「広島のマウンドは最高でした」
7回無失点の快投から一夜明け、スポーツ新聞の一面にはそんな見出しが並んだ。黒田博樹、2740日ぶりの日本白星。リーグ屈指の強力ヤクルト打線を相手に毎回のようにランナーを許すも、ツーシームやスプリットを駆使して得点を許さない。バント処理の際には軽快なフィールディングを披露、打者としても二塁打も放つ活躍。衰えるどころか、さらに進化して戻ってきたプロ生活19年目の40歳右腕。メジャー7年間で79勝、その姿はまさに現役バリバリのメジャーリーガーそのものだった。
プロ野球界は開幕からアラフォー世代のベテラン選手たちの活躍が目立っている。27日、ソフトバンクとの開幕戦で本塁打を放ったのは黒田と同学年の井口資仁(ロッテ)。40歳3カ月の5番打者はレフトスタンドへ豪快な一発。パ・リーグで40代の選手が開幕戦アーチを放ったのは81年の張本勲(当時ロッテ)以来、34年ぶりの快挙だ。井口は第3戦でも勝ち越しの二塁打を放ち、健在ぶりをアピールした。井口と黒田は東都大学リーグ時代のライバル同士。19年前しのぎを削った2人が、ともにプロ野球選手となり、アメリカに渡り、そして再び日本球界で再会する。日米を股にかけた終わりそうで終わらないロングストーリー。
90年代の神宮球場のスーパースターと言えば、この男の存在も忘れてはならない。4月3日で40歳になる高橋由伸(巨人)である。チーム25年ぶりのコーチ兼任選手として迎えた18年目のシーズン。開幕スタメンを勝ち取り、レフト守備では本塁への好返球で三塁走者をタッチアウト。本拠地での開幕戦勝利に大きく貢献した。この高橋と同級生で、5月に不惑を迎える井端弘和も開幕3連戦すべてに「2番セカンド」で先発出場。29日には3打数3安打2四球と全打席出塁、守っては再三の好守でプロ初先発のドラフト3位ルーキー高木勇人を盛り立てた。過去に巨人で40歳以上となるシーズンの開幕スタメンは中島治康、王貞治、落合博満の3人のみ。それが、2015年は高橋と井端が2人同時に名を連ねている。
王貞治は30本塁打、ミスター赤ヘル山本浩二も27本塁打を放ちながら、ともに40歳で現役を退いた。江川卓が引退会見をしたのは13勝をあげた32歳の時だ。4番打者は4番打者のままで、エースはエースのままで去る引き際の美学。あの頃は40歳という年齢はほとんど現役生活の終わりを意味していた。だが、今は医学やトレーニング技術の進化もあり、アスリートの現役期間は飛躍的に伸びている。余力を残して去るか、完全燃焼して終わるか。どちらが正しいという問題ではなく、生き方の違いであり、価値観の違いだろう。当たり前のことだが、時代と共に価値観は変わる。
我々は41歳の王貞治のバッティングを見れなかった。だが、41歳の黒田博樹のピッチングは見れるかもしれない。それは野球ファンとして素直に嬉しい。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)