復活に向けステップアップ
国指定の難病「黄色靭帯骨化症」の克服を目指しているDeNAの三嶋一輝。1月の厚木自主トレでも順調な調整を見せて周囲を驚かせていたが、キャンプインしてからも復活への歩みはさらに加速している。
13日は今季初となるライブBPに登板して打者と対戦。本人も「思っていたより出ていた」と驚いた球速は、トラックマンの測定で最速151キロ。力強いストレートを軸に、若手打者をきりきり舞いさせた。
「今までは踏み出す足がインステップしていた。それがまっすぐに直せた」という変化もあって、昨年はできなかった「右打者のアウトコース低めにボールが行った」と納得の表情。
「変化球も一通り投げました」と言い、その中には「チェンジアップ」も。「去年ファームの時にちょっと良いなと思って、法政の後輩の石川達也に教わった」という新球で三振も奪い、「バッターの反応もめちゃくちゃ良かった。抜く系なので、タイミングをずらして(バッターの体が)前に出てくれればすごく有効」と手応え。
つづけて「意図的に投げられたボールが多かった。半年とかぶりの実戦でそれができたことはすごく良かったなと思う。順調に来ているなと思います」と総括し、改めて充実ぶりを口にした。
「意図のあるピッチングの中に力強さを」
術後はほとんどの人が悩まされたという“痺れ”も今のところはなく、「全然違いますよ」と体調に不安はない。
また、奄美のグラウンドにはプールが併設されており、「泳いだり歩いたり、身体もほぐれるし奄美の環境はすごく良い」とB班スタートのメリットにも言及。
「元に戻そうというよりも、下半身を鍛えてしっかりと新しい自分を作ろうと。それが順調に来ているなと感じますね」と語り、明るい表情を見せた。
昨年のことを「キャンプで筋肉痛を感じなかったんですよ。いくら練習をしても、痛いとか力が入らないが勝っちゃって、筋肉痛がなかったんです」と振り返った右腕。「不思議なことに筋肉量は左右変わらない。だけど出力がめちゃくちゃ違った」と言い、苦心の連続だったことを明かす。
シーズンに入ってからも同様で、「症状があってどうしようかという時に、普段しないことを。全部インコースを突いてみようとか、シュートを投げてみようとか、あえてインコースにフォークを投げてみようとか……」と試行錯誤の日々が続いた。
しかし、今になってみれば「こういうことが全部残っていて、こうやれば抑えられるなという引き出しにもなった」と思わぬ副産物を得ることにつながったと言う。
こうした収穫を糧に、「いざ出力が出ましたという時にプラスに。去年は色々なことにトライせざるを得なかったので、それを今後に活かせればすごく良いなと思いますね」と、苦しんだ期間も前向きに捉えている。
また、「(今永)昇太にスライダーを教えてもらいました」とのことで、今のカット系のスライダーよりも斜めに曲がるボールにもチャレンジ中。
「これから実戦で使えるかどうかは、まだ投げていないのでなんとも言えないんですが、馬鹿みたいに力勝負ではなく、ちゃんと頭で考えて投げることを考えながら、意図のあるピッチングの中に力強さを」と狙いを明かし、11年目のスタイルチェンジにも意欲的だ。
持ち味である強気な姿勢にスマートさというスパイスも加え、病からの復帰だけでなくさらなる進化をめざして。
不屈の魂と飽くなき探究心。難病克服のその先には、まぶしい未来が待っている。
取材・文=萩原孝弘