第2回:松井野球の象徴へ…走攻守三拍子揃ったドラ1ルーキー蛭間に高まる期待
松井稼頭央新監督を迎えた西武が 大幅なチームの体質改善を図っている。
「走魂」をスローガンに掲げて、縦横無尽に走り回る野球を目指そうというものだ。
他球団より1週間近く遅く開始した宮崎・南郷キャンプでも初日から過酷なインターバル走を取り入れるなど、走力アップの意識改革を進めている。
松井監督自身が、現役時代は俊足のスイッチヒッターとして盗塁王に輝くなどチームを牽引してきた自負もある。だが、今回の「走魂」はそれだけが理由ではない。
昨オフには不動の三番・森友哉捕手がFAでオリックスに移籍。チームに大きな穴が空いた。現状でレギュラー野手は「山川、源田、外崎くらい」と指揮官も認める。投手を除く先発オーダー8人のうち、当確は3選手だけ。残る5つの椅子を全員で競い合うしかない。
しかも、昨季のデータを洗い直していくとチーム打率(.229)と同盗塁(60)はリーグワースト。最後まで優勝争いに加わりながら3位に終わった元凶は明らかだ。そこに森の退団と言うマイナス材料が加わっては、大きな手術に踏み切るしかない。急に打撃力が上がるものでないなら、全員で走り回ってそつのない野球を目指すしかない。
そんな新生レオの救世主として期待されるのがドラフト1位ルーキーの蛭間拓哉選手だ。ここまでの評判はすこぶるいい。
走攻守三拍子揃った即戦力外野手として早大から入団。所沢の自主トレ期間中にはランニングの講師を務めた秋本真吾氏(元陸上200メートル障害アジア記録保持者)から「久々に凄い脚を見た」と激賞されると、阪神でも指導経験のある同氏は「近本らと比べても遜色ない」と球界トップクラスの潜在能力に言及した。
さらに打撃でも昨年の本塁打、打点の二冠王・山川穂高選手が「あれは凄い。えぐい!」と激賞。こちらは「吉田正尚(オリックスからレッドソックス)がプロ1年目で来た時の打撃の感じと、いい勝負するかも」と驚きの声を上げている。
「近本+吉田正」なら、今すぐにでもレギュラー当確でチームの穴も埋まりそうだが、首脳陣もそこまで甘い考えはないだろう。
あるアマチュア球界関係者は「すべてに平均点以上の物は持っているが、突き抜けたものもない。2年目くらいからレギュラー定着が順当なところ」と冷静な判断を語る。これから、紅白戦、オープン戦と言った実戦形式の中で、長所も弱点も見えて来る。他球団のマークと言う“プロの洗礼”も浴びながら、どんな結果を残していくかが正念場となる。
西武の“生え抜き”として念願の入団
「相思相愛」のプロ入りだった。
群馬・桐生市生まれながら西武ライオンズジュニアで育ち、埼玉の浦和学院から早大。「一番行きたい球団だった」と蛭間が語れば、西武も即戦力の外野手を熱望していた。
現状、チームの外野争いは横一線と言ってもいい。昨年の実績から見れば愛斗選手が右翼の一番手ではあるが、それ以外は鈴木将平、若林楽人、金子侑司、岸潤一郎選手に、現役ドラフトで獲得した陽川尚将選手らの名前は上がるものの、決め手に欠ける。ここに割って入って来るのが、新外国人のマーク・ペイトン選手と蛭間だ。
ペイトンは昨季3Aながら3割近い打率に25本塁打、15盗塁を記録したパンチ力とスピードを兼ね備えた一番打者候補。蛭間も同タイプだけに負けられない。
自主トレ期間中には小宮山悟監督やかつて中日などで活躍した谷沢健一氏など早大OBが次々と蛭間を激励に駆けつけた。同校出身のドラフト1位は20年の早川隆久投手(楽天)以来、野手のドラ1となれば14年の中村奨悟選手にさかのぼる。大学野球の雄としては久々の大物の出陣だけに期待も膨らむ。
阪神に岡田彰布監督が復帰、ソフトバンクには有原航平投手がメジャーから戻ってきた。いずれも早大出身だ。ここに蛭間の活躍が加われば「ワセダイヤー」も夢ではない。
黄金期のレオ打線は清原和博、秋山幸二らの大砲だけでなく、石毛宏典、辻発彦、平野謙らの脇役たちが走り回り、隙のない機動力野球で圧倒した。
山川以外に長距離砲のいない現状では、「走魂」に活路を見出すのは必然である。大物ルーキー・蛭間が松井野球の申し子になれた時、チームは大きく生まれ変わっているはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)