話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は5月21日、「プロ初登板・初先発・初勝利」の快挙を成し遂げた巨人・松井颯(はやて)投手にまつわるエピソードを紹介する。
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先発のコマ不足に悩む巨人に“救世主”が登場です。5月21日、東京ドームで行われた巨人−中日戦に、昨年(2022年)の育成ドラフト1位でこれがプロ初先発のルーキー・松井颯が先発。5回を2安打無失点に抑え、中日・髙橋宏斗に投げ勝って「プロ初登板・初先発・初勝利」を挙げたのです。
育成ドラフト出身の新人投手が初登板・初勝利を飾ったのは、ソフトバンク・大竹耕太郎(現・阪神)以来2人目で、セ・リーグでは初の快挙。つまり巨人でも球団史上初ということです。
筆者はこの試合、ネット裏の席で観戦していました。いったいどんな球を投げるのか、プレイボール前の投球練習に注目していたら、初球をいきなりバックネットへ大暴投! 「もしや超ノーコン? 大丈夫かいな?」と思いましたが、単に緊張していただけでした。冒頭の本人のコメントにもあるように、むしろあの“やらかし”で落ち着けたのかも知れません。
いざゲームに入ると、松井は冷静沈着そのもの。初回から150キロ台のストレート中心でグイグイ押していき、かと思えば、途中から変化球を巧みに織り交ぜバッターを翻弄。相手が貧打に悩む中日打線だったとは言え、3回までパーフェクトはお見事でした。
巨人はウォーカーの2ランで先制。岡本もダメ押しのツーランを放つなど、ルーキーを打線がバックアップ。守備でも野手陣が再三にわたって美技を見せ、「みんなで松井を勝たせてやろう」という思いが観ていて伝わってきました。
松井の奮闘もあって、巨人は5-2で快勝。これで5連勝となり、ついに「貯金1」に突入しました。この試合のわずか2週間前、巨人は中日に「魔の8回」で3タテを食らい、最下位転落寸前まで行ったのですが、そこからの10試合を8勝2敗。こういう若い投手が「颯(はやて)」のように現れて勝つと、チームもより勢い付きます。赤星や山﨑伊織へのいい発奮材料にもなるでしょう。松井にとっても、チームにとっても非常に大きな1勝でした。
しかし、こんな好投手が育成ドラフトまで残っていたというのも驚きですが、なぜ他球団の評価が低かったかと言うと、明星大学時代は4年間、首都大学リーグの2部で投げていたからです。出身高校は埼玉の名門・花咲徳栄で甲子園にも行っていますが、エース・野村佑希(現・日本ハム)の控えでした。
野村が高卒で2位指名されプロに行ったのを見て、自分はどこまでやれるのか、大学へ行ってからも地道にコツコツ腕を磨いていった松井。注目されない2部でも、巨人のスカウトはしっかり成長ぶりをチェックし「磨けば光る」と判断したのですから、やはり諦めずに努力はするものです。
そして、松井の経歴で特筆すべきことが1つ。大学の学科は理系で、理工学部で物理学を専攻していたのです。理系の現役ピッチャーは、中日・福谷浩司(慶應義塾大学理工学部出身)がいます。福谷は自身のフォーム解析を卒論のテーマに選び、かなり早くからボールの回転数にも注目するなど、大学で学んだことを野球に活かしていました。
松井も同じ物理学科だけあって、ボールの回転数についてはかなり真剣に研究したようです。今年(2023年)1月、スポーツ報知の新人紹介記事でこんなことを語っていました。
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記事中の「最速は高校時代から実に13キロも伸びた」という部分は、読んでいてゾクッとしました。もちろん肉体強化にも励んだのでしょうが、それだけではこんなに伸びません。松井のように、頭脳も駆使して自己の才能を伸ばす選手が現れたことを、いち野球ファンとして嬉しく思います。
「ラプソード」は、ボールの回転数・回転軸・変化量などを測定できるポータブル型の測定器のことで、物理学の知識がある松井の場合、さらに有効活用が可能です。ちなみに卒業論文は「硬式球の流体力学」。頭脳面での伸びしろも楽しみです。
次回登板は、雨天中止がなければ5月28日(日)、甲子園での阪神戦が有力で、首位相手にどんなピッチングを見せてくれるのか注目です。高校時代に控えだった松井が、聖地のマウンドで脚光を浴びるかも知れません。
そこでも好投すると、その次の日曜日(6月4日)は東京ドームで日本ハムとの交流戦。元チームメイト・野村との対戦が実現するかも……。異色の経歴含め、松井はこれからも球界を沸かせてくれそうです。
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『最高でぇ~~す!』
『投球練習の、最初の1球目をバックネットに投げてしまったので、そこでちょっと緊張がほぐれました』
~『スポニチアネックス』2023年5月21日配信記事 より(松井颯のコメント)
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先発のコマ不足に悩む巨人に“救世主”が登場です。5月21日、東京ドームで行われた巨人−中日戦に、昨年(2022年)の育成ドラフト1位でこれがプロ初先発のルーキー・松井颯が先発。5回を2安打無失点に抑え、中日・髙橋宏斗に投げ勝って「プロ初登板・初先発・初勝利」を挙げたのです。
育成ドラフト出身の新人投手が初登板・初勝利を飾ったのは、ソフトバンク・大竹耕太郎(現・阪神)以来2人目で、セ・リーグでは初の快挙。つまり巨人でも球団史上初ということです。
筆者はこの試合、ネット裏の席で観戦していました。いったいどんな球を投げるのか、プレイボール前の投球練習に注目していたら、初球をいきなりバックネットへ大暴投! 「もしや超ノーコン? 大丈夫かいな?」と思いましたが、単に緊張していただけでした。冒頭の本人のコメントにもあるように、むしろあの“やらかし”で落ち着けたのかも知れません。
いざゲームに入ると、松井は冷静沈着そのもの。初回から150キロ台のストレート中心でグイグイ押していき、かと思えば、途中から変化球を巧みに織り交ぜバッターを翻弄。相手が貧打に悩む中日打線だったとは言え、3回までパーフェクトはお見事でした。
巨人はウォーカーの2ランで先制。岡本もダメ押しのツーランを放つなど、ルーキーを打線がバックアップ。守備でも野手陣が再三にわたって美技を見せ、「みんなで松井を勝たせてやろう」という思いが観ていて伝わってきました。
松井の奮闘もあって、巨人は5-2で快勝。これで5連勝となり、ついに「貯金1」に突入しました。この試合のわずか2週間前、巨人は中日に「魔の8回」で3タテを食らい、最下位転落寸前まで行ったのですが、そこからの10試合を8勝2敗。こういう若い投手が「颯(はやて)」のように現れて勝つと、チームもより勢い付きます。赤星や山﨑伊織へのいい発奮材料にもなるでしょう。松井にとっても、チームにとっても非常に大きな1勝でした。
しかし、こんな好投手が育成ドラフトまで残っていたというのも驚きですが、なぜ他球団の評価が低かったかと言うと、明星大学時代は4年間、首都大学リーグの2部で投げていたからです。出身高校は埼玉の名門・花咲徳栄で甲子園にも行っていますが、エース・野村佑希(現・日本ハム)の控えでした。
野村が高卒で2位指名されプロに行ったのを見て、自分はどこまでやれるのか、大学へ行ってからも地道にコツコツ腕を磨いていった松井。注目されない2部でも、巨人のスカウトはしっかり成長ぶりをチェックし「磨けば光る」と判断したのですから、やはり諦めずに努力はするものです。
そして、松井の経歴で特筆すべきことが1つ。大学の学科は理系で、理工学部で物理学を専攻していたのです。理系の現役ピッチャーは、中日・福谷浩司(慶應義塾大学理工学部出身)がいます。福谷は自身のフォーム解析を卒論のテーマに選び、かなり早くからボールの回転数にも注目するなど、大学で学んだことを野球に活かしていました。
松井も同じ物理学科だけあって、ボールの回転数についてはかなり真剣に研究したようです。今年(2023年)1月、スポーツ報知の新人紹介記事でこんなことを語っていました。
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『感覚だけでなく、数値から打者が打ちづらい直球を模索した。「投げていて、ファウルは取れるけど空振りが取れないことが多くて。そこで回転数に興味を持った」。大学3年時からは測定器「ラプソード」を用いて、リリースポイントや回転軸を改良。最速は高校時代から実に13キロも伸びた』
~『スポーツ報知』2023年1月21日配信記事 より
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記事中の「最速は高校時代から実に13キロも伸びた」という部分は、読んでいてゾクッとしました。もちろん肉体強化にも励んだのでしょうが、それだけではこんなに伸びません。松井のように、頭脳も駆使して自己の才能を伸ばす選手が現れたことを、いち野球ファンとして嬉しく思います。
「ラプソード」は、ボールの回転数・回転軸・変化量などを測定できるポータブル型の測定器のことで、物理学の知識がある松井の場合、さらに有効活用が可能です。ちなみに卒業論文は「硬式球の流体力学」。頭脳面での伸びしろも楽しみです。
次回登板は、雨天中止がなければ5月28日(日)、甲子園での阪神戦が有力で、首位相手にどんなピッチングを見せてくれるのか注目です。高校時代に控えだった松井が、聖地のマウンドで脚光を浴びるかも知れません。
そこでも好投すると、その次の日曜日(6月4日)は東京ドームで日本ハムとの交流戦。元チームメイト・野村との対戦が実現するかも……。異色の経歴含め、松井はこれからも球界を沸かせてくれそうです。