「最初は変えて良いのか信じ切れなかった」
広島・大道温貴投手(22)の投げっぷりの良さは、妥協なく作り上げた投球フォームに支えられている。
ドラフト3位で入団した新人右腕。開幕からの勝ち継投入りまでには、一筋縄ではいかなかった恩師との二人三脚があった。
春日部共栄を卒業後、地元・埼玉を離れて八戸学院大に進学した。
同大学といえば、元楽天・青山浩二や、巨人・髙橋優貴らをプロに輩出。そこで、投手の育成に定評のある正村公弘監督と出会う。
しかし、入学当初は根本から投球フォームを見直そうとする指導を素直に受け入れることができなかった。
「高校のときはフォームからトレーニングまで自己流だったけど、キレイなフォームと言われてきた。だから、最初は変えて良いのか信じ切れなかった。言われたことをそのままは受け入れられなかったんです」
そこで、練習後には連日監督室を訪れ、納得するまでシャドーピッチングを見てもらうことにした。
プロ野球に進む投手を育ててきた同監督といえども、10年間の指導歴の中で、そんなお願いをする選手は一人もいなかったと言う。
「全て監督がつくってくれた」
1年春のリーグ戦から登板機会を与えられた。
「リーグ戦の中でどうしたらいいのかを考えると、結局監督の指導にたどり着く。そこから監督の言われたことは信じ続けてきました」
毎日監督室でシャドーピッチングをしては、「軸をぶらさないこと」「下半身中心に投げること」などを叩き込まれて、投球フォームは理想形に近づいていった。
「ぶつかったことは、何回もありますね。でも僕が納得するまで聞き返しても、納得するまで指導してくださった。ブルペンに入るときは監督さんも必ず来てくれた。高いところを目指してやってくれたからこそ厳しかったのだと思います」
そして、大学4年を迎える前に監督から伝えられた。「俺から教えることはもう何もない」。それ以降、細かな技術指導を受けることはなくなったと言う。
指揮官の見立て通り、4年秋にはリーグ戦記録に並ぶ1試合18奪三振を達成するなど、確かな成長を見せて大学4年間を終えた。
卒業後、大道に憧れた同大学の新入部員は、監督室でシャドーピッチングを続けていると言う。
「正村監督なくして、いまの僕はない。一つ一つの変化球だったり、直球の質とか投球フォームも全て監督がつくってくれた」
広島では、同期入団の栗林良吏、森浦大輔とともにブルペン陣を支えている。
4月16日の中日戦では2回を無失点に抑えてプロ初勝利。18日の同カードで2勝目を挙げると、9回は栗林が抑え、球団史上初となる「同一試合で新人投手の勝利投手とセーブの同時達成」を記録した。
「同期が頑張っているので、気の抜けない日々が続いています」
監督と意見をぶつけ合った4年間があるからこそ、プロのマウンドでも思い切り良く腕を振れる。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)