に置くのがベストかということ。苦心の打順問題である。
ちなみにDeNAとの3連戦の1、2番打者の顔ぶれを見る。初戦は中川圭太、佐野皓大選手で、2戦目は太田椋とソフトバンクからやってきた田城飛翔選手、3戦目は田城の直後の2番に吉田が名を連ねている。この「2番・吉田」こそ、中嶋監督が温めてきた勝負手か。
「1番が出て、2番で送っても吉田を歩かされるケースが多い。得点力を上げるには2番・吉田も考えている」と指揮官が語ったのは今オフのこと。
昨年、首位打者に輝いた吉田の打撃内容は単に打率だけでなく、すべてに秀でている。喫した三振「29」は規定打席到達者の中で最小。一方、奪った四球は72個を数えてリーグ5位。何と70四球以上で30三振以下は1974年の張本勲氏(日本ハム)以来の希少価値の高い記録でもある。
得点力不足解消の鍵に!?
球界屈指のスラッガーを抱えながら、オリックス打線の泣き所は得点力不足に行き着く。昨季のチーム打率.247はリーグ4位だが、442得点は最下位。つまり、吉田がいくら塁上に立っても本塁は遠い。わかりやすく言えば、吉田の前後を打つ打者の問題でもあるのだ。
それなら、吉田を2番打者に起用すればどうか? 1番打者が出塁すれば、バントは無用。一発なら最高だが、安打でも一、三塁。相手投手にプレッシャーを与えて四球でも無死一、二塁のチャンスを作れる。少なくとも1、2番が凡退後の3番・吉田より、相手には脅威となるかもしれない。「2番最強説」が話題を呼んでから久しいが、中嶋オリックスにとってチームの空気を変える一手になる可能性はある。
コロナ禍にあって、楽天から出戻りの決まったS・ロメロ選手の来日が遅れているが、昨年24本塁打の長打力は大きな戦力になる。メジャーの実績十分の超大物、アダム・ジョーンズも来日2年目で日本野球への対策は進む。さらにS・モヤ選手の外国人トリオがクリーンアップを形成できれば大型2番打者が実現する。
今季から選手会長に就任。最下位脱出への思いは人一倍強い。オフには元ハンマー投げの金メダリストで現スポーツ庁長官の室伏広治氏の下、5年連続でパワーアップに取り組んだ。首位打者を獲得しながら、吉田は更なる高みを目指している。
「昨年はスキルとして、当てに行く形になってしまった。小手先のバッティングではダメ」。一流打者の条件に3割、30本塁打、100打点を掲げる男は、昨季の本塁打が14本に終わったことを反省点に上げる。2年前は29本塁打と大台一歩手前に迫っただけに、今季は打率プラス本塁打で“三冠ロード”に迫れるかが自身の目標だ。
2番打者として新風を巻き起こすか? それとも定位置の3番におさまるか? オープン戦終盤まで、指揮官の吉田起用法に注目が集まる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)