白球つれづれ2023・第24回
巨人がようやく復調の兆しを掴んだようだ。
9日からの対ソフトバンク3連戦に勝ち越して、勝率5割から貯金1へ。戦いを振り返ると打線が活発化して得点力がアップ。投手陣も菅野智之が遅まきながら今季初勝利を上げれば、懸案だった中継ぎ陣に中川皓太が戻り、先発で結果の残せなかった新外国人、タイラー・ビーディーもセットアッパーとして、浮上のキーマンとなりつつある。
中でも頼もしいのが岡本和真選手の存在だ。
12日現在(以下同じ)打率.319に15本塁打、35打点はチームの三冠。特に本塁打部門では両リーグのトップを快走している。
昨年は5年連続の30ホーマーこそ記録したが、ライバルの村上宗隆選手(ヤクルト)に三冠王を許し、チームも2年連続でV逸と屈辱のシーズンとなった。
巻き返しを誓う今季は、主将にも任命されて重責が加わったが、そのバットは凄みを増している。
開幕直後の4月こそ2本塁打と静かな滑り出しながら、5月には9本のアーチを量産。交流戦に突入するとさらに加速してキング独走の勢いだ。
苦い思いを晴らすのはまさに原点回帰。迷いなく結果を残せているのは打席での内容が証明している。
今季のカウント別打撃成績を見ると、2-0が3打数3安打の打率10割。さらに1-1が7割、カウント別で最も本塁打を放っているのが2-1と0-1の3本ずつ。いずれも早いカウントから積極的に打って出ていることがわかる。昨年は打席での立ち位置を捕手寄りにずらしたり、クローズドスタンスにしたり、試行錯誤が続いたが、何より思い切りの良い打撃が好結果をもたらしている。
球宴ファン投票で岡本の得票が伸びない理由
頼もしい四番で主将。それでも球団関係者が頭を抱える問題はある。意外なほどの“不人気”がそれだ。
目下、オールスターゲーム(7月19、20日にバンテリンドームとマツダスタジアムで開催)のファン投票が行われているが、巨人の看板男の名前が上位にない。
これまでの推移はセ・リーグで好調の阪神勢が人気を独占。「球宴ジャック」の勢いだがそれにしても絶好調、岡本の得票が伸びないのは不可解な珍現象とも言える。
元凶は原辰徳監督の定まらない起用法にある。本職の三塁ばかりか、中田翔選手が戦列を離れると一塁に。三塁で新人の門脇誠選手が堅守を発揮すると、今度は外野に回すことも。これではファンもどこに投票すればいいのか? 迷うのも当然だろう。
二流選手ならまだしも、岡本はチームの顔であり、球界を代表するスターである。指揮官からすれば、調子の波の上がらないチームにあって、辛抱を求める苦肉の策だったかも知れない。それでも「便利屋」のような扱いには球団OBからも首を傾げる声が聞かれた。
かつてのように、巨人が。人気を独占する時代は終わり、集客にも苦労する球団の事情を考えれば、スター作りは絶対の条件。それを自ら放棄するようようでは、ファンならずとも寂しい思いにならざるを得ない。
毎年、オリックスが「オリ姫デー」と称してイケメン・コンテストを実施するなど各球団共に人気振興策に知恵を絞っている。「人気のセ、実力のパ」は昔の話で、企業努力を怠ればファン離れは、いよいよ加速する。
2年振りの本塁打、打点の二冠奪取に視界良好の岡本を男にするのも、首脳陣と球団の重要な責務であるはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)