制球に苦しんだ春先
ロッテの東妻勇輔は開幕直後、悩んでいた。
ドラフト2位で入団した東妻は即戦力として1年目から活躍が期待されたが、開幕を二軍で迎え、二軍でも初登板となった3月26日の日本ハム戦で0回2/3を投げて2失点。続く4月4日のヤクルト戦でも1回を3失点、翌5日のDeNA戦は1回を無失点に抑えたが、6日のDeNA戦で1回3失点と苦しんだ。
失点の原因のひとつが与四死球。走者を出してから制球を乱し、4月6日のDeNAとの二軍戦を終了した時点で3回2/3を投げて、9与四死球とイニングを上回る与四死球の数だった。
東妻は「ストライクを取りにいこうとしていましたが、逆にストライクが入らなくなって、自分でもどうしたらいいかわからなくなりました」と当時を振り返る。
清水直行二軍投手コーチは、「1ヶ月間は新人なのでキャンプも含めて、自分たちが今までやってきたものの中で、プロの打者と対戦し何かを感じて欲しいなと。よく言われるイジるというところからは少し離れて、見守ることであまり言わなかったんですね」と苦しむ東妻に声をかけるタイミングを見計らっていた。
「僕が気になったときに本人と話しをして『どうする?こういうふうに見えるけど』と、どういう感覚でいるのかというのを、まずは本人から聞きます。何か不安を持っていたり、自信をなくしていたりするというのを僕の中でも吸い上げて、開幕くらいからそろそろ手を打っていこうかなという感じでした」。清水直コーチが動いた。
走者がいないときもセット
東妻はそれまで走者がいないときにワインドアップで投げていたが、4月16日のセガサミーとの二軍練習試合から走者がいないときもセットポジションに変更した。
清水コーチは「ワインドアップだと体の位置が流れながら足が上がっていた。また、コントロールが悪くなって(東妻は)自信をなくしかけていた。まずは制球力をあげるためにしっかり立って、しっかり踏み出していくというところをやっていこうかなと思って、やらせました。取り組み始めてから(吸収は)早かった方ですよ。また、制球を安定させて自信を回復させたあとに、東妻の良さであるしっかり腕を振れることであったり、スピードボールだったり、蘇ってくるんじゃないかなと」と説明した。
東妻本人も「やっぱり今までのスタイルだとプロの世界ではコントロールが悪すぎるということ。一軍のオープン戦で投げて下に落ちた時に、全力で投げていくフォームでは長いイニングもたないし、1年通して活躍できたとしても次の年に怪我をしてしまうということで、形を作ろうということだった。いろいろ試してみて、ワインドアップよりセットの方が、コントロールが安定するのではないかなということでそっちに変えました」とプロの世界で戦い抜くため、セットポジションからの投球の変更に迷いはなかった。
走者がいないときもセットポジションにしたことで、制球力が飛躍的に向上。「3ボールになってからも簡単に四球を出さなくなりましたし、カットボールと真っ直ぐがよりストライクゾーンで勝負できるボールになってきた」。3・4月は二軍戦に4試合に登板し、3回2/3を投げ9つの与四死球だったが、5月は二軍戦に7試合に登板して、7回1/3を投げ与えた四死球はわずかに1つだった。
奪三振数がアップ
奪三振の数も3・4月の2個から5月は12個とアップし、奪三振率は3・4月が5.00に対し、5月は14.79と大きく上がった。
東妻は「セットにしてから変化球も真っ直ぐもストライクゾーンに集まるようになった。真っ直ぐで空振りも取れていますし、5月に入ってから奪三振も多くなってきた。そういうところは、だいぶ良くなってきたのかなと思います」と奪三振数増加の要因を挙げた。
3・4月に比べてストレートの勢いが良くなったように見えるが、東妻によると「勢いがよくなったというよりは質が変わった。シュート回転して当てられていたボールで空振りが取れるようになってきたので、そこが変わったところかなと思います」と教えてくれた。
制球に不安がなくなったことで、「フォームを確立して、今ではストライクを投げたいときに投げられるという自信がついた。それもあって5月に入ってからいい感じにできているのかなと思います」と今は自信をもってマウンドに上がれている。
清水コーチのアドバイスと東妻の努力で“制球”の不安が解消した。「今のフォームで155キロ。前ぐらいの勢いのあるボールくらいに持っていけたら上でも通用するかなと思います」と東妻。少し苦しんだが、プロ生活は始まったばかり。ここからの巻き返しに期待したいところだ。
取材・文=岩下雄太