苦しい投手陣を支えた大ベテラン
改元フィーバーに沸いた2019年も残りわずか。“令和”のプロ野球はソフトバンクの日本一3連覇で幕を閉じた。
昨季2位の快進撃から一転、セ・リーグ最下位に沈んだヤクルト。新人王に輝いた19歳の怪童・村上宗隆の台頭など明るいニュースもあった一方、「4.78」という12球団ワーストのチーム防御率が示す通り、年間を通して投手陣が苦しんだ。
先発陣の成績を見てみると、規定投球回をクリアしたのは小川泰弘ただ一人。その小川も今季は防御率4.57と規定到達者では最下位に沈み、5勝12敗と7つも負け越しを作ってしまった。そんな苦しい事情のなか、チーム最多の8勝(6敗)をあげて2つの貯金を作ったのが、ベテラン左腕の石川雅規である。
齢四十を前にチーム最多勝利
石川は秋田商高から青山学院大を経て、2001年のドラフト自由枠でヤクルトに入団。今季がプロ18年目のシーズン、1980年生まれ・39歳の大ベテランだ。
ルーキーイヤーから5年連続で2ケタ勝利をマークするなど、キャリアで11度のシーズン2ケタ勝利を達成している左腕。2017年には4勝14敗と大きく負け越して「そろそろか…」という見方も浮上した中、翌年に7勝を挙げると、今季は1つ積み上げて8勝と見事に復活。2015年以来となる2ケタ勝利も視界に捉えた。
規定投球回には届かなかったものの、今季も23試合すべてで先発して124回と1/3を投球。衰えるどころかその投球術は円熟味を増し、8月14日のDeNA戦では8回一死までノーヒッターという快投も見せている。
また、今季は8勝のうち半分の4勝を巨人から挙げるなど、“巨人キラー”ぶりも健在。これで対巨人戦の通算成績を31勝27敗とし、「巨人戦30勝以上」かつ「勝ち越し」をしているのは、平松政次氏、星野仙一氏、川口和久氏についで史上4人目のことだという。
通算勝利数も「171」まで来た。大台まではあと「29」勝──。来年1月で40歳を迎えるが、今季の投球を見ていると、決して不可能ではないだろう。来季も大ベテランに頼り切りという状況ではチームとしても厳しいのだが、これからも勝ち星を積み上げていく姿に期待がかかる。
野手顔負けの打撃も披露
また、今季の石川は投げるだけじゃない。バットでも魅せてくれた。
今季の打撃成績は34打数8安打、打率にして.235。本塁打こそなかったものの4つの打点を稼いでおり、“9番目の打者”として申し分ない数字を残している。しかも、打つだけではなく犠打も6つ成功。打線のつなぎ役としても素晴らしい働きを見せた。
今季の活躍もあって、通算打率も.159に上昇。通算安打も「124」となり、24年連続安打という投手における歴代1位の記録を持っていた三浦大輔氏を上回った。もちろん、現役では断トツの数字である。白星と同様、こちらもどこまで記録を積み上げていくことができるのか。来季以降も注目だ。
去りゆく者の想いも背負って…
石川が通算171勝目を挙げたのは9月22日。その前日・21日には、盟友である館山昌平と畠山和洋の引退セレモニーが行われた。
館山は試合後のスピーチで家族への感謝を語った後、「そして、石川さん…」と一塁ベンチ前に整列した“先輩”に向かってこう語りかける。
「本当に前から石川さんの背中をずっと追いかけてきました。距離を縮めることすらできませんでしたけれども、石川さんがいなければ僕の成績はありません。誰とでも分け隔てなく接し、常にチームの中心で活躍している姿は選手の憧れです。これからも後輩たちの高い目標で居続けてください」
この“公開サプライズ”には、石川の目からも光るものが流れ落ちた。
それを受けて臨んだ翌日の巨人戦。雨も落ちるバッドコンディションとなったが、与えられた役割をしっかりとこなして5回3失点の力投。白星を挙げるとともに、安打も1本放つ活躍を見せ、かわいい後輩からのエールに応えて見せた。
後からプロの世界に入ってきた後輩たちも続々とユニフォームを脱いでいくなか、彼らの想いも背負って第一線を走り続ける背番号19。
「これからも後輩たちの高い目標で居続けてください」──。
燕が誇る“小さな大投手”の戦いは、まだまだつづく。
▼ 石川と同世代の現役選手【NPB】
1979年5月28日生 能見篤史(阪神/投手)
1979年5月28日生 五十嵐亮太(ヤクルト/投手)
1979年9月7日生 石原慶幸(広島/捕手)
1980年1月4日生 細川 亨(ロッテ/捕手)
文=尾崎直也