

昨夏の甲子園王者で今春のセンバツ高校野球大会出場も決めた仙台育英(宮城)。チームを率いる須江航監督の著書『仙台育英 日本一からの招待 幸福度の高いチームづくり』(カンゼン)が昨年12月の発売以来話題を呼んでいます。そんな著書から、第2章「選手の声に耳を傾け、個性を伸ばす」の一部を紹介します。
グラウンドで声をかけるときは、取り組んでいるメニューの狙いを聞くようにしています。
なぜそのメニューをやっていて、実践することで何を手に入れようとしているのか。ここがぼんやりしていては、漠然と練習をするだけになり、成果にはつながっていきません。
たとえ、短期的に技術が向上したとしても、明確な意図を持っていないため、仮説、実証、検証のサイクルを回すことができず、次のステップにつながらなくなってしまいます。
ここを重視するのは、仙台育英の練習システムが、個人に選択権を持たせて、ある程度の自由を保証しているからです。全体練習の中に「選択練習」の時間を設けるなどして、個人がやりたい練習をできる環境を作っています。
高校野球は全員が同じメニューに取り組むことが多いですが、言うまでもなく、ひとりひとりの長所・短所は違うものです。守備が課題でメンバーに入れていない選手が、バッティング練習ばかりやっていたら、メンバー入りのチャンスは増えていかないでしょう。
投手陣は野手以上にトレーニングの時間が多いですが、全員に共通する基礎的なメニューを行ったうえで、あとは自分がやりたいことに向き合えるようにしています。球速を伸ばしたいのか、コントロールを安定させたいのかによって、取り組むメニューは変わっていくものです。
選手自身に選択権があるということは、自分の現在地を客観的に捉えて、必要な練習をカスタマイズする力が求められます。この力を養っていくには、指導者が丹念に問いかけていく必要があるのです。問いかけることで、練習の目的を言語化するようになり、行動と発言がずれていることや、取り組んでいる方向性が間違っていないことに気付くこともあるはずです。
「どう?」
「今は何をやっているの?」
「そのメニューの目的は何?」
「何を手に入れたいの?」
「今の自分の課題は?」
「何を高めたら、メンバーに入れると思っている?」
ひたすら、問いかけます。
上級生になるほど、方向性のずれは少なくなりますが、それでも何も問いかけなければ、「どこに進もうとしているの?」と心配になる選手は必ず出てきます。
近年の流行りに、YouTube やTikTok、Instagram があります。仙台育英は、寮生でもスマホを自由に使える環境にあるので、元プロ野球選手やトレーナーの動画をチェックして、気になるトレーニングを自由に取り入れています。それ自体は何ら悪いことではなく、さまざまな練習を試してみることは、新たな感覚を得ることにもつながっていきます。
ですが……、どんな練習をするにしても、必ず一長一短があり、すべてのことを叶えられる「魔法の練習」など存在しません。たとえば、短期間に球速を上げるようなトレーニングに取り組めば、出力が上がる一方で体への負担は間違いなく増え、故障のリスクが高まります。強さが増すことで、体のバランスが崩れ、コントロールが乱れることにもつながりかねません。
選手には「トレードオフ」という言葉で伝えていますが、何かを得ようとすれば、何かを失うことがあるものです。それをわかったうえで、取り組んでいるか。ここが、非常に重要なポイントになるのです。何事も、「やりすぎる」ことによる弊害は必ずあり、バランス感覚が求められます。
個人の意思を尊重した「選択練習」の時間は、年々、増えてきています。
そのきっかけは、2020年から始まったコロナ禍でした。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、全体練習を短くするとともに、全員が同じ空間に集まる時間を減らすようになりました。その環境下でやれることは、個人のスキルや身体能力を上げる練習しかなかったのです。
はじめは、全体練習が減ることに不安がありましたが、まったくの杞憂に終わりました。投手陣の球速は軒並み速くなり、野手陣のスイングスピードも上がりました。一定の手応えを感じたので、2021年以降も個人に向き合う時間を増やすようにしています。
少し冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、誰がどんな練習を選ぶかは、「人それぞれ」です。それぐらい、個々の課題は違います。「人それぞれ」を高いレベルで極められるようになれば、もっともっと強いチームになっていくはずです。
2022年夏 東北勢初の甲子園優勝!
「青春は密」「人生は敗者復活戦」「教育者はクリエイター」「優しさは想像力」
チーム作りから育成論、指導論、教育論、過去の失敗談まで、監督自らが包み隠さず明かす!
『人と組織を育てる須江流マネジメント術』
<有言実行!夢の叶え方>
基準と目標を明確化 努力の方向性を示す
選手の声に耳を傾け、主体性を伸ばす
データ活用で選手の長所・短所を〝見える化"
日本一激しいチーム内競争の先に日本一がある
高校野球が教えてくれる、本当に大切なことを学ぶ
<目次>
序章 『日本一からの招待』を果たすために
第1章 人生は敗者復活戦―思考論
第2章 選手の声に耳を傾け、個性を伸ばす―育成論
第3章 日本一激しいチーム内競争―評価論
第4章 チーム作りは文化作り―組織論
第5章 教育者はクリエイターである―指導論
第6章 野球の競技性を理解する―技術論・戦略論
終章 幸福度の高い運営で目指す“2回目の初優勝”
個人を伸ばすには個別練習が必要 進むべき道を一緒に考える
グラウンドで声をかけるときは、取り組んでいるメニューの狙いを聞くようにしています。
なぜそのメニューをやっていて、実践することで何を手に入れようとしているのか。ここがぼんやりしていては、漠然と練習をするだけになり、成果にはつながっていきません。
たとえ、短期的に技術が向上したとしても、明確な意図を持っていないため、仮説、実証、検証のサイクルを回すことができず、次のステップにつながらなくなってしまいます。
ここを重視するのは、仙台育英の練習システムが、個人に選択権を持たせて、ある程度の自由を保証しているからです。全体練習の中に「選択練習」の時間を設けるなどして、個人がやりたい練習をできる環境を作っています。
高校野球は全員が同じメニューに取り組むことが多いですが、言うまでもなく、ひとりひとりの長所・短所は違うものです。守備が課題でメンバーに入れていない選手が、バッティング練習ばかりやっていたら、メンバー入りのチャンスは増えていかないでしょう。
投手陣は野手以上にトレーニングの時間が多いですが、全員に共通する基礎的なメニューを行ったうえで、あとは自分がやりたいことに向き合えるようにしています。球速を伸ばしたいのか、コントロールを安定させたいのかによって、取り組むメニューは変わっていくものです。
選手自身に選択権があるということは、自分の現在地を客観的に捉えて、必要な練習をカスタマイズする力が求められます。この力を養っていくには、指導者が丹念に問いかけていく必要があるのです。問いかけることで、練習の目的を言語化するようになり、行動と発言がずれていることや、取り組んでいる方向性が間違っていないことに気付くこともあるはずです。
「どう?」
「今は何をやっているの?」
「そのメニューの目的は何?」
「何を手に入れたいの?」
「今の自分の課題は?」
「何を高めたら、メンバーに入れると思っている?」
ひたすら、問いかけます。
上級生になるほど、方向性のずれは少なくなりますが、それでも何も問いかけなければ、「どこに進もうとしているの?」と心配になる選手は必ず出てきます。
近年の流行りに、YouTube やTikTok、Instagram があります。仙台育英は、寮生でもスマホを自由に使える環境にあるので、元プロ野球選手やトレーナーの動画をチェックして、気になるトレーニングを自由に取り入れています。それ自体は何ら悪いことではなく、さまざまな練習を試してみることは、新たな感覚を得ることにもつながっていきます。
ですが……、どんな練習をするにしても、必ず一長一短があり、すべてのことを叶えられる「魔法の練習」など存在しません。たとえば、短期間に球速を上げるようなトレーニングに取り組めば、出力が上がる一方で体への負担は間違いなく増え、故障のリスクが高まります。強さが増すことで、体のバランスが崩れ、コントロールが乱れることにもつながりかねません。
選手には「トレードオフ」という言葉で伝えていますが、何かを得ようとすれば、何かを失うことがあるものです。それをわかったうえで、取り組んでいるか。ここが、非常に重要なポイントになるのです。何事も、「やりすぎる」ことによる弊害は必ずあり、バランス感覚が求められます。
個人の意思を尊重した「選択練習」の時間は、年々、増えてきています。
そのきっかけは、2020年から始まったコロナ禍でした。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、全体練習を短くするとともに、全員が同じ空間に集まる時間を減らすようになりました。その環境下でやれることは、個人のスキルや身体能力を上げる練習しかなかったのです。
はじめは、全体練習が減ることに不安がありましたが、まったくの杞憂に終わりました。投手陣の球速は軒並み速くなり、野手陣のスイングスピードも上がりました。一定の手応えを感じたので、2021年以降も個人に向き合う時間を増やすようにしています。
少し冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、誰がどんな練習を選ぶかは、「人それぞれ」です。それぐらい、個々の課題は違います。「人それぞれ」を高いレベルで極められるようになれば、もっともっと強いチームになっていくはずです。
【書籍情報】
2022年夏 東北勢初の甲子園優勝!
「青春は密」「人生は敗者復活戦」「教育者はクリエイター」「優しさは想像力」
チーム作りから育成論、指導論、教育論、過去の失敗談まで、監督自らが包み隠さず明かす!
『人と組織を育てる須江流マネジメント術』
<有言実行!夢の叶え方>
基準と目標を明確化 努力の方向性を示す
選手の声に耳を傾け、主体性を伸ばす
データ活用で選手の長所・短所を〝見える化"
日本一激しいチーム内競争の先に日本一がある
高校野球が教えてくれる、本当に大切なことを学ぶ
<目次>
序章 『日本一からの招待』を果たすために
第1章 人生は敗者復活戦―思考論
第2章 選手の声に耳を傾け、個性を伸ばす―育成論
第3章 日本一激しいチーム内競争―評価論
第4章 チーム作りは文化作り―組織論
第5章 教育者はクリエイターである―指導論
第6章 野球の競技性を理解する―技術論・戦略論
終章 幸福度の高い運営で目指す“2回目の初優勝”