話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、11月13日に行われた野球の国際大会「プレミア12」スーパーラウンド・メキシコ戦で巧みなリードを見せ、侍ジャパンを勝利に導いた、広島・會澤翼選手にまつわるエピソードを取り上げる。
「きょうは日本らしい、われわれの勝ち方ができたと思います」(稲葉監督)
13日、プレミア12・スーパーラウンド第3戦に臨んだ野球日本代表・侍ジャパン。前日12日、米国に敗れた日本は、絶対に落とせない一戦でしたが、相手は全勝の首位・メキシコ。
稲葉監督は、山田(ヤクルト)を1番に据え、不振の坂本(巨人)を2番に入れ、丸(巨人)を9番に据えるなど、4番・鈴木(広島)以外の打順をガラッと変えて、強敵に挑みました。これがみごとに的中します。
初回、坂本がレフト前ヒットで出塁。盗塁を決めると、鈴木がタイムリーで先制。近藤(日本ハム)がセンター前ヒットで1点を追加。さらに2回、坂本がセンター前にタイムリーを放ち、3-0。坂本はこの日3安打、守っても好プレーを見せ、完全復活をアピールしました。
序盤早々、打線がプレゼントしてくれたリードに、投手陣も応えます。いい流れを作ったのが、先発・今永(DeNA)と會澤(広島)のバッテリーでした。
「今永とは、宮崎合宿のときからコミュニケーションを取っていました。相手のデータもそれなりに入っているなかで、試合プランを練ってゲームに入りました」(會澤)
今永と會澤は、カナダとの強化試合から3試合続けてバッテリーを組んでおり、お互い阿吽の呼吸をつかんでいます。
「初回の先頭バッターだけ、何で行くか話し合いました」(今永)
メキシコの1番打者は、打撃好調のジョーンズ。実は、試合前のブルペンで、ストレートがあまり走っていないと感じていた今永。「初球、真っ直ぐで入るとやられる」という危惧があったようで、會澤と相談。ここはシーズンでほとんど投げない「カーブ」で入ろうと決めたのです。
この作戦が的中し、ジョーンズは三振。會澤はこれを見て、続く2番・ペリオ、3番・キロスへの初球も、緩いカーブを要求。「今永は真っ直ぐ主体で押して来るピッチャー」と伝えられていたメキシコ打線は意表を突かれたのか、3者凡退に打ち取られました。序盤、変化球主体で幻惑させる會澤の巧みなリードにも助けられ、今永は3回までパーフェクトに抑えます。
しかし……打順が2廻り目となった4回、今永は先頭打者・ジョーンズに、初球、甘く入ったカットボールをレフトスタンドへ運ばれてしまいます。
今永は侍ジャパンの試合で無失点ピッチングを続けていましたが、20イニング目にして初失点。打った瞬間行ったとわかる1発で、一瞬動揺しかけた今永でしたが、続く2番・ペリオをスライダーでサードゴロに仕留めます。
3番・キロスは歩かせますが、會澤はここから、ストレートで押すリードに切り替えました。4番・バルガスには、外角高めの真っ直ぐを振らせ三振。阪神でプレーした5番・ナバーロは、内角低めの真っ直ぐでレフトフライに打ち取り、この回を最少失点に抑えます。ベンチに戻って来たとき、會澤は稲葉監督からこんな言葉を掛けられました。
「簡単には抑えられないよ」
「あの言葉で楽になった」という會澤。稲葉監督の方針は一貫しており、「常に積極的な姿勢を忘れるな」。攻めて行った結果、打たれたなら仕方ない。逃げのリードで四球を許すよりもずっとまし。責任は監督である自分が取る……指揮官のブレない姿勢が、會澤の好リードを生みました。
圧巻だったのは6回。先頭の9番・サラサルに内角低めのチェンジアップを振らせ三振を奪うと、続く1番・ジョーンズもチェンジアップで空振り三振に仕留め、さらに2番・ペリオは高めのカットボールで、3者連続三振!
「會澤さんのおかげです。1失点で収まるとは……」
女房役の巧みなリードに感謝した今永。結局、6イニングで許したヒットはジョーンズに浴びた1発だけでした。
會澤のリードは、リリーフ陣と組んだときも冴えていました。7回から2番手でマウンドに上がったのはルーキー・甲斐野(ソフトバンク)。2番・ペリオに対し、會澤は初球、ストレートから入らせ、155キロの威力ある真っ直ぐを見せ付けると、一転、フォークを3球続けショートフライに仕留めます。
甲斐野はその後も、フォークとストレートで2三振を奪い、8回からは3番手・山本(オリックス)にバトンタッチ。會澤は、山本の最速154キロの真っ直ぐを主体にフォークを振らせるリードで、この回を無失点で切り抜けます。8回の3アウトは、すべてフォークによる空振り三振でした。
9回は、ヤスアキコールがこだまするなか、侍の守護神・山崎康晃が登場。武器のツーシームで、先頭のペリオをセカンドゴロに打ち取ると、続くキロス、エバンスから連続三振を奪い、ゲームセット。 4投手合わせて15奪三振。リリーフ陣は無安打リレーで試合を締めくくり、日本はメキシコと並んで同率首位に立ちました。
メキシコの強力打線を、頭脳と巧みなリードで封じてみせた會澤。今オフ、FA権を行使せず残留を決めた広島でも、投手陣に頻繁に声を掛けるなどコミュニケーションを欠かさず、そのピッチャーの長所を引き出すリードで、抜群の信頼感を得ています。
そんな「一体感」を大事にする姿勢を買って、會澤を侍メンバーに選んだ稲葉監督。中2日置いて、16日に行われる韓国戦は互いに負けられない大一番になりそうですが、侍の扇のカナメがどんなリードを見せてくれるのか、注目です。
「きょうは日本らしい、われわれの勝ち方ができたと思います」(稲葉監督)
13日、プレミア12・スーパーラウンド第3戦に臨んだ野球日本代表・侍ジャパン。前日12日、米国に敗れた日本は、絶対に落とせない一戦でしたが、相手は全勝の首位・メキシコ。
稲葉監督は、山田(ヤクルト)を1番に据え、不振の坂本(巨人)を2番に入れ、丸(巨人)を9番に据えるなど、4番・鈴木(広島)以外の打順をガラッと変えて、強敵に挑みました。これがみごとに的中します。
初回、坂本がレフト前ヒットで出塁。盗塁を決めると、鈴木がタイムリーで先制。近藤(日本ハム)がセンター前ヒットで1点を追加。さらに2回、坂本がセンター前にタイムリーを放ち、3-0。坂本はこの日3安打、守っても好プレーを見せ、完全復活をアピールしました。
序盤早々、打線がプレゼントしてくれたリードに、投手陣も応えます。いい流れを作ったのが、先発・今永(DeNA)と會澤(広島)のバッテリーでした。
「今永とは、宮崎合宿のときからコミュニケーションを取っていました。相手のデータもそれなりに入っているなかで、試合プランを練ってゲームに入りました」(會澤)
今永と會澤は、カナダとの強化試合から3試合続けてバッテリーを組んでおり、お互い阿吽の呼吸をつかんでいます。
「初回の先頭バッターだけ、何で行くか話し合いました」(今永)
メキシコの1番打者は、打撃好調のジョーンズ。実は、試合前のブルペンで、ストレートがあまり走っていないと感じていた今永。「初球、真っ直ぐで入るとやられる」という危惧があったようで、會澤と相談。ここはシーズンでほとんど投げない「カーブ」で入ろうと決めたのです。
この作戦が的中し、ジョーンズは三振。會澤はこれを見て、続く2番・ペリオ、3番・キロスへの初球も、緩いカーブを要求。「今永は真っ直ぐ主体で押して来るピッチャー」と伝えられていたメキシコ打線は意表を突かれたのか、3者凡退に打ち取られました。序盤、変化球主体で幻惑させる會澤の巧みなリードにも助けられ、今永は3回までパーフェクトに抑えます。
しかし……打順が2廻り目となった4回、今永は先頭打者・ジョーンズに、初球、甘く入ったカットボールをレフトスタンドへ運ばれてしまいます。
今永は侍ジャパンの試合で無失点ピッチングを続けていましたが、20イニング目にして初失点。打った瞬間行ったとわかる1発で、一瞬動揺しかけた今永でしたが、続く2番・ペリオをスライダーでサードゴロに仕留めます。
3番・キロスは歩かせますが、會澤はここから、ストレートで押すリードに切り替えました。4番・バルガスには、外角高めの真っ直ぐを振らせ三振。阪神でプレーした5番・ナバーロは、内角低めの真っ直ぐでレフトフライに打ち取り、この回を最少失点に抑えます。ベンチに戻って来たとき、會澤は稲葉監督からこんな言葉を掛けられました。
「簡単には抑えられないよ」
「あの言葉で楽になった」という會澤。稲葉監督の方針は一貫しており、「常に積極的な姿勢を忘れるな」。攻めて行った結果、打たれたなら仕方ない。逃げのリードで四球を許すよりもずっとまし。責任は監督である自分が取る……指揮官のブレない姿勢が、會澤の好リードを生みました。
圧巻だったのは6回。先頭の9番・サラサルに内角低めのチェンジアップを振らせ三振を奪うと、続く1番・ジョーンズもチェンジアップで空振り三振に仕留め、さらに2番・ペリオは高めのカットボールで、3者連続三振!
「會澤さんのおかげです。1失点で収まるとは……」
女房役の巧みなリードに感謝した今永。結局、6イニングで許したヒットはジョーンズに浴びた1発だけでした。
會澤のリードは、リリーフ陣と組んだときも冴えていました。7回から2番手でマウンドに上がったのはルーキー・甲斐野(ソフトバンク)。2番・ペリオに対し、會澤は初球、ストレートから入らせ、155キロの威力ある真っ直ぐを見せ付けると、一転、フォークを3球続けショートフライに仕留めます。
甲斐野はその後も、フォークとストレートで2三振を奪い、8回からは3番手・山本(オリックス)にバトンタッチ。會澤は、山本の最速154キロの真っ直ぐを主体にフォークを振らせるリードで、この回を無失点で切り抜けます。8回の3アウトは、すべてフォークによる空振り三振でした。
9回は、ヤスアキコールがこだまするなか、侍の守護神・山崎康晃が登場。武器のツーシームで、先頭のペリオをセカンドゴロに打ち取ると、続くキロス、エバンスから連続三振を奪い、ゲームセット。 4投手合わせて15奪三振。リリーフ陣は無安打リレーで試合を締めくくり、日本はメキシコと並んで同率首位に立ちました。
メキシコの強力打線を、頭脳と巧みなリードで封じてみせた會澤。今オフ、FA権を行使せず残留を決めた広島でも、投手陣に頻繁に声を掛けるなどコミュニケーションを欠かさず、そのピッチャーの長所を引き出すリードで、抜群の信頼感を得ています。
そんな「一体感」を大事にする姿勢を買って、會澤を侍メンバーに選んだ稲葉監督。中2日置いて、16日に行われる韓国戦は互いに負けられない大一番になりそうですが、侍の扇のカナメがどんなリードを見せてくれるのか、注目です。