コラム 2022.04.29. 08:08

オリックスの若手を支援するグラブメーカー ATOMS・岡田茂雄社長の思い

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ATOMS・岡田茂雄社長 [写真=北野正樹]

猛牛ストーリー 【第14回:岡田茂雄さん】


 連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す今季のオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第14回は、奈良県桜井市の野球クラブメーカー・ATOMSの岡田茂雄社長(57)です。グラブ職人の道に飛び込んで約40年、今月30日で社長を退任する創業者。魅力あるグラブ業界を目指し、後進を育てている社長は「ともに成長したい」と、佐野皓大ら育成経験者や育成選手を中心に、グラブやバットなどを支援しています。




自身の経験と重なった若き育成選手たちの奮闘


 4月19日から、本拠地・京セラドーム大阪でソフトバンク、ロッテと6連戦を戦ったオリックス。2試合の延長サヨナラ勝ちで沸いたグラウンドとは別に、ファンの注目を集めるイベントがドーム3階の「BsSQUARE」で開かれていた。

 オリックス球団とATOMSがコラボしたイベント「オリ達の夢を叶えるグラブpresented by ATOMS」。同社のアドバイザリースタッフも務める佐野皓大らの使用しているグラブをファンの好みに応じてカスタマイズし、観戦チケットとセットで販売するという企画。第1回目の昨年は予定の20個がオンラインでの販売開始から約5分で完売し、2年目の今年も用意した50個が発売早々に売り切れたという人気企画である。



 ATOMSがオリックスの若手選手を支援するのは、岡田社長自身の経歴と無縁ではない。

 きっかけは、球団営業部員の佐野良さんが年間予約席の販売のために同社を訪れた3年前にさかのぼる。顧客用に席を購入した後、佐野さんから特定のスポーツメーカーと契約をしていない佐野皓大の存在を知らされた。

 佐野皓大は、大分高から2015年に投手としてドラフト3位で入団。3年目のオフに内野手に転向して育成選手になった。

 4年目の7月に支配下選手に復帰すると、スイッチヒッターに挑戦。この間、背番号は「12」から「64」、「121」を経て「93」と変わり、スイッチを断念した時期もありながら再挑戦と試行錯誤の日々。現在は背番号「41」の外野手で、脚のスペシャリストとして代走などでも活躍している。


 岡田社長は千葉・印旛高出身。甲子園を目指した野球少年だったが、内野手として手になじむグラブと巡り合わなかった経験から、「ないのなら作ってみよう」とグラブ職人の道へ。奈良県内のグラブメーカーに就職し、20年のグラブ職人生活を経て2004年にATOMSを創業した。

 自ら道を切り拓いてきた経験が、投手から内野手、外野手、右打ちからスイッチなどの試行錯誤を繰り返し、育成選手になっても目標を見失うことなくひたむきに取り組む佐野皓大の姿に重なったという。

 「名前を紹介され経歴を調べたら、真面目でチームで一番脚が速く肩も強い。育成も経験し、底を知っている選手。(成長途上にある)うちらしくていいと思った」と岡田社長。

 今年からは、肘の手術を受けて育成選手を経験した5年目の右腕・本田仁海や、育成1位で入団したルーキーの山中尭之(茨城アストロプラネッツ)、同2位の園部佳太(福島レッドホープス)にグラブやバットを提供するなど、若手選手支援の輪を広げている。


この4月末で社長を退任、今後の夢は…


 「ATOMSの知名度を上げるためには、お金を出して実績のある選手と契約する方法もあるが、礼儀正しいなど、人として当たり前のことが出来る選手をサポートしたい」という。

 グラブを提供することで選手を支援し、選手の意見をフィードバックすることによって商品の質を高める。

 「選手がグラブ職人を育て、職人も選手を育てる。さらに一般のお客様にもいい商品を届けることが出来る」

 そんな“一石三鳥”の効果の中でも、岡田社長が最も力を入れるのが職人の育成だ。

 パーツごとに製造を担当するのではなく、すべての工程を一人の職人が携わり、ひとつのグラブを責任をもって仕上げていくことで、技術を磨いている。


 さらに、職人にプライドを持ってもらうため、7年前から自社ブランドも立ち上げた。

 岡田社長によれば、グラブメーカーは家族経営的な小規模な企業が多く、大手スポーツメーカーや海外に製品を納めているケースが多い。スポーツメーカーの経営戦略や為替相場の影響を受け、中長期的な経営戦略を立てることが難しいが、「大手メーカーからの受託生産でなく、自社ブランドなら計画は立てやすく、職人も誇りを持ってグラブを作ることが出来る」という。

 今では、外部からの仕入れではあるが、バッティンググローブとバットも「ATOMS」で販売するなど経営の多角化を図っている。


 今年からバットも使用している佐野皓大は、28日現在チームトップタイの2本塁打を放ち、打率も.286を記録している。園部もファームで4番を任され、4月20日の練習試合・茨城アストロプラネッツ戦では本塁打も放った。

 園部は「グラブは捕球から送球にかけてのボールの握り替えがしやすいなど、革がよく操作性がいい。バットは弾きがいい」と言い、「支援していただいてありがたい」と感謝の気持ちを表す。


 岡田社長はこの4月末で社長を退任し、ATOMSから独立していた石川佳和さんに経営を引き継いで相談役に就任する。

 今後の夢は、グラブの修理だ。どこのグラブでも修理を受け付け、愛着のあるグラブを蘇らせる。さらには、スポーツ用品店の在庫商品をリメイクし、魅力のあるグラブに仕立て直す。

 「売りっぱなしでなく、愛着のあるものを大事にしてほしい。使い切った後は、名刺入れや財布などにも活用できる。使い捨てではなく、循環型の業界にして、野球人口を増やしていく一つのきっかけに出来たら」

 経営の一線から身を引いても、球界の発展を願って、オリックスの若手選手への支援は続けるつもりだ。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)
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