コラム 2021.05.31. 20:30

柳田悠岐が決めた“G線上のアリア”…? 過去の交流戦で起こった「珍事件・Part2」

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ソフトバンク・柳田がフルスイングで放った“秘打” (C) Kyodo News

奇策!「内野手5人シフト」


 連日各地で熱戦が繰り広げられている『日本生命セ・パ交流戦』。

 ベースボールキングでは、交流戦の開幕に合わせて過去の“交流戦珍事件”を振り返る特集を展開中だ。




 2週目となる今回は、「珍プレーおかわり編」と銘打ち、絶体絶命のピンチを防いだ渾身の奇策や思いがけない幸運を呼び込んだ気まぐれな珍打球を紹介していきたい。

 まずは、広島時代のマーティ・ブラウン監督による“必殺扇”から…。

 もはや代名詞と言っても過言ではなかった「内野5人シフト」の規則でサヨナラのピンチを切り抜けたのが、2009年6月14日の西武戦である。



 4-4で迎えた延長12回裏、広島は無死満塁の大ピンチ。次打者はこの日2安打・1打点と当たっている左打ちの石井義人だった。

 最悪の事態を何としても回避したいブラウン監督は、投手を林昌樹から左の青木勇人に代えたあと、レフトの末永真史に代わって内野手の小窪哲也を入れ、二遊間の二塁ベースの左手前を守らせた。同年5月6日の中日戦でも成功させている「内野手5人シフト」である。


 これに対し、西武・渡辺久信監督も右の代打・黒瀬春樹を送る。

 黒瀬は痛烈なセンター返しのゴロを放ったが、まるで予期していたかのようにこれが小窪の正面へ。7-2-3という珍しい形の併殺で二死を取り、見事に奇策は成功。

 すると、ブラウン監督は小窪に代わって嶋重宣をレフトに入れる定位置モードにシフト。無失点で切り抜け、結果4-4でゲームセット。3連敗を免れた。

 作戦がまんまとはまったブラウン監督は「(あくまで)最後の手段で、準備しておくものではないが、選手は私の意図を理解してよくやってくれた」と会心の笑顔だった。


中日・落合監督も目を白黒


 止めかけたバットにボールが当たったのが幸いし、“瓢箪から駒”のプロ初安打を記録したのが、中日の右腕・山内壮馬だ。

 2010年5月16日のオリックス戦。4回に大島洋平のタイムリーで1点を先制した中日は、なおも一死満塁で山内に打順が回ってきた。

 木佐貫洋のワンバウンドするフォークにバットを止めようとした山内だったが、直後、バットはまるでゴルフスイングのような形でボールに当たり、セカンド・後藤光尊の頭上を越えて右前に落ちる安打になった。


 落合博満監督も「表現しようがない。あんなもの、長い野球生活でそんなにあってたまるか」と目を白黒させた“珍打”だったが、これで二者が生還。形はどうあれ、プロ3年目の山内にとっての記念すべき初安打だった。

 「バットが止まりきらなくてダメだと思ったら当たったよ。よく(セカンドを)越えてくれました。ラッキー。あんなの初めてですよ」とすっかり気をよくした山内は、本職の投げるほうでも6回を4安打1失点に抑え、これまたうれしいプロ2勝目を挙げている。


送球ならぬ“送ミット”…?


 平凡な一ゴロのはずが、世にも不思議な物語で内野安打になる珍事が起きたのが、2015年6月7日のDeNA-西武だ。

 1点を追うDeNAは3回一死、2番・飛雄馬がカウント2ボール・2ストライクから郭俊麟の高めのボールを叩きつけるようにして一二塁間に転がした。

 ファーストのエルネスト・メヒアが追いつき、一塁に送球しようとしたところ、なんとボールがミットの網の部分に挟まって取れない。焦ったメヒアは「えい、ままよ!」とばかりに、ボールが挟まったままのミットを一塁ベースカバーに入った郭に投げつけた。

 送球ならぬ“送ミット”のパフォーマンス。決まれば珍プレー大賞ものだったが、サッカーのスローイングのように頭上に差し上げながら無理な体勢で投げたのが悪かったのか、一塁ベース手前でボールとミットが“空中分解”。こぼれ落ちたボールは本塁方向にそれて転がっていった。

 ラッキーな安打で存在感をアピールした飛雄馬は同年、プロ初本塁打を記録するなど、キャリアハイの59試合に出場している。


秘打「G線上のアリア」のような珍打球


 推定飛距離わずか10メートルのサヨナラタイムリー…。まさかの幕切れとなったのが、2017年6月6日のソフトバンク-ヤクルトだ。

 1-1の延長10回裏、ソフトバンクは代打・明石健志が四球で出塁したあと、川崎宗則の送りバントと今宮健太の二ゴロで三進。

 二死三塁となり、打席には3番・柳田悠岐。ファンの期待を一身に背負い、一打サヨナラのチャンスに力み過ぎたのか、当たり損ないのボテボテの打球が三塁線に転がる。ふつうならファウルになってもおかしくない軌道だった。

 久古健太郎と中村悠平のバッテリー、さらにサード・谷内亮太とショート・西浦直亨もファウルになると判断し、捕球に動くことなく見守っていたが、なんと、ボールはまるで手品のようにラインの内側でピタリと止まってしまう。

 この間に三塁走者・明石がサヨナラのホームを踏み、これがまさかのサヨナラタイムリー内野安打となった。


 まるで野球漫画『ドカベン』に登場する殿馬一人の秘打“G線上のアリア”を思わせるような珍打球に、久古は「ボールが切れていくように見えた。芝に取られて止まってしまった」と悔しがり、中村も「捕って投げてもセーフだった。勝負できるのは僕だったけど、間一髪で勝負するよりも、ファウルで切らそうとした」と唇を噛んだ。

 思わぬ形で勝利のヒーローになった柳田は、「打ったときは、“ヤバい”と思って走った。あんな打球は初めて。奇跡。打球はメチャクチャダサかったけど、フェアゾーンで止まって良かった」と安堵した様子。

 しかも、この打席まで4打数無安打だったのが、儲けものの内野安打で18試合連続安打も達成できたのだから、うれしさも2倍だった。

 ちなみに、柳田は前年まで3本のサヨナラ打を記録していたが、いずれも本塁打。通算4本目は、自己最短飛距離のサヨナラ打でもあった。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)
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