「自信を持って投げられるようにしないと…」
極限の緊張感の中でも弱さが見えない。
勝ち継投の一員として起用されている広島・森浦大輔投手(23)が、これまで足りなかった「自信」を積み上げている。
前半戦では一時、勝ち継投に入りながらも、試合終盤のリードした展開で結果を残し切れなかった。
前半戦の防御率は4.37…。
リーグ戦の中断期間直前は、点差のある場面での登板が増えていた。
「毎試合緊張感はあるけど、勝っている場面ではより緊張感が増す。そういった場面でも自信を持って投げられるようにしないといけないな…と感じました」
緊迫した場面で本領を発揮できない姿を気にかけてくれたのが、同期入団の栗林良吏だった。
開幕から抑えを務める経験をもとに、「悔いを残さないように、自信のある球を自分から選択していった方がいいよ」とアドバイスをくれた。
栗林は新人ながら年上の捕手にも遠慮なく首を振る。勝負球のフォークを生かすために、自らも考えて配球を組み立てているのだ。
その結果、前半戦で18セーブを挙げ、救援失敗は1度だけにとどめた。
中断期間に意識したこと
一方の森浦には、捕手への遠慮があるように栗林からは映っていた。
森浦は、栗林の助言から「自信を持てる球」の重要性を再認識した。
「中継ぎは基本的に1イニングしか投げない。短い回数で結果を残すためには、自分の自信のある球をどんどん投げて、自分が攻めやすい投手有利のカウントにしていくことが大事だなと思いました。捕手の方の意見に納得して投げないと悔いが残る。栗林さんの話を聞いて、ストライクの入る確率の高い自信のある球をしっかりと選んでいかないといけないなと感じました」
自信をつかむには勇気も必要だった。
前半戦は対右打者に被打率.171ながら、対左は同.325まで悪化。攻め方に原因があったと振り返る。
「前半戦は左打者の内角を突けていないのが課題でした。球種どうこうというよりも、外角ばかりに偏っていたので、両サイドに投げ切る必要があると思いました」
左打者には勝負球の外角スライダーを多用していた。その結果、内角を捨てて、外角の変化球狙いで踏み込まれた。
そこで、リーグ戦の中断期間は「両サイドへの投げ分けができたうえで、もう少し強い球を投げられるようにしたい」と意識した。
手に入れた「悔いの残らない球」
この取り組みが投球内容を劇的に変えた。
後半戦の登板が6試合を終えた時点で6回2/3を1失点、防御率は1.35。対右打者には被打率.083(12-1)で、対左には同.111(9-1)と左右関係なく結果が残るようになった。
さらに、打者23人に対して計11奪三振。右打者から8三振を奪っているように、いまも右打者を得意にしているとはいえ、左への苦手意識も払しょくされつつある。
「もう少し強い球を投げたい」と取り組んできた中、切れを増した直球が「悔いの残らない球」の一つになった。
恐れずに直球を内角に投げ切ることで、相手は外角狙いで踏み込むことができない。前半戦の課題が解消されたことが、そのまま結果につながっているのだ。
リーグ戦の再開直後に勝ちパターンとして期待されていたフランスアとコルニエルが不振に陥り、首脳陣は森浦を勝ち継投の一人として計算している。
8月28日の阪神戦では、2007年の上野弘文を上回る球団新人記録の8ホールド目を挙げた。現在の立場を死守できれば、記録を大幅に更新することも可能だ。
勝負所での失点が目立った前半戦とは異なる姿を見せる機会が訪れている。当時とは自信も違うだろう。いまは、接戦でも迷うことなく腕が振れている。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)