「1年でも長く」
代表取材制によって、報道陣も数えるほどの閑散とした会見場…。
しかし、そには似つかわしくないヒリヒリする「危機感」が充満した。
11月26日、契約更改に臨んだ阪神・北條史也の表情は終始、険しかった。
「7年目、8年目ぐらいから1年1年勝負という。若い時は、自分も成長して、4年目終わりで大卒の同級生が入ってくるので、大卒の人より給料多くもらっときたいという思いもあったり。そういう風に考えてやってたんですけど、ここまできたら1年でも長く…という気持ちで最近はやってます」
ずっと「期待の若手」のレッテルを貼られ、ポジション争いの最前線にいた男が発した「1年でも長く」という言葉。一瞬、違和感を覚えてしまうが、時の流れを考えれば頷かざるを得ない。
「無理やったら終わり」の覚悟
高校時代に甲子園でライバル関係だった同期の藤浪晋太郎とともに入団した北條も、来季がプロ10年目。チームを見渡せば、完全な中堅世代に位置する。
今や当然のように加わっていた競争の輪の外側から、自力で顔をのぞかせなければ認知されない立場。伸びしろを期待され、“猶予”をもらえる時間はもう終わり。シンプルに実力で判断される。
「だいたいはレギュラーとか決まってると思うんで、そこに食い込んでいって、チャンスは多くない立場ですし。少ないチャンスをしっかりものにしないと試合にも出れないと思うんで。無理やったら終わりです。それぐらい(の気持ち)です」
淡々と、静かに、“クビ”について口にしたが、高卒のプロ10年目とはそういうことなのだろう。
10月に手術、はやる気持ちを抑えながら…
悲壮な覚悟には焦燥感もにじむ。
クライマックスシリーズでの復帰を目指して参加していたみやざきフェニックス・リーグで左肩亜脱臼の重傷を負い、10月24日に「左関節鎖下肩関節唇形成術」の手術。今も患部にはギプスが必要で、地道なリハビリの真っただ中にいる。
来春のキャンプも二軍スタートが濃厚。
「(今も)リハビリもできることが限られてるので。腕上げたりとか、“おじいちゃん”みたいなことしかできないというか。これからです」
快発進を目論む1年は、皮肉にもはやる気持ちを抑えながらのスタートになる。
「後悔はない」手にした財産
それでも、ゼロやマイナスからの再出発では決してない。
“財産”として体に残るのは、今年1月に初めて合同自主トレを行った巨人・坂本勇人から授かった数々の助言。
光星学院(現・八戸学院光星)の先輩と過ごした時間は、プレーヤーとしての核の部分を築くきっかけにもなった。
「いろいろ引き出しというか、いっぱい教えてもらったんで。そこをこの1年間貫いてできたかなと思うんで、そこは(怪我した1年でも)後悔とかはないですね」
会見後、クラブハウスへと引き上げる際、「久々に人と喋れて楽しかったですわ」と最後にようやく表情を緩ませた。
孤独で辛いリハビリが浮かぶ。そして、じっと耐える時間はしばらく続く。
逆襲の2022年へ、「しっかり巻き返していきたい」という言葉を信じ、まずはスタートラインに立つ時を待ちたい。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)