恩師と立てた「新人王」という目標
広島・森下暢仁投手(23)は、一人でプロ2年目を歩き始めた。
昨季受賞した新人王は、恩師との約束でもあった。明大時代は、当時の善波達也監督から「4年間を使うのだから、同期の連中には負けられないよな」と度々伝えられてきた。
ドラフト上位候補だった高3時、プロ志望届を提出せず明大に進学した。森下自身は高卒でのプロ入りを希望していたなか、善波監督からの熱心な勧誘によって心変わりしたと言う。
大学1年春の新人戦で右肘を疲労骨折するなど、大きな故障も経験した。それでも、2年生から大学日本代表に選出されるなど、大学4年間で極めて順調に成長した。
善波監督との食事中、「絶対にドラフト1位で行こう」と伝えられたこともある。ただ、大学4年間で世代No.1の投手に成長したことを証明するには、ドラ1だけでは満足できなかった。新人王受賞が2人の目標になった。
目標達成と、拠り所からの巣立ち
だからこそ、広島入団後も2人の師弟関係は続いた。
同氏が2月の日南春季キャンプを訪問した際には、記者陣に「大学でも日本代表の重圧などを経験しているので大丈夫。暢仁は新人王を獲れると思う」と新人王への期待を隠せなかった。
1年目のシーズンが始まると、森下は登板後に必ず善波氏に電話をかけるようになった。
「打たれるのは別にいいんじゃない。なぜ打たれたか、感じたことを覚えておけばいいよ」。登板の度に伝えられる恩師の感想を通して、課題を整理した。
同氏は森下の卒業と同時に、12年間務めた明大監督を退任。森下が登板する全試合をテレビでチェックする時間の余裕もあった。
シーズン終盤、新人王は巨人・戸郷翔征との一騎打ちとなった。
「(新人王を)全然意識しています。獲りたい気持ちはどんどん強くなっています」
目標が近づくにつれて、成績も上がった。終わってみればチームトップの10勝、防御率1.91。文句なしでの選出だった。
そして、新人王受賞を善波氏に電話で報告した。それ以降、2人は数える程度しか連絡を取り合っていない。今季からは試合後の反省会を行う予定もない。師弟関係にひと区切りをつけるタイミングが来たのだ。
「感謝の気持ち」を胸に
今季初登板は3月30日、本拠地での阪神戦だった。決して本調子とは言えないなかで、6回を被安打1、無失点の好投。今季1勝目を挙げた試合後、真っ先に口にしたのは周囲への感謝だった。
「開幕してマウンドに立てるのは、ここまで野球やらせてもらった両親だったり、いろんな人のおかげ。感謝の気持ちを持ちながら、何が何でも勝ってやるという思いでマウンドに立ちました。そして、その思いを実行できた。勝てて良かったなと思います。野球をやる上でいろんな人の支えがある。そういう思いを持って投げました」
ともに殊勲のお立ち台に立った菊池涼介から「シュウペイが最多勝を取れるように打ちたいと思います」と振られると、「シュウペイでーす!」と一発ギャクを披露して笑いを誘った。
今年は心の拠り所でもあった恩師に頼ることはない。先輩たちの温かい視線に見守られながら、森下の2年目が幕を開けた。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)