コラム 2022.06.17. 06:44

“猛牛忍者”ことオリックス・宜保翔 美技の秘密は「ビジョントレーニング」

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広い守備力が魅力の宜保翔 [写真=北野正樹]

猛牛ストーリー 【第22回:宜保翔】


 連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す今季のオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第22回は、4年目の今季、守備でスーパープレーを見せている宜保翔選手(21)です。




 どこからともなく球際に現れることから、『パーソル パ・リーグTV公式YouTube』では「猛牛忍者」と称賛されている若き守備のスペシャリスト。

 その秘密は、目の動きなどで判断力や集中力を高める「ビジョントレーニング」にあります。


宗も認める守備力


 「一瞬で球場全体の雰囲気が変わるプレーを見せたい」

 ドラフト5位の宜保からその言葉を聞いたのは、2018年12月15日に大阪市内のホテルで開かれた新入団選手の発表会見だった。


 個別取材でセールスポイントを聞いた時の答え。

 「高校時代も、そんなプレーをして来ました」

 プロ野球のスタート位置に立ったばかりで、初々しさの残る少年が平然と語る姿に、「早くプレーを見てみたい」と胸を高ぶらせたことを昨日のことのように思い出す。


 実際に見たプレーは、その言葉通りのものだった。

 球際に強く、体を傾けてジャンピングスロー、体をくるりと回転させてスローイング。俊足と身体能力の高さを武器に、軽やかな守備を披露してくれた。

 その守備は、昨季初めてゴールデングラブ賞を受賞した宗佑磨が「他の選手とは違う守備の雰囲気がありますね。派手さや華麗さとは違い、自然体だなあという印象。プレースタイルは違いますが、自然に自分の思うように体を動かしているところは、影響を受けましたね」と認めるほどだ。


“猛牛忍者”の異名


 本職は遊撃だが、昨年は紅林弘太郎がレギュラーに定着。今季は新人の野口智哉も遊撃に就くことで、守備の名手・安達了一の休養時や守備固めで二塁を守る。

 名前はまだ全国区ではないかもしれない。それでも今、宜保が注目を集めているのは守備範囲の広さだ。


 佐々木朗希が9回を無安打・無失点、NPB新記録の13者連続三振を含む19奪三振で完全試合を達成した4月10日のロッテ戦(ZOZOマリン)。スタンドを沸かせたのは、佐々木だけではなかった。

 7回。先頭・藤原恭大の打球は一二塁間を抜ける右前安打かと思われたが、これを宜保がダイビングキャッチ。立ち上がりざまに左回転で一塁へ送球し、アウトを取った。

 外野からのテレビカメラは、右翼前に打球が抜けると判断。一瞬、宜保の動きを追えなくなるほどの鮮やかな動き。

 9回には、先頭・マーティンの一塁手右を抜ける打球を、深い位置で足から滑り込んで好捕。一塁送球は間に合わず内野安打になったが、スタンドがどよめくプレーだった。


 この2つのプレーに、素早く反応したのが『パーソル パ・リーグTV』だった。

 翌日、公式YouTubeには「【猛牛忍者】宜保翔『“カメラマンの想像を超える” 抜群の身体能力』」のタイトルで動画を公開。現役時代に走攻守三拍子が揃った選手といわれ、三塁手としてダイヤモンドグラブ賞(現・ゴールデングラブ賞)を受賞した解説の有藤通世さんも、「ほんとに宜保という選手は、どっからともなく出てくるね」と驚きの声を挙げるほどのプレーだった。

 5月26日の巨人との交流戦(東京D)では、6回に代打・増田陸の二塁後方の飛球を、いったん下がってから前に飛びこんでキャッチ。

 マウンドの山﨑福也は「先頭打者だったので助かりました。いつも好プレーで投手陣は助けられています」と感謝した。


「ビジョントレーニング」でレベルアップ


 2019年に、KBC学園未来高沖縄からドラフト5位で入団。遊撃手と投手を務め、3年春の県大会決勝では背番号「6」で先発。強豪の興南高を1-0で完封し、創部4年目で県の頂点に導いた。

 「将来はトリプルスリーが達成できるような、走攻守のバランスが取れた選手になりたい」とは仮契約後のコメントだ。

 1年目にファームで111試合に出場。打率.227で10盗塁。2年目のオープン戦では12試合に出場し、打率.344(32-11)をマーク。コロナ禍で遅れていた開幕スタメンも目前だった。

 しかし、5月中旬に右手有鈎骨の疲労骨折が判明。一軍の試合出場は10試合にとどまってしまった。


 昨季はキャリアハイの33試合に出場。「自分の良さを生かすため、陸上の専門家の指導を受け走力アップに取り組み、100試合出場を目指す」とオフに臨んだ。

 しかし、コロナ禍でその希望はかなわず、そこで取り組んだのが「ビジョントレーニング」だった。

 高校時代の授業で学習したことがあり、オリックスでも梵英心打撃コーチが視野を広げるトレーニングなどを練習に取り入れていることもあり、本格的に取り組むことに。

 眼球を動かす運動をすることで、動体視力や立体視能力、奥行きの認識能力などを高め、判断力を磨き集中力を高めるトレーニング。明かりの点いた数字を目と手で追いかけるゲームのような器具を使ったトレーニングは知られているが、宜保はバランスボールの上に乗り、飛んでくるボールを避けながら掛け算や足し算をやってのけるという。

 目と脳を繋げることで、見た情報を瞬時に判断して体を動かす機能をアップさせる。

 「打席で、速いボールを顔で追うとブレてしまう。首を使わず目で追うんです」という宜保だが、このトレーニングでは打撃面より守備面で効果を感じるそうだ。


 「打撃はどうしても予測の部分が大きいのですが、守備では打球の距離感をつかむことで効果があります。僕はイレギュラーな打球に体が固まってしまうんですが、距離感がつかめるので固まらず余裕が出来ました。気持ちが前より楽になって、球際にも強くなったかもしれません」

 合宿所の自室の天井には、不規則に数字が印刷されたA4の用紙を貼り、数字を目で追いながら体を前後左右に動かし、飛球を捕るイメージトレーニングをしている。


 入団時から指導する風岡尚幸内野守備走塁コーチは「もともと派手さも先行してしまう選手だったのですが、堅実になりました。成長していると思います」と評価。

 一方、6月12日の阪神戦(京セラD大阪)では、3回一死一・二塁の場面で北條史也がセカンド正面へのゴロを打つも、そこで4-6-3の併殺が取れず。一・三塁とピンチを広げた場面を挙げ、「難しい打球で、今の彼のレベルなら上出来ですが、ボールに早く入ってショートにボールを渡す。ショートとの連係も関係しますが、無難にいくより併殺を取るためにもっと攻めてほしい。もう一つランクを上げたらすごい内野手になれるし、そこを目指してやってほしい」と課題も示したのは、大きな期待の裏返しだろう。


「S.GIBO」を背に


 「一軍にずっといて、勝つチームの一員になるのが今の目標。そのために、何をするのかです」と宜保。

 今季は10試合に出場し、26打数5安打で打率.192ながら、2打点を挙げチームに貢献するなど、課題とされた打撃も上向きつつある。


 今季から、ユニホームの名前の表記を「GIBO」から「S.GIBO」に変更した。

 文字間隔が狭く詰まった感じがすることから、若月健矢が「S.」を加えてはとアドバイスしたもので、「ほかの選手にないから目立つし、気に入っています」。


 また、変えた理由はもう一つある。

 兄はルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスに所属する宜保優選手(22)。昨年のドラフトでは指名漏れだったが、兄弟でのプロ野球選手を目指している。

 兄がプロ入りすれば、「S.GIBO」と「Y.GIBO」が誕生する。チームが違うことになっても、2人がプロの舞台で躍動する日を待ちたい。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)



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