柳田悠岐も中田翔も思い切りフルスイングをしてみせた。
生まれ故郷の広島で、子どもの頃からの憧れだったカープの15番とオールスターで対戦する夢が叶ったのだ。マツダスタジアムのマウンド上にはあの男がいた。
黒田博樹、40歳。88年生まれの柳田は幼少時からの熱烈なカープファンとして知られ、89年生まれの中田は小学6年生の時に黒田と一緒に写真を撮ってもらったことを今でもよく覚えているという。
日本球界に復帰し8年ぶり5回目の球宴出場。黒田は地元開催の第2戦に40代投手としては史上2人目の先発登板をすると、2回3安打3三振の無失点投球を披露。テレビのスポーツ番組やスポーツ新聞はそのニュースを大きく報じた。若い選手たちにリスペクトされ、時に見るものに緊張感すら覚えさせる圧倒的な存在感。
黒田の功績は、最近の日本球界に欠乏していた「ストーリー性」を復活させたことだと思う。メジャー球団から提示された推定1800万ドル(約21億6000万円)を蹴って貫いた4億円の広島愛というストーリー。そして今回のオールスター戦では、久々に「レジェンドvs若手選手」というアングルを持ち込んでみせた。
一昔前の球宴ではベテランと若手の世代闘争が見所のひとつだった。晩年の江川卓と10代の清原和博。ルーキー野茂英雄と三冠王落合博満。若かりし頃の松坂大輔と晩年の清原和博。それはファンにとっても球界のスーパースター継承式という意味合いもあったわけだ。
だが、選手のメジャー移籍が定着してからその流れが立ち消え、我々日本の野球ファンは大谷翔平vs松井秀喜を見ることはできなかった。NPBには若手が憧れファンが痺れるほどの大物選手の不在。残念ながら、イチローもダルビッシュも海の向こうである。
だから、2015年の黒田博樹がいるオールースター戦は懐かしく新鮮だった。パリーグの選手たちが「あの黒田さんと対戦できる」と嬉しそうに打席に入る。まさに26歳の柳田や中田にとっては夢の球宴になっただろう。
メジャーリーグに行って結果を残し、日本の元所属球団に戻り地元のオールスター戦で凱旋登板。そして一回り以上歳の離れた若い選手たちとガチンコ勝負をしてみせる。
なぜ人々は背番号15に熱狂するのか?
男気とは、今の球界で黒田博樹だけが持つストーリー性のことである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)