【「ファーストストライクをフルスイング」という約束】
6年生のゴールデンウイークが終わった頃、卒業後の進路について森選手と話をした。そこで「(硬式の強豪チーム)堺ビッグボーイズでやろうと思っています」と言ってきた。
当時のチームは6年生が森選手を含めて4人しかおらず「森が打たないと勝てない」というチーム事情もあったため、森選手が少々のボール球に手を出しても何も言わなかった。しかし、中学から硬式で野球をやると知った大川さんは、その方針を改める決意をした。
「これからはボール球に極力手を出さないように。その代わり、ノースリーだろうがファーストストライクがきたらフルスイングしていい。いつもフルスイングしろ。それを俺と約束しよう」
最初のストライクを見逃して、そのあとにそれ以上打ちやすいボールがくる保証はない。高いレベルでやっていくのであれば「イケる!」と思ったボールを振れるようにならないといけない。大川さんはそのように考えて、森選手と約束をした。
ちなみに、大阪桐蔭の西谷監督が中学生の打者をスカウティングするときのひとつの基準が「ファーストストライクを振りにいけるか」というのは有名な話だ。

大阪桐蔭での甲子園春夏連覇を成し遂げ、埼玉西武ライオンズにドラフト1位入団。リーグ優勝にも貢献し、現在は日本球界を代表する強打の捕手として活躍する森選手。教え子の姿を今はどんな思いで見ているのだろうか?
「ひたすら応援しているだけですね。2022年はちょっとケガもありましたけど、腰痛は高校の時からですし、キャッチャーというポジションがキツいんでしょうね。段々重心が低くなっていますけど、スイングは当時のまま。小学校の時から変わっていないです。ベースはあのままですね。森が覆面してスイングしてもすぐわかりますよ(笑)」
そんな森選手は、首位打者を獲得した4年前のオフに、チームに顔を出しに来てくれたことがあった。埼玉西武に入団する際に行った壮行会の時以来の再会だった。
森選手はバッティングのデモンストレーションを行い、子どもたちにプロの打撃のすごさを伝えてくれた。ほかにも、じゃんけん大会でバッティンググローブをプレゼントしてくれ、大人も子どもも大勢が列を作ったサイン会にも最後まで対応してくれたのだという。
最後に森選手へのメッセージをお願いした。
「プロに入る時の壮行会で私は、『森友哉ファンとしては一日も早く1軍で活躍する姿が見たい。そやけどできるだけ息の長い、いつまでも楽しませてくれるような選手でいてほしい』とスピーチしたんです。今もその気持ちは全然変わっていないです。いつまでも、ずっとプロ野球で活躍しているところを見るのが俺の望みや。それだけです」
(取材:永松欣也/写真:大川氏提供)
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