

山口・光市立島田中、柳井市立柳井中、下松市立末武中と、公立3校で県大会優勝の実績を持つ松前優先生。2018年には柳井中を率いて、初の全中に出場した。学生時代は、小学校から大学までキャプテンを務めたリーダー性を持ち、岩国高時代には2003年夏の甲子園ベスト8入りを果たしている。私立に比べると、個々の能力にも差がある公立でいかにして勝つ組織を作り上げているのか。チーム全体の意識を高めるための指導法に迫った。「育成年代の『技術と心』を育む中学野球部の教科書」(大利実/カンゼン)の中から、一部をご紹介します。
柳井中の監督として2018年夏に全中出場を果たしたあと、2019年春から現在の末武中で指揮を執る松前先生。2020年秋には山口県大会(コロナ禍で中止になった夏の中体連の代替大会)で優勝を飾り、就任2年目で早くも結果を残した。
就任してまず行うことは、「目標」の確認だという。赴任した3校いずれにおいても、ファーストミーティングを大事にしてきた。
「初日の練習が始まる前に、『きみたちの目標はどこですか? その目標に合わせて、先生も指導していくからね』という話をします。初任の島田中は中国大会出場、柳井中は日本一、末武中は県ナンバー1という言葉が出てきました。そのうえで、練習を見せてもらいます。練習後、『今日の練習が、県ナンバー1にふさわしいと思った人はどのぐらいいる?』と聞くと、スッと手が挙がることはまずありません」
初日からなかなかヘビーな問いかけだ。さすがに、自信を持って手を挙げるのは難しいだろう。中学生の知識や経験では県優勝、全中出場の基準がわからない。
「高校野球でたとえて、こんな話をします。『山口県はおよそ60校。このうち、甲子園を本気で目指している学校はいくつあると思う? 〝行きたい〞ではなく、〝自分たちが行くんだ〞と取り組んでいるのは、10校あるかどうか。まずはその10校の土俵に乗らなければ、甲子園は見えてこない。きみたちは、目標を達成するための土俵に乗れていますか?』。
赴任した先では、いつもこんなやり取りからスタートしています」
加えて、県内の「A校は全国を狙えるレベル」、「B校は県トップを獲れるレベル」と、松前先生が感じた評価を選手に伝え、目標を叶えるための〝ものさし〞を提示する。「あの学校を倒せば全国が見えてくる」と基準を明確にする狙いがある。
「大事にしたいのは、指導者からの押し付けではなく、子どもたち自身が覚悟を持って、『自分たちで決めたことには、本気で取り組む』という流れにすることです。指導者が決めた目標を追わせてしまうと、なかなかそうはなりません」
2021年、末武中の新チームの部員数は30名。選手で話し合い、「絶対達成できる目標=県ナンバー1」「中間の目標=中国大会出場」「最高の目標=全国大会出場」と決めた。幅を持たせることで、目標が遠くなりすぎるのを防ぐことができる。
松前先生が各校で結果を残しているのは、掲げた目標を達成する力をしっかりと育てているからに他ならない。目標を決めて満足するのではなく、成し遂げるための心構えと技術を教えている。
松前先生が保護者説明会のときに配布する資料に、こんな言葉が書かれている。
「生徒たちは、これから先の人生においてさまざまな関門が待ち受けています。高校受験、就職試験、その他にもさまざまな困難があることと思います。その都度、目標を定め、その達成のために努力を重ねていかなければなりません。周囲の人のサポートを受けながらも、最終的に将来を切り拓くのは自分自身です。その際に必要となるのが、【目標達成能力】です。スポーツは【目標達成能力】を磨く、絶好の機会だと考えています。
『レギュラーになる』『大会で優勝する』といった明確な目標を定め、そこに向かって努力を重ねる。ときにうまくいかないことがあっても、それらを乗り越えることで身も心も強くなっていく。その繰り返しの中で、目標を達成したときには大きな達成感を味わうことで自信につながり、達成できなかったときには悔しさの中で、『次こそは』とモチベーションを高めて、より頑張る。やがて、目標を達成するための正しい努力の方法を学んでいく。
そうした過程で、【目標達成能力】が磨かれていきます。この経験をたくさんしていくことが、部活動の目的のひとつにあると考えています。
野球部では、日誌を活用するなどして、チーム目標と個人目標を短期的なものと長期なものに分けて細かく設定し、その達成に向けての努力を重ねています」
親の立場からすると、頷きながら読める文言ではないだろうか。
(続きは書籍で......)

まつまえ・ゆう。1985年4月25日生まれ、山口県岩国市出身。県立岩国高~広島大。現役時代は内野手で活躍し、高3夏には甲子園でベスト8進出。2回戦で春夏連覇を狙った広陵高に12対7で打ち勝った。広島大卒業後、中学校の教員となり、島田中、柳井中、末武中で監督を務める。島田中では就任3年目に県大会を制して、初のタイトルを獲得。柳井中では2018年夏に全中に出場し、初戦を突破。担当教科は保健体育。『自分との勝負に勝つ』
柳井中の監督として2018年夏に全中出場を果たしたあと、2019年春から現在の末武中で指揮を執る松前先生。2020年秋には山口県大会(コロナ禍で中止になった夏の中体連の代替大会)で優勝を飾り、就任2年目で早くも結果を残した。
就任してまず行うことは、「目標」の確認だという。赴任した3校いずれにおいても、ファーストミーティングを大事にしてきた。
「初日の練習が始まる前に、『きみたちの目標はどこですか? その目標に合わせて、先生も指導していくからね』という話をします。初任の島田中は中国大会出場、柳井中は日本一、末武中は県ナンバー1という言葉が出てきました。そのうえで、練習を見せてもらいます。練習後、『今日の練習が、県ナンバー1にふさわしいと思った人はどのぐらいいる?』と聞くと、スッと手が挙がることはまずありません」
初日からなかなかヘビーな問いかけだ。さすがに、自信を持って手を挙げるのは難しいだろう。中学生の知識や経験では県優勝、全中出場の基準がわからない。
「高校野球でたとえて、こんな話をします。『山口県はおよそ60校。このうち、甲子園を本気で目指している学校はいくつあると思う? 〝行きたい〞ではなく、〝自分たちが行くんだ〞と取り組んでいるのは、10校あるかどうか。まずはその10校の土俵に乗らなければ、甲子園は見えてこない。きみたちは、目標を達成するための土俵に乗れていますか?』。
赴任した先では、いつもこんなやり取りからスタートしています」
加えて、県内の「A校は全国を狙えるレベル」、「B校は県トップを獲れるレベル」と、松前先生が感じた評価を選手に伝え、目標を叶えるための〝ものさし〞を提示する。「あの学校を倒せば全国が見えてくる」と基準を明確にする狙いがある。
「大事にしたいのは、指導者からの押し付けではなく、子どもたち自身が覚悟を持って、『自分たちで決めたことには、本気で取り組む』という流れにすることです。指導者が決めた目標を追わせてしまうと、なかなかそうはなりません」
2021年、末武中の新チームの部員数は30名。選手で話し合い、「絶対達成できる目標=県ナンバー1」「中間の目標=中国大会出場」「最高の目標=全国大会出場」と決めた。幅を持たせることで、目標が遠くなりすぎるのを防ぐことができる。
松前先生が各校で結果を残しているのは、掲げた目標を達成する力をしっかりと育てているからに他ならない。目標を決めて満足するのではなく、成し遂げるための心構えと技術を教えている。
松前先生が保護者説明会のときに配布する資料に、こんな言葉が書かれている。
「生徒たちは、これから先の人生においてさまざまな関門が待ち受けています。高校受験、就職試験、その他にもさまざまな困難があることと思います。その都度、目標を定め、その達成のために努力を重ねていかなければなりません。周囲の人のサポートを受けながらも、最終的に将来を切り拓くのは自分自身です。その際に必要となるのが、【目標達成能力】です。スポーツは【目標達成能力】を磨く、絶好の機会だと考えています。
『レギュラーになる』『大会で優勝する』といった明確な目標を定め、そこに向かって努力を重ねる。ときにうまくいかないことがあっても、それらを乗り越えることで身も心も強くなっていく。その繰り返しの中で、目標を達成したときには大きな達成感を味わうことで自信につながり、達成できなかったときには悔しさの中で、『次こそは』とモチベーションを高めて、より頑張る。やがて、目標を達成するための正しい努力の方法を学んでいく。
そうした過程で、【目標達成能力】が磨かれていきます。この経験をたくさんしていくことが、部活動の目的のひとつにあると考えています。
野球部では、日誌を活用するなどして、チーム目標と個人目標を短期的なものと長期なものに分けて細かく設定し、その達成に向けての努力を重ねています」
親の立場からすると、頷きながら読める文言ではないだろうか。
(続きは書籍で......)

まつまえ・ゆう。1985年4月25日生まれ、山口県岩国市出身。県立岩国高~広島大。現役時代は内野手で活躍し、高3夏には甲子園でベスト8進出。2回戦で春夏連覇を狙った広陵高に12対7で打ち勝った。広島大卒業後、中学校の教員となり、島田中、柳井中、末武中で監督を務める。島田中では就任3年目に県大会を制して、初のタイトルを獲得。柳井中では2018年夏に全中に出場し、初戦を突破。担当教科は保健体育。『自分との勝負に勝つ』