コラム 2021.07.02. 07:07

最強投手陣への不安とキーマン【出陣!稲葉ジャパンの光と影】

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東京オリンピックの内定選手発表会見に臨んだ野球日本代表の稲葉篤紀監督

7月連載:出陣!稲葉ジャパンの光と影


 東京五輪の開幕まで3週間余りとなった。野球で悲願の金メダル奪取を狙う侍ジャパンは7月28日、福島あずま球場で注目の初戦を迎える。

 コロナ禍による1年延期、敵情視察も十分に行えないなど、特殊な状況下で迎える決戦の時を稲葉篤紀監督はどのように克服して“侍戦士”をまとめ上げようとしているのか? 世界ランキング1位、金メダルの最有力と目される重圧をはねのけて1戦必勝を掲げる稲葉ジャパンの現状を、総点検していきたい。


第1回:最後のピース


 稲葉ジャパンのスタッフによる最終チェックが慌ただしい。指揮官が連日、各球場に視察に訪れて代表選手たちの動きに鋭い視線を送れば、建山義紀投手コーチの姿は6月下旬、福岡にあった。

 すでに発表された日本代表の投手枠は11人。しかし、巨人・中川皓太投手の故障辞退により緊急事態が起こる。建山コーチの福岡入りはソフトバンクの千賀滉大投手の現状を見るため。本来であれば侍ジャパンの絶対的エースである千賀は開幕直後に右足首靱帯を損傷、一時は完全に代表入りが絶望視されていた。ところが、ここへ来て本格投球が出来るところまで回復したため、最終チェックが必要となったのだ。

 1日時点では明らかになっていない中川の代替選手は近日中に発表される。千賀が最有力ではあるが、まだ予断は許さない。DeNA・今永昇太、楽天・松井裕樹投手もボーダーラインだからだ。

 今回の投手陣の顔ぶれを見ると先発陣は田中将大(楽天)、菅野智之(巨人)、大野雄大(中日)、山本由伸(オリックス)、森下暢仁(広島)、青柳晃洋(阪神)と充実しているが、中継ぎと抑えは未知数な部分が多い。全体を見渡しても左腕が不足しているうえ、クローザー候補の栗林良吏(広島)と平良海馬(西武)は若く、国際経験に乏しい。

 ここへ来て、千賀招集に舵を切った裏には、菅野の調子が上がらないことも考慮されていると見られる。1日の広島戦に久々、先発も3回と持たずにKO。加えて、大野も昨年ほどボールの切れはなくベストな状態とは言い難い。そんな不安要素を抱えた台所事情を露呈した動きでもある。


投手陣のキーマンは!?


 五輪野球の試合形式は独特だ。出場国が6カ国と少ないため、A、B2グループに分けて予選リーグを戦う。現状、世界ランク1位の日本はA組でメキシコ、ドミニカ共和国と激突。その後、ノックアウトラウンドでB組の強豪である米国や韓国との対戦が予想される。この場合、仮に途中で敗れても敗者復活戦があるため、予選ラウンドに全敗でも、その後の戦い次第で決勝進出の道は残されるのだ。

 短期決戦は投手力がモノを言う。稲葉ジャパンが王者に輝いた19年の「プレミア12」でも、序盤は打線が低調で苦しんだ。初めて対戦する投手や、ストライクゾーンの違い、さらには国際試合独特の緊張感が選手を襲う。

 こうした中で稲葉監督が最も信頼を寄せる投手陣のキーマンが2人いる。山本と田中の新旧エースである。

 2008年の北京五輪で稲葉とチームメートだったのは現代表では田中ひとり。結果は4位に終わり、星野仙一監督の胴上げは出来なかった。当時、19歳の田中は、現在32歳のチーム最年長になった。投手陣のリーダーとして稲葉監督から指名を受けただけでなく、長年メジャーで修羅場を潜り抜けてきた実績と経験を評価されている。「五輪の借りは五輪で返す」と誓う指揮官は十中八九、開幕戦の先発マウンドに田中を送り出すだろう。


ポスト・ダルビッシュ!?


 予選を連勝で勝ち上がった場合、最初のヤマ場となるのが8月2日(横浜)に予定されるノックアウトラウンドの初戦、A組1位なら、米国か韓国が出てくるであろうB組1位と最初の天王山を迎える。ここを任せるなら現在、国内ナンバーワンの実績を誇る山本以外にない。菅野、大野といった実績十分の投手もいるが、今季は故障で出遅れたり、本来の投球まで達していなかったりで、本大会直前まで手探りの状態が続きそうだ。

 山本の場合は抑え役に不安がある場合には先発後にクローザーに回る可能性もある。すべての局面で頼りになる“ジョーカー”となり得るのが山本である。

 北京五輪で思うような投球が出来ず、大会期間中に丸刈りにしたのが、今やメジャーのエースであるダルビッシュ有。田中も追随した。そのダルビッシュは翌年のWBC(ワールドベースボールクラシック)で先発、抑えと獅子奮迅の働きで世界一の立役者になった。今の山本ならダルビッシュの再現も期待できる。

 理想の侍ジャパン像を問われた稲葉監督は「スピード&パワー」を掲げ、「金メダルに向かって一つになる力」と語った。

 「ワン・ジャパン」へ。今月20日からは仙台で強化合宿が始まる。日本の金メダルは公開競技として行われた1984年ロス五輪の一度だけ。37年ぶりの挑戦がまもなくやって来る。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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