コラム 2021.11.04. 22:25

メジャーで加熱する広島・鈴木誠也の移籍報道【オフの主役たち】

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侍ジャパン・鈴木誠也

11月連載:オフの主役たち


 日本球界は1カ月遅れのクライマックスを迎える。

 例年なら、10月下旬に日本シリーズを行い、日本一が決定するが今年は東京オリンピックによるブレーク期間があり、日程がずれ込んだもの。一方で、ポストシーズンに進出できなかったチームはすでに新体制で強化が始まっている。今後はトレードやFAによる移籍など「人事の秋」が活発化、すでに気になる男たちへの注目が集まっている。水面下の動きをチェックしながら主役候補の現在地に迫ってみる。


第1回:“日本の4番”セイヤ・スズキ


 11月1日に今季最終戦を終えた広島・佐々岡真司監督の発言が波紋を呼んでいる。

 「まずは大瀬良、九里の慰留に全力をあげたい」。

 今シーズン中にFAの権利を取得した大瀬良大地と九里亜蓮両エースの去就は、チームの生命線とも言えるのだから当然のことだ。しかし、打の主砲・鈴木誠也選手に関しては「もちろん、残ってもらいたい」としながらも、「個人の夢を応援したい気持ちもある」と微妙な心情を語った。

 侍ジャパンの4番打者にして、セの首位打者と最高出塁率のタイトルを獲得した。38本塁打は岡本和真、村上宗隆両選手に1本差まで迫る。誰もが認める日本最強スラッガーのひとりだ。

 その鈴木を巡って、MLBではすでに“争奪戦”が始まっている。

 強豪・レッドソックスの地元スポーツサイト「ソックスマシン」では、レッドソックスの今オフ補強リストのトップに「セイヤ・スズキ」の名前を挙げて、3年総額2400万ドル(約27億4000万円)の契約を提言。さらに4、5年目のオプションまで言及している。

 また、移籍情報サイトの「MLBトルード・ルーマーズ」では、複数年の契約で4000~5000万ドル(約45億6000万円~57億円)と予想している。すでに獲得を検討している球団はロイヤルズ、マリナーズ、レンジャースなど7球団に上るという情報もある。


 厳密に言えば、鈴木はまだFAの権利を持っていない。だが、昨オフにポスティングを使ったメジャー移籍の希望を球団に伝えている。この時点で鈴木清明球団本部長は「基本的にメジャー志向の選手は、応援してやりたい気持ちはある」と移籍容認の姿勢を示している。

 そんな事情がある上に、鈴木自身も10月29日の本拠地最終戦後にはチームメイトである坂倉奨悟、小園海斗、森下暢仁各選手らとグラウンド上で記念写真を撮ったりすれば、噂はさらに現実味を帯びてくる。

 広島と言えば、代々オーナーを務める松田家による一族経営の球団。有力な親会社を持たない分、コロナ禍による経営は他球団以上に厳しいとも言われる。ある地元関係者は「大瀬良と九里のFA流失を避けるために巨額を必要としたら、鈴木を引き留めるにはもっと大金がいる。それならポスティングを認めて実入り(譲渡金)を考えた方が現実的」と、球団の思惑を推察する。

 まるで脈のないところにメジャーが騒ぐわけがない。「すべてはこれからです」と語る鈴木だが、額面通りには受け取れないとするのが大方の見方だ。

 現地での日本人メジャーリーガーへの見方は大谷翔平選手(エンゼルス)の大活躍で変わってきている。これまで、投手は優秀だが野手は非力という評価が一般的だったが、打者・大谷のパワーはMLBでも超一級品。一度は失格の烙印を押されかけた筒香嘉智選手(パイレーツ)も移籍後の打棒で見直されてきた。



 鈴木の評価の高さは「5ツールプレーヤー」の言葉に集約されている。肩、走力、守備力にミート力、長打力とすべてのツールを兼ね備えたオールラウンドプレーヤーはメジャーでも数少ない。鈴木自身が憧れの存在と言う「マイク・トラウト(エンゼルス)二世」と呼ばれる所以でもある。

 今シーズン前には打法改造に取り組んだ。メジャーの動く速球を意識してポイントを後ろに残すことに注力したが失敗。それでも試行錯誤を繰り返して後半戦の爆発につなげた。今では多くの日本人選手が視野に入れるメジャー挑戦だが、仮に鈴木が海を渡れば、どの程度まで通用するのか。今後の尺度になるという視点からも興味深い。

 ワールドシリーズも終了したMLBでは、目下最大の興味は機構側と選手会による新労使協定の締結問題と言われる。12月1日をもって旧協定は失効となるため早急の解決が望まれているが、コロナ禍で経営難に直面する経営側は年俸の高騰を防ぎたい。これに対して選手会は高年俸と待遇改善を勝ち取りたい。交渉が長期化すれば日本人選手の移籍交渉にも影響が出て来る可能性がある。

 すでに鈴木と球団の話し合いは水面下で始まっていると見てもおかしくない。今後、どんな展開を見せるのか?いずれにせよ、鈴木誠也が日米を股に掛けた主役であることは間違いない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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