今年も日米通算2730安打の青木宣親(ヤクルト)をはじめ、多くの選手たちが惜しまれつつ現役生活に別れを告げた。今季限りで引退した個性派3選手の記憶に残る珍場面、珍記録を紹介する。
まずは2016年に開幕から31試合連続試合無失点のセ・リーグ記録を樹立し、“タジ魔神”の異名をとった中日のリリーフエース・田島慎二にご登場願おう。実は、田島は3連続与死球というNPBタイ記録の保持者でもある。
プロ3年目の2014年7月4日の巨人戦、この日約2ヵ月ぶりに1軍登録された田島は、1-4の7回から先発・大野雄大をリリーフした。
ところが、久しぶりの1軍のマウンドとあって、力んでしまったのか、カウント1-1から村田修一の背中にぶつけてしまう。さらに次打者、レスリー・アンダーソンにも0-1から右腹部に連続死球。そして、2度あることは3度あった。次打者・長野久義にも2-1からスライダーがすっぽ抜けて、1979年の望月卓也(ロッテ)以来、NPB史上2人目の3者連続死球。無死満塁のピンチとなった。
しかし、ここから別人のようにシャキッとして、阿部慎之助、高橋由伸を連続三振、フレデリク・セペダを一ゴロに打ち取って、見事無失点で切り抜けた。
この“怪投”がチームに良い流れをもたらし、中日は8回に2点を返したが、反撃もあと一歩及ばず、3-4の惜敗。本人は「笑えない。ゼロで抑えられて良かったけど、それだけです」と終始伏し目がちだった。
ちなみに3連続死球を記録した東京ドームでは、2016年のシーズン終盤から2017年の開幕直後にかけて3試合連続サヨナラ被弾。17年6月25日の巨人戦でも、1点リードの9回に逆転サヨナラ負けを喫するなど、とことん相性が悪かったことも、今となっては懐かしい。
走攻守三拍子揃ったスイッチヒッターとしてロッテ、中日で12年間プレーした加藤翔平は、不思議な“ツキ”を持っている男でもあった。
ロッテルーキー時代の2013年5月12日の楽天戦、左太もも裏痛の角中勝也に代わって、この日1軍に昇格したばかりの加藤は、いきなり7番ライトで先発出場。「相手にデータがない分、警戒されないだろう」という伊東勤監督の作戦だったが、3回無死のプロ初打席で、永井怜の初球を右越えに先制ソロ。初打席の初球本塁打は、新人では1950年5月11日の塩瀬盛道(東急)以来63年ぶり2人目の珍記録。塩瀬は投手なので、野手では史上初の快挙だった。
「一番飛ぶところに来ましたね。初安打がホームランになるなんて。自分でもビックリです」と気を良くした加藤は、4、8回にも50メートル5秒69の俊足で内野安打2本を稼ぎ、デビュー戦を猛打賞で飾った。
だが、その後は当たりがピタリと止まり、わずか4安打でシーズン終了。尻切れトンボに終わったかに見えたが、どっこい、持ち前の強運は生きていた。
10月12日、西武とのCS第1戦で、加藤はまたしても初打席3ラン。シーズンとポストシーズンの両方で初打席本塁打を記録したのは、もちろん史上初の快挙だった。
翌14年も5月20日のヤクルト戦で通算2号のサヨナラ3ラン。第1号が初打席、第2号がサヨナラは、日本人では初めての珍記録だった(外国人では1999年にロッテのフランク・ボーリックが記録)。
そして、21年のシーズン中に加藤匠馬との交換トレードで中日に移籍すると、6月18日のヤクルト戦で、移籍後初打席で石川雅規の初球を左越えソロ。複数球団での初打席初本塁打はホセ・オーティズ(オリックス→ソフトバンク)以来2人目だが、2球団で初打席初球本塁打は史上初の快挙だった。
まさに“持っている男”の本領発揮だが、本人は「少し詰まったので、スタンドまでどうかなと思ったのですが、いろんな人の気持ちがスタンドまで運んでくれたと思います」と周囲の人々の支えに感謝していた。
1打席で2度“奇跡”を起こしたのが、西武・金子侑司だ。入団2年目の2014年6月29日のソフトバンク戦、2-7とリードされた5回無死、金子はカウント1-2から東浜巨のベース手前でワンバウンドするボール球に手を出してしまう。
必死でバットを止めようとした金子だったが、スイングは止まらない。空振り三振で一死と思いきや、幸運にもバウンドしたボールはかろうじてバットに当たり、まるで軌道が変わったかのように三塁線に転がった。
50メートル走5秒7の俊足・金子とあって、サード・松田宣浩は一塁に送球しても間に合わないと判断。打球が切れてファウルになるのを待ったが、なんとボールは切れることなく、三塁ベースに到達。まさかの内野安打になった。
引退試合となった9月15日のロッテ戦では、1番レフトで先発出場。7回まで4打数無安打の金子にもう1打席回そうと、8回はチームメイト6人がつなぎ、二死満塁で現役最後の打席が回ってきた。金子はカウント3-0から三塁ファウルゾーンに高々と飛球を打ち上げたが、捕手・佐藤都志也が追いつきそうだった打球をあえて捕らず、打席を続行させる“武士の情け”を見せる。
金子はフルカウントから遊直に倒れたが、「(6人が)つないでくれて感謝しかない。何とか(ヒットを)打ちたかったけど、このチームメイトとやってこられて良かった」と記憶に残るフィナーレに悔いなしの表情だった。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)
まずは2016年に開幕から31試合連続試合無失点のセ・リーグ記録を樹立し、“タジ魔神”の異名をとった中日のリリーフエース・田島慎二にご登場願おう。実は、田島は3連続与死球というNPBタイ記録の保持者でもある。
プロ3年目の2014年7月4日の巨人戦、この日約2ヵ月ぶりに1軍登録された田島は、1-4の7回から先発・大野雄大をリリーフした。
ところが、久しぶりの1軍のマウンドとあって、力んでしまったのか、カウント1-1から村田修一の背中にぶつけてしまう。さらに次打者、レスリー・アンダーソンにも0-1から右腹部に連続死球。そして、2度あることは3度あった。次打者・長野久義にも2-1からスライダーがすっぽ抜けて、1979年の望月卓也(ロッテ)以来、NPB史上2人目の3者連続死球。無死満塁のピンチとなった。
しかし、ここから別人のようにシャキッとして、阿部慎之助、高橋由伸を連続三振、フレデリク・セペダを一ゴロに打ち取って、見事無失点で切り抜けた。
この“怪投”がチームに良い流れをもたらし、中日は8回に2点を返したが、反撃もあと一歩及ばず、3-4の惜敗。本人は「笑えない。ゼロで抑えられて良かったけど、それだけです」と終始伏し目がちだった。
ちなみに3連続死球を記録した東京ドームでは、2016年のシーズン終盤から2017年の開幕直後にかけて3試合連続サヨナラ被弾。17年6月25日の巨人戦でも、1点リードの9回に逆転サヨナラ負けを喫するなど、とことん相性が悪かったことも、今となっては懐かしい。
史上初の快挙を達成!
走攻守三拍子揃ったスイッチヒッターとしてロッテ、中日で12年間プレーした加藤翔平は、不思議な“ツキ”を持っている男でもあった。
ロッテルーキー時代の2013年5月12日の楽天戦、左太もも裏痛の角中勝也に代わって、この日1軍に昇格したばかりの加藤は、いきなり7番ライトで先発出場。「相手にデータがない分、警戒されないだろう」という伊東勤監督の作戦だったが、3回無死のプロ初打席で、永井怜の初球を右越えに先制ソロ。初打席の初球本塁打は、新人では1950年5月11日の塩瀬盛道(東急)以来63年ぶり2人目の珍記録。塩瀬は投手なので、野手では史上初の快挙だった。
「一番飛ぶところに来ましたね。初安打がホームランになるなんて。自分でもビックリです」と気を良くした加藤は、4、8回にも50メートル5秒69の俊足で内野安打2本を稼ぎ、デビュー戦を猛打賞で飾った。
だが、その後は当たりがピタリと止まり、わずか4安打でシーズン終了。尻切れトンボに終わったかに見えたが、どっこい、持ち前の強運は生きていた。
10月12日、西武とのCS第1戦で、加藤はまたしても初打席3ラン。シーズンとポストシーズンの両方で初打席本塁打を記録したのは、もちろん史上初の快挙だった。
翌14年も5月20日のヤクルト戦で通算2号のサヨナラ3ラン。第1号が初打席、第2号がサヨナラは、日本人では初めての珍記録だった(外国人では1999年にロッテのフランク・ボーリックが記録)。
そして、21年のシーズン中に加藤匠馬との交換トレードで中日に移籍すると、6月18日のヤクルト戦で、移籍後初打席で石川雅規の初球を左越えソロ。複数球団での初打席初本塁打はホセ・オーティズ(オリックス→ソフトバンク)以来2人目だが、2球団で初打席初球本塁打は史上初の快挙だった。
まさに“持っている男”の本領発揮だが、本人は「少し詰まったので、スタンドまでどうかなと思ったのですが、いろんな人の気持ちがスタンドまで運んでくれたと思います」と周囲の人々の支えに感謝していた。
最終打席は“武士の情け”
1打席で2度“奇跡”を起こしたのが、西武・金子侑司だ。入団2年目の2014年6月29日のソフトバンク戦、2-7とリードされた5回無死、金子はカウント1-2から東浜巨のベース手前でワンバウンドするボール球に手を出してしまう。
必死でバットを止めようとした金子だったが、スイングは止まらない。空振り三振で一死と思いきや、幸運にもバウンドしたボールはかろうじてバットに当たり、まるで軌道が変わったかのように三塁線に転がった。
50メートル走5秒7の俊足・金子とあって、サード・松田宣浩は一塁に送球しても間に合わないと判断。打球が切れてファウルになるのを待ったが、なんとボールは切れることなく、三塁ベースに到達。まさかの内野安打になった。
引退試合となった9月15日のロッテ戦では、1番レフトで先発出場。7回まで4打数無安打の金子にもう1打席回そうと、8回はチームメイト6人がつなぎ、二死満塁で現役最後の打席が回ってきた。金子はカウント3-0から三塁ファウルゾーンに高々と飛球を打ち上げたが、捕手・佐藤都志也が追いつきそうだった打球をあえて捕らず、打席を続行させる“武士の情け”を見せる。
金子はフルカウントから遊直に倒れたが、「(6人が)つないでくれて感謝しかない。何とか(ヒットを)打ちたかったけど、このチームメイトとやってこられて良かった」と記憶に残るフィナーレに悔いなしの表情だった。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)