■キャンプを通じて学ぶ、5つのライフスキル

——ライフスキルの5つの項目は、具体的にキャンプではどのように落とし込んでいるのでしょうか? まずは『考える力』から教えてください。
「ヤキュイクキャンプ」は埼玉西武ライオンズOBのコーチの方々とヤキュイクコーチ陣で大きく役割分担をしています。ライオンズOBのコーチ陣には基本的に技術のレクチャーを担当してもらっています。それに対して、我々ヤキュイクコーチ陣は「いま、コーチが言ったこと、どういうことか分かった?」「今のどうだった?」のような、一方的になりがちなレクチャーに対して、問いを投げかけたりしながら、考えることを働きかけたり、そんなふうにしてグラウンドの中での『考える力』にアプローチを行っています。
——ライオンズOBのコーチ陣が先生だとすればヤキュイクコーチ陣はチューターのような役割を担っているわけですね。これは普段の少年野球の現場でも取り入れることができそうですね。
そうですね。あとは「どう感じている?」「やってみてどう?」などといった問いかけも意識して行っています。それに対して「やりづらい」という返答があれば、「じゃあどうやったらいいと思う?」とまた問いかけたりとか、彼等が考える材料をどんどん与えていくような感じですね。まさに「コーチング」ですよね。
——2つ目の『リーダーシップ』についてはどうでしょうか?
リーダーシップってどうしても「キャプテン」とか「みんなを導く」というイメージがあると思いますが、「ヤキュイクキャンプ」ではどういうことを伝えているかというと、「リーダーシップってキャプテンとか副キャプテン、○○係などの役職のことではない」「どんなところにもリーダーシップはある」ということをまず伝えます。その上で、練習の時、集合するとき、コミュニケーションをとるとき、旅館にいるとき、寝るとき、などの色んな場面において「自分からやってみよう!」「周りに働きかけてみよう!」だとか、そういったことがリーダーシップなんだよということを説明します。そしてそれを意識して一日やってみようというところからのスタートです。
——キャンプ中に参加した子がリーダーシップを発揮するようになった等の変化に気づくはありますか?
もちろんありますよ。ボールを率先して片づけるようになったり、グラウンドの中で積極的に声掛けをするようになったり、そういう些細なことも我々は注意深く見るようにしていますから。「今のそれがリーダーシップなんだよ」というように、その都度本人にも伝えてあげています。時には全員を集めて「いま、○○君が率先してボールを集めていたの見た? こういうのもリーダーシップの一つなんじゃないかな?」のようにここでも問いかけてみたり。そういうことをやっています。
——3つ目の『感謝の心』はいかがでしょうか。
今の子ども達って、今ある環境があたりまえ、グローブを買ってもらってあたりまえ、と思うこともあると思うんです。まずはそれが「あたりまえ」ではないんだよということから伝えます。では「感謝」とは何かと言ったら、分かりやすく言葉にすると「ありがとう」だと思うんです。ですからキャンプ期間中はコーチ陣が率先して「ありがとう」と伝えるようにしています。
——なるほど。
例えばノックの時にボールを拾ってくれて渡してくれた子に対して、それをあたりまえのことだと思わず、我々も「ありがとう」と伝える。大人であるコーチ陣がそれを示すことで子ども達にも波及して欲しいと思ってやっています。
——4つ目は『チャレンジ』ですね。
まず子ども達には2つのことを伝えています。1つは「今までやったことがないことをやってみる」。もう1つは「今やっていることをもっとやってみる」。「この2つって『チャンレンジ』だよね?」ということを彼等に伝えることからスタートですね。キャンプを通じてやったことのないポジションをやってみるとか、それも「チャレンジ」だから、キャンプ期間中にどんどんそういったことを推奨するようにしています。
周りの仲間達に対しても、仲間がチャレンジしてみたこと自体を認めてあげよう、と伝えますし、グラウンドの中で失敗してもOKなんだ、どんどんチャレンジしていいんだ、という空気になるように意識しています。
——「いつもと違うポジションを守る」以外にも何かチャレンジしていた事例はありますか?
「ベースボールファイブ」もやるんですけど、チーム決めだったり、打順を決めるときも子ども達だけで話し合って決めるんですけど、これまで意見をあまり言わなかった子が、積極的に自分の意見を言ったりする姿などを見ると、これもチャレンジの1つですよね。
——最後が『コミュニケーション』ですね。
さっきのチーム決めの話もそうですけど、「○○がサードで、○○はレフト」のような、普段は大人がやっている部分も子ども達でコミュニケーションを取り合って決めてもらいます。
あとは、子どもと大人のコミュニケーションですね。子どもが大人であるコーチ陣にどんどん質問をする、思ったことを言ってみる。そうやってたくさんコミュニケーションをとる。そんな体験もできるようにすることも意識している部分ですね。そういったことを含めて、まわりの人とコミュニケーションがとれると野球もやりやすくなるとうことが理解できると思うんです。それはプレーにも影響出てくることですから。
「じゃあ、どんな声がけをするとみんなが元気になる?」
「どんな言葉だと勇気が出る?」
「その場の空気をよくするためにはどんな声かけがいい?」
など、そういったところまでセミナーで話して、意識させている部分ですね。
後編はこちらから。
河合雄也(かわいゆうや)
メンタルコーチ。経営者やビジネスマン等に対してのエグゼクティブコーチング及び組織へのサポート、野球及びスポーツの分野においてはメンタルコーチのみならず、指導者、国家資格キャリアコンサルタント、投球動作研究会副会長等の顔を持ち、あらゆる世代に対してのサポートを行っている。